米雇用情勢は本当に強いのか?

 米国の労働省が2月2日に発表した1月の雇用統計での非農業部門雇用者数は、市場予想を大幅に上回る前月比35万3,000人の増加、昨年12月分も改定値で33万3,000人増に大きく引き上げられました。「予想を大幅に上回り、米国の雇用は強い!」との声が渦巻いています。

 ただ、この数字に違和感を持っている人も少なくないのではないでしょうか?

 米国ADPの雇用者数は12月が前月比15万8,000人増、1月は前月比10万7,000人増と低調な数字となっていて、米国ISM(米サプライマネジメント協会)景気指数の雇用指数も12月は製造業が48.1、非製造業は43.3と、ともに良しあしの分岐点である50を割り込み、特に非製造業は大きく落ち込んでいる中で、今回の「雇用は強い」という非農業部門雇用者数の発表でした。

 本当に米国の雇用情勢は強いのかですが、実は同じ米国労働省が発表している別の公表値で見ると全く違う景色になっています。

 このため、今回、この点についてお伝えをしていきたいと思います。

米雇用統計のうち家計調査は弱い、強い一辺倒の判断は危険?!

 まず、米国労働省が発表している雇用統計は、「Household data」と「Establishment data」の二つがあります。

「Household data」は家計調査によるもので、失業率や労働参加率は「Household data」の値となっています。「Establishment data」は事業所調査によるもので、非農業部門雇用者数、平均賃金は「Establishment data」の値となっています。

 ここ1年の非農業部門雇用者数の推移を見ていくことにしましょう。

(表1)米国労働省「Establishment data」非農業部門雇用者数の推移

出所:米国労働省労働統計局(BLS)公表データよりマネーブレインが作成

 今回の「Establishment data」の発表においては年次ベンチマーク改定が行われていて、2023年3月までの12カ月間の非農業部門雇用者数が26万6,000人下方修正され、季節調整係数も改訂されています。

 その結果として、1カ月前に発表された値と比較してみると、2023年に雇用が大幅に増えた形となっており、直近の11月、12月は上方修正され、今回発表された1月の数字もとても強いものとなっています。

 この推移を見ると、誰が見ても「米国の雇用は強い!」となるでしょう。

 では、本当に雇用は強いのかですが、実は同じ米国労働省から「Household data」の方でも注目されない中で雇用者数が発表されていて、ここ1年間の推移を見ると、次のようになっています。

(表2)米国労働省「Household data」雇用者数の推移

出所:米国労働省労働統計局(BLS)公表データよりマネーブレインが作成

 表2を見ると、表1の「Establishment data」の非農業部門雇用者数とは全く違った景色となっています。

 表1の「Establishment data」においては雇用者数の増加が続き、特に直近の12月、1月の数字は前月比でプラス30万人台と、とても強い数字になっています。

 その一方で、表2の「Household data」の値を見ると、直近においては10月、12月、1月の値が前月比マイナス、かつ、昨年8月以降の6カ月の累計はマイナス5万7,000人と、この半年間で雇用者は減っている状態であることが分かります。

 市場で注目されている「Establishment data」の非農業部門雇用者数はとても強く、ほとんど注目されていない「Household data」の雇用者数はとても弱いという真逆の形となっています。

「Household data」の雇用者数には農業従事者が含まれる一方で、「Establishment data」の非農業部門雇用者数にはそれらが含まれないという違いがあるので、全く同じ比較対象ではありませんが、毎月の増減数やその傾向について、比較する意味はあると考えています。

 同じ米国労働省が出している数字においても、このように見え方は全く違ってきます。

 どう解釈するかはあなた次第ですが、米国ADP雇用者数の推移や米国ISM景気指数における雇用指数、ここ直近で出ている上場企業レイオフのニュースなどを鑑みると、「Establishment data」の前月比の数字は違和感があり、「Household data」の数字、もしくは足して2で割った値のほうが実態に近いように思います。

 少なくとも、「Establishment data」の非農業部門雇用者数だけで「米国の雇用は強い!」「米国経済は強い!」と判断するのは、危ういのではないかと私は考えています。

 投資はあくまでも自己責任で。