米大統領選でトランプ氏が返り咲けば株価は上がる!?

──11月の米国の大統領選に向けて相場が変動するリスクが指摘されます。どう向き合えばいいでしょうか?

 米大統領選自体はあまり相場に関係ありません。ポイントは米国景気がこのまま持つかどうかです。大統領選の時は、株価は下がらないと言われますが、大統領選があった2008年のリーマン・ショックや2020年のコロナショックで下がったので、実は関係ありません。

 今年は大統領選などのイベントよりも、米国景気が悪化するのか、株式市場がいつそれを織り込むのか、企業業績のガイダンスで大きな下方修正があるのか、そうしたファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を見た方がいいです。瞬間的な乱高下はあるかもしれませんが、一年を通せばあまり変わらないと思います。

──トランプ政権が再び誕生した場合にウクライナ支援の縮小など政治や経済に混乱をもたらすのではないかと危惧する意見もあります。こうしたリスクはどうお考えでしょうか?

 トランプ氏が再選した方が株価は上がると思います。一期目もそうでしたが、トリクルダウン経済(富裕層が豊かになると、経済活動が活発化し低所得の貧困層にも利益が再分配されるとの理論)、サプライサイド経済(法人税減税や規制緩和などを通じた供給力強化を図り、経済成長を目指す考え方)政策を再び展開することになるので、株式市場にはむしろプラスに働きます。

 バイデン大統領が再選された方がマイナスになる可能性があります。

 というのもバイデン政権が2期目になるとレガシー(遺産)を残そうとします。つまり社会保障制度を充実させるため富裕層や法人への増税など左派的な政策をするので、相場にマイナスになると思います。トランプ政権になった場合は、ウクライナ支援の縮小が予想されますが、相場に大きく影響はしないと思います。

──日本にとってトランプ氏が再選された場合のリスクは?

 日本のプラス面とマイナス面を考えるのは難しいです。トランプ政権の一期目が日本にとってマイナスだったかというとそうではありませんでした。トランプ政権と日本が当時ある程度、うまく付き合えたのは安倍晋三首相がいたからだと思います。今は安倍氏のような存在がいないので、トランプ氏が再選された場合、日本とフレンドリーにするか分かりません。

 相場の懸念点は、米国株は上がっても、トランプ氏が円安を是正しろと日本に言ってくる可能性です。現在のバイデン政権からは円安への文句はありませんが、トランプ氏が再選されたら、対日貿易赤字が大きいから何とかしてくれ、米国から製品を買ってくれと言ってくる可能性は大いにあります。

日銀の政策修正がマイナス金利解除だけなら「無視していい」

──日銀がこれまでの大規模金融緩和を修正し、マイナス金利の解除など政策の正常化をすると市場では見込まれています。日銀の金融政策にどのような見通しをお持ちでしょうか?

 マイナス金利解除には僕は価値を置いていません。日銀が金融政策の正常化を目指すなら政策金利を2%くらいまで上げないといけませんが、そこまでしないと思います。

 マイナス金利を解除して政策金利をマイナス0.1%から0%にするだけなら大した影響はありません。日本のインフレの状況だと、本来なら利上げを2%くらいして金融政策の正常化をしないといけませんが、そこまで利上げをする可能性はほぼゼロだと思っています。引き締めには政府から政治圧力が日銀にかからないとできませんが、そうした圧力はかかっていないと思います。

 逆に日銀が金融緩和を続けられるのは政治圧力を受けていないからです。日本人には物価高への不満はあっても、金融政策のせいだという認識があまりありません。インフレはコロナ禍から続くサプライチェーン(供給網)問題など世界的な流れだと受け止めていて、金融政策や為替政策が悪いとは思われていません。

 むしろ日銀が引き締めをして景気が冷え込んだ場合、日銀はその責任を追及されます。そういう観点で考えると、現状維持で十分です。マイナス金利を解除するかどうかはちっぽけな話で、政策金利を2%に上げないのであれば、円相場や株式市場にとって、日銀の政策はほぼ無視していいと考えています。

 どちらかというと米国のFRB次第です。為替相場は日銀の植田和男総裁の発言を口実に短期的に乱高下することはありますが、気にしなくていいと思います。対ドルでの円相場は日米の10年金利差でぴったり動いていますが、日銀が本格的な政策修正をしないのなら、日本の10年金利が上がる余地はありません。

──日銀が長期金利を低く抑えるYCC(イールドカーブコントロール、長短金利操作)政策で長期金利(10年金利)の上限を「1%をめど」にしています。日本の長期金利がその上限越えを目指して上がる可能性はありませんか?

 日本の金利は米国の金利と連動しています。米国の長期金利が昨年10月に5%を超えた後、日本の長期金利も10月末から11月初旬に0.9%台まで上がりましたが、米金利が下がって日本の金利も0.6%前後くらいに落ち着いてきています。米国の金利が下がっているのに日本の金利が上がることは考えられません。

──金利の先高観や金利のある世界といったことが言われますが、日銀の政策修正を強く織り込み過ぎた見方でしょうか?

 そうですね。日銀はそこまで動かないと思います。インフレ率が5%くらいまで上昇して国民が悲鳴を上げて、インフレをほったらかした日銀が悪いと糾弾されない限り、日銀は本格的な政策修正に動かないと思います。現状は、物価高の要因が金融政策だと捉えている人はほとんどいません。

 政府はむしろ今の円安をポジティブに捉えています。物価高に対して金融政策や円安を修正する議論をしていません。政府は物価高対策として、給付金の配布や所得税・住民税の減税で対応しようとしていますが、根本治療ではなくて、痛み止めをしているだけです。いずれの対策も本来はインフレ要因です。

 政府も日銀もこれまで30年間デフレに悩まされてきたので、インフレはコロナ禍での供給不足による一過性のもので、長続きしないと思っているのでしょう。しばらく待てば落ち着くので、金融政策を大きく変える必要がないと判断しているのではないでしょうか。YCC修正は時間稼ぎで、本格的な政策修正はできないと思っているのではないでしょうか。

──今年の春闘では昨年を上回る賃上げがあるとの予想が多いですが、賃金インフレはどう考えますか?

 賃金インフレが起きればもちろん日本経済にプラスです。日本の実質賃金はマイナスが続いてきたので、プラスに転じる時期が近づいている可能性があります。日本でこれまで賃金が上がらなかった理由は、経営者もインフレは一過性だと思っているからです。

 日本では一回賃上げをしてしまうと低く戻すことはできないので、経営者はためらいがちです。賃上げをしないと人材確保ができなくなるとの焦りも生まれつつありますが、ボーナス(一時金)の増額はしても、基本給を一律に上げるベースアップには慎重です。物価高が落ち着けば、労働コスト増加分を転嫁して商品価格を上げられなくなってしまいます。

 ただ、これは地政学的な変化をあまり加味していない考え方です。米国と中国が対立している以上、世界はインフレにならざるを得ません。中国を通商や投資の方程式から外したら、製造コストが増えます。

 その考えがまだ浸透していません。台湾有事が起きたら物流が止まり、物価がもっと上がる可能性があります。経営者のマインドがインフレの時代だと変われば、賃上げに対する考え方も変わってくると思います。

──中国経済の不振は日本経済にどういった影響を与えますか?

 日本経済にすぐに影響があるとしたら、日本の工作機械です。その中に半導体製造装置も含まれます。自動車メーカーにも影響は出てきます。ただ、日本企業も中国リスクを前々から認識してリスクを減らしてきているので、昔ほど影響は出ないと思います。

 以前は香港株が下がったら、日経平均も下がっていましたが、今は関係が薄くなっています。相場的には中国とデカップリング(切り離し)が進んでいます。日本も米国も中国との商売があるので100%引き離せませんが、中国の景気悪化で昔みたいに相場に大きく影響を与える関係性はもはやないと思います。

──サプライチェーンの過度な中国依存を減らしながら、中国との経済関係を保つデリスキングがある程度うまくいっているという認識でしょうか?

 うまく回っていると思います。