2024年2月22日(木)、ついに歴史は塗りかえられました。

 日経平均株価(225種)は19日(月)~21日(水)まで米国の金利上昇やAI(人工知能)熱狂相場の主役といえる米高速半導体メーカー・エヌビディア(NVDA)の決算発表を控えて、3日続落していました。

 しかし、日本時間22日(木)早朝、エヌビディアが2023年11月-2024年1月期の売上高が前年同期の3.7倍、純利益は8.7倍という驚きの好決算を発表すると、雰囲気が劇的に好転。

 22日(木)の市場開始直後、日経平均は前日比245円高の3万8,508円で始まると、午前中に何度か1989年12月29日の史上最高値3万8,915円を上回り、午後に入って上げ幅が一気に加速。

 前日比836円(約2.2%)高の終値3万9,098円まで上昇し、34年2カ月ぶりに史上最高値を更新する歴史に残る1日になりました。

 日本が祝日だった23日(金)の米国市場は米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)高官の相次ぐ早期利下げ否定発言でほぼ横ばいだったものの、機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は1週間で前週よりも1.66%上昇。一時、5,100ポイントの大台に乗せました。

 これを受けて、連休明け26日(月)の東京株式市場の日経平均午前終値は前週末比135円高の3万9,233円でした。これまで値を大きく上げてきた半導体関連の一角は利益確定売りに押されましたが、医薬品や化学などが堅調で最高値を再び更新しました。

 今週以降の日本株は日経平均の4万円乗せ、重厚長大産業の組入比率が高いTOPIX(東証株価指数)が22日(木)の終値2,660.7ポイントからあと8.5%ほど上昇して、1989年12月18日に付けた史上最高値2,884.8ポイントを更新できるかどうかに注目が集まりそうです。

 ただ、先週の歴史的な高値更新で相場参加者が一種の興奮状態にある可能性も高く、今週の日本株は仕掛け買いや利益確定売りなど、投資家同士の激しい駆け引きで波乱の多い展開になりそうです。

先週:驚異的なエヌビディア決算!日本株は割安大型株への物色も強い!

 日経平均を34年2カ月ぶりの史上最高値更新に導いたのは、日本独自の要因というより、米国の高速半導体メーカー・エヌビディアの予想をはるかに上回る空前の好決算でした。

 生成AIという、スマートフォンに次いで人類の生活を一変させるかもしれない新技術の急速な普及に世界中の株式市場が熱狂しています。

 21日(水)の決算発表で、エヌビディアの2024年1月期の1年を通じた業績は売上高が前期比2.26倍の609.2億ドル(約9兆1,700億円)でインテル(INTC)や韓国サムスン電子を抜いて半導体売上高世界一に。

 また、純利益は前期比6.81倍の297.6億ドル(約4兆4,780億円)で、売上の半分が純利益という目を見張る収益力を誇示しました。

 驚異的な売上・利益成長は2024年1月期に始まったばかりで今四半期の2024年2-4月期も前年同期比3.3倍の増収、6.1倍の最終増益を見込んでいます。

 ハードだけでなくソフト面でも他社を凌駕(りょうが)するデータセンター向け生成AI用半導体の優位性は今後も続きそうです。

 この驚異的な決算を受けて、23日(金)のエヌビディア株は前週末比8.54%上昇し、1年足らずで時価総額が1兆ドルから2兆ドル前後まで増加。アマゾン・ドット・コム(AMZN)を抜き、マイクロソフト(MSFT)アップル(AAPL)に次ぐ全米3位の大企業にのし上がりました。

 ただ、エヌビディアの決算発表直前の21日(水)深夜には、FRBが1月31日(水)に4会合連続で政策金利の据え置きを決めたFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事録を公表しました。

 インフレが確実に鈍化している証拠が出るまで、利下げは時期尚早でリスクが高いといった論調が大半を占め、市場が期待する2023年前半の早期利下げ論が後退。

 先週はまた、多くのFRB高官が発言。「年内に利下げするのが適切になる可能性が高い」といった声もありましたが、大半は「利下げを急ぐ必要はない」といった趣旨のものでした。

 FOMC議事録やFRB高官の発言を受けて、米国では長期金利の指標となる10年国債の金利が一時4.3%台まで上昇。今後の株価の上昇にとって不安要素になりそうです。

 日本株では半導体関連株が依然強いものの、先週の業種別上昇率ランキング上位だったのは商社など卸売業や鉄鋼業など、株価が割安な重厚長大産業の株でした。

 三菱商事(8058)は、米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏が保有することで注目されていることもあり、22日(木)の株価は前週比6.7%高と、上場来高値を更新。

 4月から国内外の鋼材販売価格の引き上げを表明した鉄鋼会社2位のJFEホールディングス(5411)が5.0%高となるなど、株価が割安な大型株が好んで買われました。

 TOPIXに対する影響力が高いトヨタ自動車(7203)が3.3%高、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)が3.3%高となるなど、「日経平均の次はTOPIXの史上最高値更新」という市場の思惑が感じられる物色動向でした。

 エヌビディアの好決算を受けて、日本の半導体製造装置メーカーの主力株・東京エレクトロン(8035)も週前半の利益確定売りを吹き飛ばし、22日(木)には前日比6.0%高。

 超高値圏にある半導体関連株が続伸できるかどうかも、今後の相場の鍵になるでしょう。

今週:バフェット氏「カジノ的」と警鐘!29日夜の米国物価指標で急騰小休止?

 今週は27日(火)発表の日本の1月CPI(消費者物価指数)や米国の民間調査機関コンファレンスボードの2月消費者信頼感指数などに注目が集まりそうです。

 29日(木)には米国の1月個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)も発表されます。変動の激しい食品・エネルギーを除くコアPCEデフレーターはFRBが最重要視する物価指標ですが、前年同月比2.8%増で高止まりする予想になっています。

 米国では、13日(火)発表の1月CPIが予想以上に高止まりして、しつこい物価高の継続や再加熱に対する警戒感が生まれています。

 そのため、29日(木)発表の1月PCEデフレーターが、日米の急騰相場を暗転させるゲームチェンジャーになる恐れがないとはいえません。

 先週22日(木)、日経平均が34年2カ月ぶりに史上最高値を更新したのは、ひとえに外国人投資家が割安な日本株を大規模な資金で買い上げているから。

 東証が22日(木)に発表した2月第2週(13日(火)~16日(金))の投資部門別売買動向によると、外国人投資家は日本の現物株を3,013億円買い越し。買い越しは7週連続になっています。

 最近、訪日外国人からも人気の高い北海道のスキーリゾート地・ニセコの物価が高騰し、キッチンカーで3,000円のカツ丼が売られているというニュースが話題を呼んでいます。

 ニセコを訪れる外国人にとって3,000円のカツ丼でも母国の物価水準から見ると安いと感じるように、外国人からすれば、日経平均が史上最高値を超えてもまだまだ安い、もっと高くても買いたいと感じているのかもしれません。

 実際、日本では株高と同時に再び1ドル=150円を超える円安が進行しており、ドル建てで見た日経平均は円安トレンドが始まる前の2021年2月(当時の為替レートは1ドル104~106円で推移)に付けた史上最高値に比べて、まだかなり下値に位置しています。

 とはいえ、エヌビディアのPER(株価収益率)はすでに65倍に達し、今期の純利益の65年分を織り込む水準まで上昇。

 24日(土)には米国著名投資家のバフェット氏も、会長を務める投資会社バークシャー・ハザウェイの「株主への手紙」で、最近の株価高騰は「カジノ的」と警鐘を鳴らしました。

 ただバブルがいつ弾けるかは誰にも分かりません。

 先週21日(水)のエヌビディアの決算前は、決算が予想と同じ程度なら材料出尽くしで急落もありうると市場は身構えていました。しかし、予想をはるかに超える驚異的な決算が出た以上、なんらかの悪材料が噴出しない限り、日米の株価の上昇はもうしばらく続きそうです。

 今後、不安材料になりそうなのは、3月の年度末に向けて、株高で資産に占める日本株の比率が高くなったGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)など年金資金や機関投資家が資産配分の再調整のために日本株を売ることぐらい。

 日本銀行が、相場停滞期に「金融調節の一層の円滑化を図る」ために約37兆円以上の資金で買い支え、いまや30兆円以上の含み益が出ているという日本株ETF(上場投資信託)を売却するのでは、といった話が浮上するかもしれません。

 ただ、金融緩和に積極的なハト派を標ぼうする植田和男日銀総裁がそうした劇的な政策に踏み切る可能性は少ないでしょう。

 米国の金利上昇は日米金利差拡大で円安トレンドにつながるため、日本株にとっては逆に追い風です。

 意外に早く日経平均4万円乗せ、TOPIX史上最高値更新という新たな歴史の1ページが開かれるかもしれません。