リサイクルのための自動車の廃触媒が不足しているのは一時的な現象とされてきたが、その要因を探ると、この現象は今後も続く可能性があることがわかってきた。最新の『プラチナ四半期レポート』では、2024年のリサイクル供給は前年比で7%増えるとしたが、これは過去10年間の平均よりも17%少ない。リサイクル率が上がらなければ、2025年~2027年の間のプラチナ供給の不足分が年間約9.3トン増える可能性がある。

 2013年から2021年の間のプラチナのリサイクル供給は安定しており(図1)、年間平均で62.2トン近くあった。この時期は宝飾品からリサイクルされるプラチナが減り、それを自動車の廃触媒のリサイクルが補っていた。宝飾品リサイクルの減少は、プラチナ宝飾品需要が伸び悩んだため、新旧交換で持ち込まれる古い宝飾品が減ったからだ(図4)。そして廃触媒から回収されるプラチナが増えたのは、排ガス規制の強化に対応して触媒装置に担持されるPGMが増え続けていたためだった。しかし2022年以降、自動車触媒のリサイクルは激減している。 

 この原因として、当初はコロナ禍によって自動車生産が減り、また半導体不足問題で新車が足りず人々が車に長く乗るようになったためと見られていた。しかし2020年、2021年と8,000万台に達しなかった普通乗用車生産は、今年は9,000万台とされているにもかかわらず、自動車触媒のリサイクルは依然減り続けているのだ。この低いリサイクル率の原因として3つの要因が考えられる。

図1:プラチナのリサイクル供給は自動車触媒が主流

資料:2013年~2018年はSFA(オックスフォード)、2019年~2024年(予測)はメタルズフォーカス、WPICリサーチ

図2:廃車までの期間は延びている

資料:2009年~2012年はジョンソン・マッセイ、2013年~2018年はSFA(オックスフォード)、2019年~2024年(予測)はメタルズフォーカス、WPICリサーチ 注:使用年数は13年

 まず、第一に在宅勤務などで車の年間走行距離が約5%減ったこと(図7)。第二に車のコストが上がったこと。米国の金利上昇(現時点で+1.9%)と自動車価格の上昇(新車と中古車ともに2020年よりも2割以上アップ)、車の毎月のローン返済額は2020年以降22%上昇した(図6)。車の使用年数が延びれば、廃触媒がスクラップヤードに持ち込まれる時期が先延ばしになる。需要に対するリサイクル供給の割合を「リサイクル率」とすれば、PGMのリサイクル率は、2022年までは徐々に増えていた(図2)が、その後急落した。しかし、上記二つの要因で車の使用年数が1年から2年延びたとしても、実はリサイクル率は過去のパターンから大きく外れない。低いリサイクル率の第三の理由として、PGMバスケット価格が現時点で4割下がっている(図8)ため、リサイクル業者は値段が上がるまで処理を待っていると言われている。

 PGMは繰り返し利用できる特性を持つ材料だが、自動車触媒のリサイクル率が2024年になっても回復しなければ、2025年~2027年のプラチナ供給は28.0トン減る可能性があり、プラチナの供給リスクと供給不足が顕著になるだろう。さらにパラジウム市場は供給余剰になるまでの期間が延びる可能性もある。

2024年のプラチナのリサイクル供給は、10年平均を17%下回る

車の使用年数の延び、生活費の上昇、業者の廃触媒備蓄などが自動車触媒のリサイクル供給に圧力

自動車触媒リサイクルの現象で年間プラチナ供給は約9.3トン少なくなる

投資資産としてのプラチナ

- WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続く
- プラチナ供給は鉱山生産、リサイクル共に問題が多い
- 自動車のプラチナ需要は2024年もガソリン車の代替需要を主に成長が期待できる
- プラチナは世界の水素経済を支えるエネルギー転換に不可欠な重要鉱物
- プラチナ価格はゴールドとパラジウムに比べて大幅に低いまま

図3:廃車の減少で、2022年から2024年(予測)までのリサイクルからのプラチナ供給は減っている

資料:2013年~2018年はSFA(オックスフォード)、2019年~2024年(予測)はメタルズフォーカス、WPICリサーチ

図4:プラチナ宝飾品のリサイクルは新旧交換に不利な価格とプラチナ価格の下落で低迷

資料:2013年~2018年はSFA(オックスフォード)、2019年~2024年(予測)はメタルズフォーカス、WPICリサーチ

図5:米国やその他の地域では、2023年の新車・中古車価格は多少下がったが、2020年より2割以上高い

資料:連邦準備理事会、マンハイム、WPICリサーチ

図6:金利上昇と車価格上昇で毎月のローン支払いは2020年以来、22%上がっている

資料:連邦準備理事会、ブルームバーグ、 WPICリサーチ

図7:在宅勤務などで車の使用年数は延び、年間走行距離は5%減っている

資料:ブルームバーグ・インテリジェンス、WPICリサーチ

図8:パラジウムとロジウム価格の下落がPGMバスケット価格を4割押し下げたため、リサイクル業者は価格上昇を待って自動車触媒を蓄積している

資料:ブルームバーグ、WPICリサーチ

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