中東情勢緊迫、最新動向

 10月7日に突如始まったイスラエルとイスラム組織ハマスの武力衝突は、長期化の様相を呈しています。バイデン米大統領は、イスラエルとアラブ双方と協議して人道支援の道筋を付ける予定でしたが、パレスチナ自治区ガザ唯一のキリスト教系の病院の爆破によって、シナリオは大きく変わりました。

 ハマスが攻撃に踏み切ったのは、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化交渉を行っていた米国に対して、サウジアラビアが原油増産を検討するという交渉カードを提示したからと見られています。国内のインフレ収束を目的に原油価格を落ち着かせたい米国は、サウジアラビアに対して原油増産を何度も迫っていました。

 2010年代のシェール革命を経て、今や世界最大の原油生産国となった米国は、原油価格を巡って中東情勢に気を回す必要は無くなったといえます。ただ、2010年代半ば以降、OPEC(石油輸出国機構)と、世界有数の原油生産国であるロシアが手を組んでいることは、米国の中東軽視が根底にあるとの考えもできます。

 そんな米国は、イスラエルとハマスの武力衝突を収めるため、押っ取り刀で動いていますが、上記の通りヨルダン訪問は中止せざるを得ない状況となりました。

 また、米国下院議会の議長席が3週間ほど空席のため、イスラエル支援などの緊急予算の審議が下院ではできない状況に陥っています。バイデン政権は、外交問題、内政問題ともに有効な手だてを打てない状況にあります。

 そもそも今回の武力衝突は、イスラエル人、パレスチナ人双方の歴史的な悲劇が引き金になっていることから、簡単には収束しないでしょう。

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なぜ原油が高騰?

 中東でこうした武力衝突が発生すると、原油価格に注目が集まります。理由は、原油を多く生産している国が中東に多いからです。2022年の原油生産量ランキングでは、サウジアラビア、イラク、アラブ首長国連邦、イラン、クウェートの5カ国がトップ10に入っています。

 ここにランクインしているイランが曲者で、今回の武力衝突の裏で暗躍していると見られています。パレスチナと同じくイスラム教国家であるイランは、ハマスに武器や資金などを提供しているとの見方があります。イスラエルと仲が良く、イランに対して経済制裁を課している米国は見過ごすわけにはいきません。

 イランは早速、イスラエルへの原油禁輸をイスラム諸国に呼びかけました。実際、イスラエルの原油輸入は世界的な供給量の観点から見ると小規模なため、需給バランス上の影響は限定的です。

 ただ、原油価格はこのイランの呼びかけに対して、上昇という反応を示しました。それだけ中東情勢という複雑な地政学リスクに対して、原油市場が過敏になっている証拠だと考えます。

 今後、イランとハマスの関係が明白となり、米国がイランに対する制裁措置を強化した場合、イランが行う報復措置は毎度おなじみの「ホルムズ海峡の封鎖」でしょう。ホルムズ海峡はペルシャ湾の入口に位置しており、ペルシャ湾沿岸諸国で算出する原油の重要な搬出路です。

 その搬出路が封鎖されると、当然ながら原油を運ぶタンカーの動きが制限されますので、原油価格への影響はあります。既にイエレン米財務長官は10月10日に「米国はイランへの制裁を強化する可能性がある」と述べています。米国によるイランへの制裁強化の可能性も高まっていることから、原油価格は思惑先行で上昇しやすい状況が続くでしょう。

 そこで、原油価格の動向にスポットが当たっている今、思惑的な買いが入りやすい原油関連銘柄5つを厳選しました。選んだポイントは、原油価格上昇に伴う業績への恩恵よりも「中東でもめごと発生→原油価格上昇するかも→この銘柄も上がるかも」という連想ゲーム的な観点を重視しています。

 なお、原油輸入国である日本にとっては、原油価格上昇はガソリン価格の上昇につながるなど物価上昇の要因となるため、一般的にはネガティブに捉えられます。日本株全体にはマイナス材料と捉えられる可能性がありますので、この点は注意が必要です。

いま注目、原油関連銘柄5社

銘柄名 証券コード 業種 株価(円)
(10月24日終値)
ポイント
INPEX 1605 鉱業 2,171.5 原油・天然ガスの生産量では日本最大を誇る
ENEOSホールディングス 5020 石油・石炭製品 551.7 原油価格と為替の円安が業績の上振れ要因に
トーヨーカネツ 6369 機械 3,280 時価総額小さめのタンクメーカーは値動き軽い
三井物産 8031 卸売業 5,428 脱原油に動くも、まだまだ原油関連の一角として注目
三菱商事 8058 卸売業 7,016 業績に占める割合低下も、原油関連銘柄としての感応度は高い

INPEX(1605)

 原油・天然ガスなどの権益を世界中に持っています。原油・天然ガスの生産量では日本最大で、日本の年間エネルギー消費量の約1割に相当する規模の原油・天然ガスを世界各国で生産しています。

 原油関連事業を行っている企業では、業績面や会社規模で見ますと最大規模といえます。当然ながら、業績動向は、原油価格や為替に左右される傾向が強く、時価総額が大きい銘柄ですが、その分かりやすさから思惑的な動きも入りやすいので注目です。

ENEOSホールディングス(5020)

 原油元売りの大手企業で、ENEOSブランドのガソリンスタンドを全国で展開しています。原油そのものを輸入して販売していることから、原油価格の上昇は業績にプラスとなります。時価総額が大きい銘柄ですが、連想買いが入りやすい傾向もあります。原油価格や為替動向に業績が左右されやすいですが、今の為替の円安傾向も追い風といえます。

トーヨーカネツ(6369)

 LNGや原油などの備蓄用タンクを主に製造しています。世界的なタンクメーカーのため、原油関連銘柄の一つとして見られていますが、実はプラント事業は主力事業ではないのです。

 しかも、プラント事業および次世代エネルギー開発事業ではカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の実現に動いていますので、原油関連銘柄として連想的な買いが入った後は、早いタイミングで利益確定に動いたほうがいいかもしれません。

 ただ、今回の5銘柄の中では、時価総額が300億円規模と非常に小さいので、値動きの軽さはポジティブな要素として考えます。

三井物産(8031)

 英国の北海油田の一部権益を取得するなど業界随一の原油・ガス権益を保有していたことから原油関連銘柄の一つとして高い知名度があります。実際は「脱原油」に動いており、事業の稼ぎ頭は鉄鉱石や原料炭など金属資源事業。エネルギー事業の柱はLNGです。

 業績を見ると、原油価格の上昇などの影響は限定的と見えてしまいますが、後で出てくる三菱商事同様、中東情勢のニュースが流れた後は大きく株価が動きました。中東情勢をにらんだ展開は続くでしょうから、今後も見過ごせません。

三菱商事(8058)

 日本を代表する総合商社で、資源・エネルギー関連に強みを持っています。原料炭価格が今年3月に史上最高値を更新したこともあり、金属資源事業が業績のけん引役です。

 サハリンプロジェクトなどに脚光が集まり、原油関連銘柄と騒がれた2010年代と比べると、原油やLNGなどが業績に占める割合は減っていますが、今回の中東の武力衝突が伝わると、すぐに株価は上昇しました。原油関連としての感応度はまだまだ高いので注目しています。