我々はドイツのブレーメン市で開催されたHydrogen Technology Exhibition に参加し、出展数500社、スピーカー200人、代表参加者8,000人のエキスポにて、水素経済の発展が勢いづいていることを実感した。参加者らは過去1年間で脱炭素化を進めた政策の成果を披露してさらなる出資を求め、グリーン水素水電解装置は2035年までに今の30倍となる約500GW規模、生産コストも今後10年間でグレー水素生産と同等になると発表された。我々も2030年までには、水素関連のプラチナ需要は全体の約2割を占め、その大部分は燃料電池自動車の需要になると考えているが、本稿では同エキスポで発表された、自動車の燃料電池の技術革新を簡単にカバーしたいと思う。

 英国の先端推進システム技術センター(Advanced Propulsion Centre、APC) は、バッテリー(リチウムイオン電池と三元系電池)と大型SUVやバンの燃料電池ドライブトレインのコスト比較を発表した。それによると航続距離300マイル(約482キロ)の燃料電池システムは、2030年までに費用はほぼ半減し(下図上)、バッテリーだとそれは21%〜27%のコスト減となる。APCは燃料電池のマイル毎のコストを下げることはプレミアムSUVや商用車で実行可能で、大型車を除く燃料電池自動車の生産は2035年までには140万台に達し、一方でバッテリー電気自動車の普及はリチウムの供給がネック参照レポート)になるとしている。リチウムが不足すれば、燃料電池自動車生産は2035年までに590万台も可能とAPCは予測している。我々WPICは普通乗用車と小型商用車の燃料電池自動車の2035年の普及率は3.2%参照レポート)としているが、これは各地域の水素ロードマップの合計(図1)を元にしており、APCが予測する燃料電池自動車のマーケットシェア1%〜6%(図4)の範囲に合致する。 

2030年に向け、燃料電池の経済性は向上する     

資料: 英Advanced Propulsion Centre、WPIC リサーチ

大型車の燃料電池自動車はアフターマーケットメーカーが牽引

資料:AVL、WPIC リサーチ

 独立系エンジニアリング企業のAVLは大型車輸送業界の変化について発表した。排出規制違反金が課されないようなディーゼルトラック輸送を求める業界に対応してアフターマーケットやレトロフィット市場で大きな変化が起きている。大型トラックの燃料電池自動車が未発達なため、アフターマーケットメーカーが顧客のニーズに対応しているのだ。2030年以降は大型車の燃料電池自動車の需要が10万台を超えるとされるが、標準化を通じた効率性向上ができる大手メーカーがこの市場に参入するとしている(上図下)。大量生産によるコスト減と電力密度の向上で、AVLは燃料電池のコストは今後10年間で1キロワットにつき約300ユーロから約80ユーロに下がるとし(図6)、となれば需要はさらに高まり、大型車の燃料電池車は2035年までにはほぼ1割に近いマーケットシェアを占めるとしている(WPICの予測は1割)。

 今回のエキスポでは水素バリューチェーン全体の技術が発展していることが実感でき、2030年までに水素関連のプラチナ需要は全体の需要の約2割に増えるという我々の予測に対する確信を新たにした。

燃料電池のコストは大量生産により2030年までに半減

燃料電池自動車の普及率予測には幅があるが2035年までには1割弱に

グリーン水素を生産するPEM水電解装置もプラチナ需要の大きな要因

投資資産としてのプラチナ

- WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続く
- 南アフリカの電力問題、リサイクル率の低下でプラチナの供給には問題が多い
- 自動車のプラチナ需要はガソリン車の代替需要を主に今後も成長が期待できる
- プラチナが役立っている分野には、有害な排気ガスの軽減、工業の燃料消費と炭素排出量の軽減、風力タービンのグラスファイバー、エネルギー転換を可能にするグリーン水素の生産などがある
- プラチナ価格はゴールドとパラジウムに比べて大幅に安い

図1:各地の水素ロードマップを合計すると燃料電池自動車生産は今後10年間で採算性が向上

資料:S&Pグローバル、伊 Comau、WPIC リサーチ

図2:現在の年間生産100万トンの水準からすると、クリーンな水素*市場は今後10年間で飛躍的に成長

資料:アラムコ、W.L Gore & Associates、WPIC リサーチ *グリーン水素市場は2030年の約50%から、2050年は約80%に増える予測

図3:燃料電池自動車のマイル毎のコストは航続距離が伸びるほど下がり、プレミアムSUVと普通乗用車での利用が望まれる

資料:英Advanced Propulsion Centre、WPIC リサーチ

図4:英APCは小型商用車と普通乗用車の燃料電池自動車の普及率は2035年まで1割未満としている

資料:英Advanced Propulsion Centre of UK、WPIC リサーチ

図5:レトロフィット市場は、早々の大型輸送車の燃料電池車化に対応している

資料:AVL、WPIC リサーチ

図6:電力密度の向上で燃料電池のコストが下がり、普及率を後押し

資料:AVL、WPIC リサーチ

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