為替DI:11月のドル/円、個人投資家の予想は?

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示します。

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 DIは「強さ」ではなく、「多さ」を測ります。DIは、円安や円高の「強さ」がどの程度なのかを示しているわけではありませんが、個人投資家の相場観が正確に反映されていると考えるならば、DIの「多さ」は同時に「強さ」を示すことになります。

「11月のドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」

 楽天証券がドル/円相場の先行きについてアンケート調査を実施したところ、個人投資家の73%が「円安/ドル高」見通しを持っていることがわかりました。前月は82%でした。円安見通しから円高見通しを引いたDIは、前月から18ポイント減少して+46になりました。

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成 
出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

ドルが強いのは米国が強いからである

 今の相場は、円安というよりドル高です。米国が強いからドルが強いのです。米国の10年債利回りは2007年以来16年ぶりの5%台まで高くなりました。

 しかし、これほど高金利になっても米国経済は強さを失いません。ソフトランディングどころか、米国は景気減速さえも起きない「ノーランディング」もありえるなどと、超強気な見方もでています。

 米国経済とそのほかの地域との格差は開くばかりです。欧州ではECB(欧州中央銀行)の引き締めが景気を悪化させ、ECBはもはや利上げを続けることを諦めるしかない状況になっています。

 中国は、2008年のリーマンショックから15年間世界経済をけん引してきましたが、深刻な不動産危機に足を取られ、急速に勢いを失いつつあります。今年の米国の経済成長は、中国さえも上回る勢いです。まさに「米国例外主義」です。

 ドルは、金利が高いだけではなく、有事の際にはセーフヘブンとしてマネーの逃避先にもなるスーパー通貨となりました。ドルに幅広い支持が集まるかぎり、人為的な介入や自然発生的な持ち高調整の円高が起きたところで、しょせん一時的な現象に終わるでしょう。

 日本銀行がYCC政策の調整やゼロ金利解除の検討を開始しても、日米金利差が厳然として存在する限り円安は終わりません。

 とはいえ、あまりに高い政策金利とインフレ率低下によって、FRB(米連邦準備制度理事会)はG10の中で金融引き締め状態が最も厳しい中央銀行となってしまいました。

 この状態が長引くと、クラッシュ型の景気後退が発生するリスクが高まります。パウエルFRB議長も、11月のFOMC(米連邦公開市場委員会)の記者会見で「金融環境の引き締まりが経済の重荷になる可能性がある」と懸念を示しました。

 そのため、FRBは早ければ来年前半にも、引き締め過ぎの調整を目的とした、中期的利上げサイクルの調整の一環としての「利下げ」を実施するとの観測が浮上しています。

 FRBが利下げを開始するか、あるいはその前に米経済がハードランディングしてしまうか。いずれにしてもドル高の構造的トレンド転換はその時まで待たなくてはいけないでしょう。

ユーロ/円

 楽天証券がユーロ/円相場の先行きについてアンケート調査を実施したところ、個人投資家の69%が「円安/ユーロ高」の見通しを持っていることがわかりました。前月は78%でした。
円安見通しから円高見通しを引いたDIは、前月から18ポイント減って+38になりました。

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成 
出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成    

豪ドル/円

 楽天証券が豪ドル/円相場の先行きについてアンケート調査を実施したところ、個人投資家の71%が「円安/豪ドル高」の見通しを持っていることがわかりました。前月は77%でした。
円安見通しから円高見通しを引いたDIは、前月から12ポイント減って+42になりました。

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成  
出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

今後、投資してみたい金融商品・国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

 今回は、毎月実施している質問「今後投資してみたい金融商品」で「金やプラチナ地金」を選択した人の割合に注目します。各質問の選択肢は、ページ下部の表のとおり、13個です(複数選択可)。

図:「金やプラチナ地金」を選択した人の割合の推移

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 2023年10月の調査で、「金やプラチナ地金」を選択した人は17.2%でした(全回答者2,489名中429名が選択)。この水準はウクライナ戦争が勃発した2022年2月(17.3%)と同等です。

 10月7日に始まったイスラエルとパレスチナ自治区の一つであるガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとの間の戦争がきっかけだと、考えられます。

 1970年代後半をほうふつとさせる「有事ムード」が、投資家の皆さまにおける金(ゴールド)への関心を、通常よりも大きくしたのでしょう。

 グラフの通り近年、ウクライナ戦争勃発(2022年2月)、新型コロナ危機深刻化(2020年7月)、英国の国民投票でEU離脱が決まったこと(2016年6月)など、世界全体で「有事ムード」が強まったときに、今後投資してみたい金融商品に「金やプラチナ地金」を選択する方の割合が高くなりました。

 危機が深刻であればあるほど、そして不安の度合いが高ければ高いほど、「有事ムード」が強まります。このような状況になればなるほど、同質問で「金やプラチナ地金」を選択する方の割合が高くなる傾向があるようです。

 まずは目先、イスラエルとハマスの戦争が激化するか沈静化するかが、「金やプラチナ地金」を選択する方の割合が高くなるか低くなるかを決めるカギになると、考えられます。

表:今後、投資してみたい金融商品 2023年10月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

表:今後、投資してみたい国(地域) 2023年10月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成