大きな役割を担う「多角的レビュー」、10月のYCC修正も本来は12月だった?
一方の日銀ですが、政府がデフレ脱却を宣言したからといって、そのことだけで正常化に踏み切れるわけではありません。日銀は日銀の立場から、消費者物価の伸びが持続的・安定的に2%になるかどうか判断する必要があります。
しかし、本当に来年になればそれを判断することができるでしょうか。別の機会で詳しく議論しますが、相当難しい判断になると思います。もちろん、判断できない可能性も十分にあります。そのとき今後の金融政策運営をどうするのか。その道しるべになるのが「多角的レビュー」だと考えられます。
多角的レビューとは、25年にわたって実施してきた非伝統的金融政策を、さまざまな角度から検証するというもので、4月のMPM(金融政策決定会合)で実施が宣言されました。その後、2回のワークショップが今年12月と来年5月にセットされています。
植田和男総裁は4月10日に行われた就任記者会見で、「今後どういうふうに歩むべきかという観点からの点検や検証があってもいい」と言っていますので、多角的レビューの成果は必ずその後の金融政策運営に生かされるはずです。
穿った見方をすれば、政策変更を念頭にワークショップがセットされている可能性があります。日銀は10月MPMで、長期金利が上限の1%に急接近したため、1%を上限の「めど」と設定し、1%超えを事実上容認しました。その後の記者会見で植田総裁は、「そうすぐには 1%には接近しないというふうに考えていた」と吐露していました。
つまり、日銀はもともと10月に動くつもりはなかったのです。多角的レビューの第1回ワークショップが、「非伝統的金融政策の効果と副作用」というテーマで12月4日にセットされていたことを踏まえれば、12月MPMで動くつもりだったのでないでしょうか。
もちろん、本当のことは植田総裁に聞かなければ分かりません。しかし、2024年1~3月期のGDPギャップが判明する5月には、多角的レビューの第2回ワークショップが開催されます。それにより、異次元緩和に一定の評価が下され、その先の金融政策運営についての道しるべが示されるでしょう。
この頃になれば、注目される春闘の結果もおおむね判明しますし(集中回答日3月15日)、政府は6月ごろに減税を実施して可処分所得を伸ばすと言っています。ここまでイベントが重なれば、どうしても政府のデフレ脱却宣言と日銀の正常化(マイナス金利解除)が想定されているように思えてならないのです。