日経平均4万円突破のシナリオも

──1月から新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)が始まり、従来制度よりも運用益に対する非課税枠が拡充されました。株式相場への影響はどのようにみていますか?

 国が国策として投資をしろと言っているので、使わない手はありません。日本人も昨年からインフレを実感してきて、お金が目減りするリスクを認識するようになりました。資産運用をしようという人が増えてきています。

 ただ、日本人は逆張り(上昇局面で売り、下落局面で買う投資手法。相場がこれから逆方向に振れることを期待してもうけを狙う)が好きです。今は割高だからとためらっている人が多いと思います。コロナショックの時に証券口座が増えたこともあるので、相場が一度大きく下げた方が取引に参加しやすく、口座数はもっと増えると思います。

──日経平均株価は今年どのくらいになるとみていますか?

 二つのシナリオが考えられます。一つ目は、米国経済がソフトランディングして、為替の影響を受けながら、日経平均が3万円から3万5,000円のレンジ相場を基本的に行ったり来たりするシナリオです。一時的にオーバシュート(相場の行き過ぎた変動)することがあってもおおむねこのレンジ内で、大きく上がりも下がりもしないシナリオです。

 もう一つは米国が今年前半にハードランディングするシナリオです。米国株も日本株もいったん大きく下げますが、FRBが急速な利下げを実施して、日経平均が4万円を突破するというものです。

 FRBが政策金利をFOMC(米連邦公開市場委員会)会合ごとに0.25%刻みではなくて、2%、3%と一気に引き下げれば、2020年のコロナショックのように米国の株価が急速に回復して、日本株も大きく上がるシナリオです。そうなれば投資に二の足を踏む人たちも一斉に市場に入ってくるので、新NISAの効果が発揮される局面になります。

 今の状況だと、米国は積極的に利下げしなくてもいいし、市場は利下げ分を織り込んでいるから、相場の上げ余地がなく、米国株もあまり上がらないし日本株もあまり上がりません。そうなるとレンジ相場になってしまいます。

1ドル=150円が為替相場の中心に

──昨年は11月に1ドル=151円台後半を付けるなど円安進行が一昨年と同様に目立つ年となりました。今年の為替相場はどうみますか?

 今の円安は日本政府の国策だと考えていて、大きく円高になるとは思いません。円高になるのはトランプ氏が大統領に再選された場合です。米国は今の円安に文句を言っていないので、日本が文句を言われない以上は、日銀は金融政策を変える必要はないし、輸出企業は業績が良いので、この円安が続くと思います。

図:対ドルの円相場(買い呼び値ベース)

 ただ、円相場の中心的な相場ミッドポイントは、1ドル=150円になったかもしれません。昔は1ドル=100円が相場の中心でした。今は1ドル=120円なら円高、逆に1ドル=170円なら円安ということです。

 これは地政学の変化を反映していて、米国は中国から日本にサプライチェーンを運ばないといけない。米国企業も日本に進出したい、ドル建てで日本の労働コストを低くしないと米国が困ります。

 今の円相場は日本の実質実効為替レート(貿易量に加え物価変動を考慮した通貨の購買力を示す指標)からすると過去最低レベルです。固定相場制の時代の1ドル=360円より円の通貨価値が下がったということです。米国との間でも円安の合意が取れていると思います。でなければ、米国が円安について日本に文句を言ってきたと思います。

──パレスチナ・ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスとの武力衝突は解決の糸口が見えていません。中東全体に戦火が拡大するリスクもあります。原油価格などどのような影響があると考えていますか?

 原油に関しては、サウジアラビアが1月7日に原油価格を引き下げると発表しました。原油価格は1バレル=70ドル前半を中心に動いていますが、中東の地政学的リスクがなければもっと低かったと思います。

 ただし、大きな原油消費国である中国の調子が悪いので、原油の需要が低迷しています。サウジは今原油価格を下げないと消費国が景気悪化でもっと買わなくなると見通して値下げしたのだと思います。地政学リスクがなければ、原油は1バレル=60ドルを割っていた可能性すらあると思います。

リスク分散で日本株3割、世界株か米国株3割、米債2割、金2割

──リスク分散をするなら、投資地域の分散はどのように考えますか?

 私だったら日本株に3割、世界株もしくは米国株に3割、米債に2割、ゴールド(金)に2割でしょうか。米債は高金利で、金利が下がっても債券価格が上がります。金は今年上昇が続かなくても、長期で持てば負けづらい投資で、安全な可能性が高いです。金はETF(上場投資信託)もあって投資がしやすく手数料も安いです。

 新興国は波乱の年で判断が難しいです。中国は厳しいです。インドは昨年上がったけど新興国の中ではまだいいかもしれません。ベトナムは市場としては未熟です。新興国よりも欧州も含めて先進国の株の方がいい。ドイツ株も昨年上がりました。

 欧州はユーロ上昇も加味したら日経平均並みかもしれません。ウクライナの支援疲れと言われますが、戦地に軍事物質を支援することは財政出動をしていることと同じです。自国企業に発注しているので景気が良くなります。

 今年は米大統領選など世界的な選挙イヤーですが、選挙結果は予想できないし、分かりません。それよりはファンダメンタルズに集中して、企業業績をちゃんと見た方がいいです。(インタビューは1月9日に行いました。聞き手はトウシル編集チーム 田嶋啓人)

 エミン・ユルマズ氏 1980年生まれ。トルコ出身。1997年に日本に留学し、東大院修士課程修了。2006年野村証券。2016年から複眼経済塾取締役・塾頭。近著に『夢をお金で諦めたくないと思ったら 一生使える投資脳のつくり方』『世界インフレ時代の経済指標』