なぜ災害時にニセ情報が増えるのか?

 能登半島地震発生後、「ニセ情報」の話題を見ない日はほとんどありません。災害発生中にあり、不安やいら立ち、同情や善意が交錯する中、こうした心情を利用して不正に利益を得ようとする行為が発生しています。これは今回に限ったことではありません。これまでに大規模な災害や事故が発生した時にも見られました。

図:社会問題として目立つ「災害発生時のニセ情報」

出所:筆者作成

 とある専門家は、災害発生時にニセ情報を使って不正に利益を得る行為は「悲劇の現金化」だと、指摘しています。また、ニセ情報が行き交うことで、正しい情報や支援が行き渡らずにさらに困難に陥ってしまう人が後を絶たないといいます。ニセ情報はなぜ、広がってしまうのでしょうか。

 災害時に発生しやすい不安やいら立ち、同情、善意などの心情は、多くの人の間で「共感されやすい」性質があります。SNSが共感に拍車をかけ、こうした心情を伴った情報は急速に拡散します。この拡散の際に、ニセ情報がまぎれ込んでしまいます。熊本地震の際は、「動物園からライオンが放たれた」という強い不安をかき立てるニセ情報が広がりました。

 今回の能登半島地震においても、実在しない地域を記載して助けを求めたり、助けを求めつつ不正に寄付を募ったりする投稿が相次いでいます。そしてそうした情報に不安やいら立ち、同情や善意を感じ、ニセ情報だと知らずに拡散してしまうケースが多いといいます。

「10秒待つ」がニセ情報拡散を止める

 一部の悪意がある人が、拡散しやすいことを逆手に取り「共感しやすい情報」にニセ情報をまぎれ込ませているといわれています。一般の市民がこうしたニセ情報を拡散させないために、どのようなことに気を付けるとよいのでしょうか。

図:災害時に「共感しやすい情報」を見た時の対応方法(一例)

出所:筆者作成

 各メディアは、インターネット上の投稿や記事に驚いたり不安になったりしたときは、まずは冷静になった上で、信頼できそうな情報と見比べることが重要であると述べています。確かにそのようにすれば、ニセ情報を拡散しないようにできるかもしれません。

 筆者はこの一連の動作の中で、冷静になることが、最も重要であると考えます。驚いたり不安になったりすることは人間である以上、避けられない部分はあります。それでも冷静になれば、誰かに伝えて拡散することを踏みとどまることができます。踏みとどまる際の動作として「10秒待つ」が有効であると考えます。飛びつかずに10秒待てば多くの場合、冷静になれます。

 怒りをコントロールする際の考え方である「アンガーマネジメント」では6秒待つことで冷静さを取り戻せるとされることがあります。筆者は冷静さを取り戻すためには、少なくとも、アンガーマネジメントと同様の6秒、きりがよいところで10秒は必要だと考えています。

 また、個人差があるかもしれませんが、スマートフォンの小さい画面よりも、パソコンの大きい画面で情報を閲覧する方が冷静になりやすいと感じます。小さい画面で集中して感情を高ぶらせるよりも、大きい画面で網羅的に情報を閲覧できた方が、冷静さを欠きにくいと感じます。

 仮に、スマートフォンで共感しやすい情報を閲覧していた場合は、「スマートフォンをいったん横において10秒待つ」のが良いと思います。

図:「疑うこと」の効果

出所:筆者作成

 冷静になれば、その情報の詳細を確認することができます。諸メディアが言う通り、災害発生時は特に「共感しやすい情報」にこそ、ニセ情報が含まれていると考えるべきだと思います。

「共感しやすい情報」に良くも悪くもあおられずに、疑いの目を向けて接することが重要です。一部の悪意ある人の収益稼ぎに加担しないためにも、この点は大変に重要です。疑う際のポイントは上図の通りです。

 疑ったり批判的に物事を考えたりすることは、必ずしも悪いことではありません。冷静な状態で、疑ったり批判的に物事を考えたりすることは、本質を探ること、新しいものをつくること、他者を思うことにつながるためです。

 しばしば耳にする「深掘り」で得られる効果に似ています。災害時に発生しやすい「共感しやすい情報」をこうした姿勢で捉えることで、一方通行ではない中立的な姿勢でその情報を見ることができます。この時点で、その情報がニセ情報かどうかをおおむね見分けることができているでしょう。

 災害発生時に限らず、たとえ共感しやすい情報を目の当たりにしたとしても、見たいように見ない、聞きたいように聞かない、感じたいように感じない、信じたいように信じないという、批判的思考に裏付けられた中立的な考え方でそれらと接することができれば、ニセ情報を拡散することは、ほとんどなくなると筆者は考えます。

「原油相場は上がってしまう?」の心理

 市場分析において、批判的思考に裏付けられた中立的な考え方が必要な例を挙げます。原油市場の分析です。市場関係者と原油市場の動向について話をしていると、しばしば「そうすると、原油相場は上がってしまうのですか?」と返答をいただくことがあります。

 頻度は、多くはありませんが、少なくもありません。こうした発言には、原油相場が上昇することを回避したい、という「思惑」が含まれていると感じます。「上がってしまう」という言葉に、中立性を欠いている印象を受けます。

 以下の図の通り、原油市場は株式市場と異なり、上昇も下落も中立です。中立な市場において、「上がってしまう」と考えることは、自らが消費国側の立場のみで分析していることを露呈することになります。

 原油市場は、産油国と消費国の両方の思惑を織り込んで分析する必要があります。「中立であること」が強く求められる分野なのです。この意味で、原油市場の分析には、先述の批判的思考が欠かせないことが分かります。

図:株式市場と原油市場のちがい

出所:筆者作成

向こう側(産油国)の心理状態を考える

 以下の通り、主要な西側の消費国は、ガソリン車の新車販売を具体的な期限を決めて禁止することを決めるなど、「脱炭素」を掲げて石油を使わない世界を目指しています。そしてその向こう側のOPEC(石油輸出国機構)プラスを中心とした非西側産油国は以下の通り、それにあらがう姿勢を鮮明にしています。両者の思惑が衝突しているのです。

 2023年春、日本でとある要人が原油相場は「当面売りが続く可能性がある」と発言しました。欧米の銀行の連鎖破綻をきっかけに、需要が減退することをその理由に挙げていましたが、その後も原油相場は高値を維持し、一時は90ドルを超える場面もありました。

 需要減退→原油相場下落という需要面だけでなく、同時進行していたOPECプラスの減産→供給減少→原油相場上昇という供給面のシナリオを加味する中立的な分析が必要でした。

図:消費国の向こう側にいる産油国の考え

出所:筆者作成、イラストはPIXTA

 IMF(国際通貨基金)は、2023年と2024年のサウジアラビアを含む主要産油国の財政収支が均衡するために必要な原油価格を70ドル近辺とみています。産油国は「この水準を割らせたくない」と考えている節があります。

 OPECプラスは2023年6月の会合で、減産を2024年12月まで続けることを決定しています(減産の規模が変わる可能性は大きい)。このような産油国側の状況を考慮しなければ、中立的な原油市場の分析はできません。

2024年も原油相場は長期視点の高止まりか

 産油国側の思惑をも考慮した中立的な分析のためには、以下に記したテーマごとに材料を抽出する必要があります。短中期的に注目すべきテーマは、「産油国の動向」と「需要動向」です。「気候変動」や「省エネ技術」については、より時間軸が長い期間の分析で用います。

 2024年の動向を考える際は、「産油国の動向」と「需要動向」に関わる材料に絞ることがよいと考えます。

図:原油市場を取り巻く環境(2024年 筆者イメージ)

出所:筆者作成

「産油国の動向」:中東地域からの供給減少懸念(実際に減少するかは別)や西側・非西側の分断を遠因としたOPECプラスの減産、脱炭素推進によって発生している米国の供給鈍化などが目立つ可能性があると考えています。いずれも原油相場を押し上げ得る材料です。

「需要動向」:米国で金融政策が緩和的になることで景気回復・需要回復が目立つ可能性があることは原油相場を押し上げ得る材料です。一方、中国の景気減速懸念が根強く、同国の原油消費量の伸びが鈍化する可能性があります。この点は下落材料です。

 2024年は、このような複数の材料が入り混じりながら、価格が推移すると考えられます。需要面だけに注目して分析をすることはできません。

図:2023年に目立った動向と2024年の予想

出所:筆者作成

 こうした分析により、「2024年の原油相場予想 60ドルから最大120ドル」で述べたように、2024年の原油相場は60ドルから最大120ドルの間で推移すると考えます(2024年1月22日時点)。

 本レポート前半で述べた「共感しやすい情報」にあおられずに、疑いの目を向けて接することは、災害発生時だけでなく、ネット社会で生きるための最低限の作法であると筆者は考えています。「共感しやすい情報」だからといって、安易に飛びつかないこと、むやみに拡散しないこと、悪用しないことは大変重要です。

 ネット上の情報収集にあっては、目に見えない要素が多いからこそ、対面でのコミュニケーションのときに比べて何倍も、あおられず、疑う心を忘れてはならないと思います。このことは、投資情報を収集する際の作法でもあると思います。

[参考]エネルギー関連の投資商品例

・国内株式(新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)成長投資枠活用可)
INPEX
出光興産

・国内ETF(上場投資信託)・ETN(新NISA成長投資枠活用可)
NNドバイ原油先物ブル
NF原油インデックス連動型上場
WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油価格連動型上場投信
NNドバイ原油先物ベア

・外国株式(新NISA成長投資枠活用可)
エクソン・モービル
シェブロン
オクシデンタル・ペトロリアム

・海外ETF(新NISA成長投資枠活用可)
iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ファンド
グローバルX MLP ETF
グローバルX URANIUM ETF
ヴァンエック・ウラン原子力エネルギーETF

・投資信託(新NISA成長投資枠活用可)
HSBC 世界資源エネルギー オープン
シェール関連株オープン

・海外先物
WTI原油(ミニあり)

・CFD
WTI原油・ブレント原油・天然ガス