依然鍵を握る不動産市場と不動産企業

 最近のレポートでも紹介してきたように、不動産市場の低迷が続き、不動産企業のデフォルト危機が懸念される中、中国政府は2つの施策を講じました。

 1つ目は、8月末以降、北京、上海、広州、深センといった大都市を中心に、市民が住宅を購入する際の規制を緩和したこと。

 2つ目が、長年検討され、秒読みと目されていた不動産税の立法化と導入を先送りにしたこと。

 この2つはいずれも不動産市場を下支えすることを目的に施された措置であり、中国経済の約3割を占めるとされる不動産業界へのテコ入れを通じて景気回復を優先するという中国政府の立場が如実に表れていると言えます。

 一方、実際の市場動向はなかなか芳しくありません。中国政府が毎月発表している主要70都市の住宅販売価格動向統計によれば、8月、70都市中52都市、すなわち全体の74%の価格が下落しています。もちろん、中国の不動産市場には地域差があり、私自身、中国の不動産政策というのは、ありとあらゆる政策の中で最も地方分権が進んでいると考えています。

 要するに、地方都市によって、市民が住宅を購入する上でのルールが異なるということ。このような状況下で、(1)不動産バブルが全国的に崩壊する、(2)不動産市場の低迷が金融システム不安を引き起こす可能性は低いと考えています。

 ただ、不動産業界の中国経済全体に対する影響は大きいのも事実です。前述したように、中国政府が不動産市場を下支えするための措置を取っている背景にもそういう国情が横たわっていると言えます。

 また、不動産企業に関して言えば、大手の碧桂園(カントリーガーデン)が10月10日、ドル建て債を含めたオフショア債務について、期限までに、または猶予期間内に支払い義務の全てに応じることはできない見通しだと発表しました。

 同社は109億6,000万ドルのオフショア債と58億1,000万ドル相当の外貨建てローンを抱えていますが、デフォルトが秒読みとなる状況下で、海外の債権者との債務再編に向けての協議に向けて動いているのが現状です。デフォルト、創業者の犯罪に対して取られた強硬措置などに苦しむ恒大集団同様、中国の大手不動産企業を巡っては、依然として予断を許さない状況が続くでしょう。

米中関係アップデート:習近平主席が北京で米超党派上院議員と会談

 先週のレポートで、米中対立の行方は中国経済、世界経済の動向を占う上で極めて重要という視点を書きました。「対立」ばかりが強調されてきた米中関係ですが、6月以降、閣僚級が相次いで訪中し、第3国での戦略対話も継続的に行われてきました。

 そんな中、10月9日、米上院の民主党トップであるシューマー院内総務が率いる超党派議員が訪中し、王毅(ワン・イー)政治局委員兼外相だけでなく、習近平(シー・ジンピン)国家主席とも会談しました。会談の冒頭で、習主席は「米中関係は世界で最も重要な二カ国間関係」と断定し、両国関係の安定化に向けて意欲を示しました。

 私から見て、今回の動向は極めて重要です。中国の最高指導者である習氏は本来、このような米国の超党派議員たちと会談する必要はありません。カウンターパートである全国人民代表大会常務委員会委員長(議会のトップ)が対応すれば十分なわけです。にもかかわらず、習氏自らが出てきて会談に応じ、米中関係の重要性を大胆に強調した。

 これは、中国として、米中関係の安定的管理・発展を政権の最重要事項に据えていることの証左だと言えます。11月にサンフランシスコで行われるAPEC首脳会議にも習主席は出席し、かつカウンターパートであるバイデン大統領と首脳会談を行うつもりで各種準備、協議を進めているのが現状だと私は推測しています。

 いうまでもなく、米中関係の安定は世界経済、中国経済、国際政治にとっては朗報であり、その意味で、対マーケットという意味でも米中が対立しつつも対話を重視している現状は前向きだと言えます。「米中対立」同様、「台湾有事」が日本世論、市場の枕詞となって久しいですが、私から見れば、「米中対立」なき「台湾有事」は考えられない。

 11月のAPEC首脳会議にしっかり注目していきたいと思います。

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