先週は緊迫する中東情勢や、米国の長期金利の指標となる10年国債の利回りが5%寸前まで急上昇したことを受け、日米ともに株価はほぼ下落しました。

 日経平均株価(225種)の10月20日(金)終値は前週末比1,056円(3.3%)安の3万1,259円と大幅に値下がりしました。

 機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数も約2.4%下落し、20日(金)も力なく続落していることから、週明け23日(月)の日経平均株価は続落し、終値は前週末終値比259円安の3万0,999円でした。

 地政学的リスクの台頭で、究極の安全資産である金(ゴールド)の先物価格はこの半月ほどで8%近く上昇。

 18日(水)にイランがイスラエルへの原油禁輸を提案したこともあり、米国産WTI原油(米国の西テキサス地域で産出される良質な原油)の先物価格もこの半月で6%程度上昇しています。

 その一方で株式はほぼ全面安。

 ある意味、これは典型的な「リスクオフ」(リスクのある資産が一斉に売られること)の値動きですので、今後のためにも覚えておきましょう。

 今週10月23日(月)から27日(金)にはイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への地上攻撃が開始される可能性も高く、引き続き中東情勢の緊迫化が株価の足を引っ張りそうです。

 また、米国の10年国債の金利が20日(金)の終値4.9%台から、今週5%の大台を超えてくるようだと、金利上昇が大敵である株価はさらなる下落に見舞われそうです。

 米国では、保有している米国債の含み損が拡大している地方銀行株の経営や業績に対する不安も拡大。

 米中南部のアラバマ州に拠点を置く地銀リージョンズ・ファイナンシャル(RF)の20日の株価が前週末比10%近く下落するなど、金融不安につながりそうな気配も出てきました。

 今週は26日(木)に富士通(6702)、27日(金)に日立製作所(6501)キーエンス(6861)など、日本でも2023年7-9月期の決算発表が始まります。

 円安効果で外需株の好業績に期待できそうですが、リスクオフの動きが世界的に高まっている状況では個別企業の業績がいくら良くても全体相場は上昇しません。

 それが、売買高の7割を外国人投資家が占める日本株の宿命です。

 そのため、さらなる株価の急落に警戒しつつ、中東の緊張が少しでも収まり、年率5%近い金利収入に対する魅力から米国の長期国債に底値買いが入ることで、下げ過ぎた株価にもリバウンド上昇が起こる展開に望みを託しましょう。

先週:パウエル発言で金利急上昇&パレスチナの軍事衝突の深刻化で全面安!

 先々週(10月10~13日)はイスラエルとパレスチナ軍事組織ハマスの武装衝突によって安全資産の米国債が買われ金利が低下したこともあり、「有事の買い」による株価上昇も見られました。

 しかし、先週は、17日(火)夜にパレスチナのガザ地区にある病院の爆発で多数の死者が出たほか、18日(水)にはイラクの米国駐留部隊を標的にしたドローン攻撃が行われるなど、軍事的緊張が中東全体に拡大しつつある報道が多数流れ、そのたびに株価が下落しました。

 20日(金)には、米国のバイデン大統領がイスラエルやウクライナを軍事支援するために1,000億ドル(約15兆円)の緊急予算を議会に要請。

 軍事援助をまかなうために大量の米国債が発行され需給が悪化するという懸念もあり、10年国債の金利は週初の4.6%台から5%寸前まで上昇。

 株価全面安の元凶になりました。

 先週発表された米国の景気・雇用指標が相変わらず強すぎることも、物価高や景気過熱を懸念した金利急上昇につながりました。

 17日(火)発表の9月の米小売売上高は予想を大きく上回る前月比0.7%増と、米国の個人消費は相変わらず旺盛。

 19日(木)発表の新規失業保険申請件数も予想に反して20万件を割り込み、人手不足で失業者の数が増えていない状況が続いています。

 さらに19日にニューヨーク経済クラブで講演した、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が「金融政策が引き締め過ぎである兆候はない」「引き締めがなお控えている可能性はある」と述べたことから、株式市場は高金利政策の長期化を懸念して下落方向に向かいました。

 日本株では、日経平均株価の主要な構成銘柄であるファーストリテイリング(9983)が前週末比5.2%安、半導体株の主力銘柄である東京エレクトロン(8035)が5.3%安となったほか、主力の電気機器や機械セクターが大きく売り込まれました。

今週: 米金利動向が株価の命運を握る!GAFAM好決算でリバウンド上昇も!? 

 今週も先週に引き続き、パレスチナでの武力衝突の激化や米国の金利急上昇が株価の下げ要因になりそうです。

 今週発表される指標としては、26日(木)の米国2023年7-9月期の実質GDP(国内総生産)速報値や、27日(金)の米国9月個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)が注目されそうです。

 また26日(木)には、ユーロ圏の中央銀行にあたるECB(欧州中央銀行)が政策金利を決める理事会を開催。

 ECBはこれまで10会合連続で利上げを決めていますが、今回は利上げを見送る見通しです。

 来週10月31日(火)~11月1日(水)には米国の政策金利を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)も控えているだけに、ECBが利上げを完全打ち止めにするのか、追加利上げに含みを持たせるのか、その政策の方向性に関心が集まりそうです。

 先週の米国では、18日(水)に2023年7-9月期決算が予想を下回る減益だったことを発表した電気自動車のテスラ(TSLA)が20日の株価が前週末比16%も下落するなど、どちらかというと予想を下回る悪い決算が相次ぎ、株価が急落する銘柄も目立ちました。

 今週は24日(火)に自動車メーカーのゼネラル・モーターズ(GM)や「GAFAM」と総称される巨大IT企業のマイクロソフト(MSFT)、グーグルの親会社であるアルファベット(GOOGL)、25日(水)にはフェイスブックの親会社であるメタ・プラットフォームズ(META)、26日(木)にはアマゾン・ドット・コム(AMZN)が決算発表。

 26日(木)にはフォード・モーター(F)の決算発表も控えています。

 S&P500種指数やハイテク株主体のナスダック総合指数など米国の株価指数に対する影響力が絶大な巨大IT企業、23%の賃上げを提案しても全米自動車労働組合(UAW)の待遇改善ストライキが続く米国自動車メーカーの決算発表次第では、全体相場が大きく上や下に振れる可能性がありそうです。

 米国では、好景気が続き労働市場が活況すぎることで逆に株価が下落する、通常から見ると「おかしな」展開が続いています。

 その理由はやはり10年国債の金利が5%に迫る中、リスクの高い株式に投資しなくても、銀行預金やMMF(マネー・マーケット・ファンド:短期の高格付け債券で運用されている投資信託)にお金を預けておけば、ローリスクで年率5%近い利息収入がもらえることも大きいでしょう。

 これだけ高金利でも、米国の景気・雇用が強い理由としては、コロナ禍でばらまかれた補助金など米国民の過剰貯蓄がまだ枯渇していないこと、コロナ禍前の低金利で住宅を購入した層が住宅価格の値上がりで潤っていることなどが挙げられます。

 また、移民流入の規制強化による人手不足の常態化、IT関連を中心に高い金利を払って借金しなくても高収益ビジネスを展開できる企業の増加、中国との関係悪化で安価な中国製品が出回らず物価の高止まりが続いていることなど、構造的な要因もありそうです。

 FRBがいくら利上げを続けても好景気が続き労働市場がひっ迫し、物価高に歯止めがかからないとなると、もはやFRBが金利を上げたり下げたりして景気のかじをとることができなくなります。

 それが金融市場の番人であるFRBの権威失墜につながるようだと、明らかに株式市場にとってネガティブです。

 また、ロシア・ウクライナ戦争に続いて、中東でも軍事的緊張が走り、ここにさらに中国と台湾の紛争まで加わってしまうと、もはや「第三次世界大戦の始まり」に近い状態といっても過言ではありません。

 米国バイデン大統領は先週19日(木)の演説で「世界は今、歴史の転換点を迎えている」と述べました。

 今後、世界の秩序や経済の常識がどのように大きく変化していくのか。

 株式投資では、より大局的な視点で日々のニュースに目を凝らすことも必要といえるでしょう。