進む、投資信託運用の手数料引き下げ競争

 三菱UFJ国際投信は9月8日から、主力インデックス(指数連動型)投資信託「eMAXISSlim」シリーズの運用管理費用(信託報酬)を引き下げました。

 個人投資家から人気の高い「eMAXIS(イーマクシス)Slim」シリーズのコスト引き下げニュースに、驚いた人も多いことでしょう。

 シリーズのうち四つの投資信託が対象ですが、原則として最安値を追求するとしていた同社の方針が、ライバル他社の商品設定で改めて示された格好になりました。

 プレスリリースによると、詳細は次の通りです。

対象)
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)
eMAXIS Slim 全世界株式(除く日本)
eMAXIS Slim 全世界株式(3地域均等型)

運用管理費用)
変更前:年0.1133%以内 → 変更後:年0.05775%以内

対象)
eMAXIS Slim新興国株式インデックス

運用管理費用)
変更前:年0.1859%以内 → 変更後:年0.1518%以内

 もともと全世界の株式に投資をして、年率0.11%というのは十分な安さであり、これがシリーズの人気のひとつだったわけですが、年0.1133%が年0.05775になる、ということはさらに運用コストが半減したことになります。

 投資資金10万円あたり年間約60円(600円ではなくて!)でできてしまうというのは驚きです。

 さて、こうしたニュースをみたとき、あるいは他社の安値をうたう新設投資信託が誕生したとき、「乗り換えをすべきか」という問題があります。「他の投資信託でやっていたけど、さすがに0.05775%なら乗り換えようか」というようなパターンです。

 しかし投資信託の乗り換えはなかなか悩ましい問題です。初心者向けに基本的な考え方を再確認してみましょう。

低コスト投信へ乗り換えればあなたの手取りが増える可能性

 さて、基本的には運用コストの引き下げは、あなたの手元に残る運用資金増です。これを考えると、

条件1)同一の投資対象および運用方針で投資する投資信託において、
条件2)運用コストの引き下げ競争が生じ、自分が保有する投資信託より低コストの投信が誕生した

 のであれば、基本的には乗り換えを検討するのが合理的です。

 ただし、(条件2)だけを見て(条件1)をしばしば見のがすことがあるのでここが初心者には要注意ポイントになります。

 つまり、運用の対象が同じものでなければ比較する意味がありません。投信評価会社の投資カテゴリー分類ほど厳密に考えなくてもいいですが「国内株」「外国株(先進国)」「外国株(新興国)」「外国株(全世界)」「REIT(不動産)」「バランス型(株式投資比率は同水準で比較する)」くらいのカテゴリーはそろえておかないと、手数料率だけを見て異なる投資対象へ飛び移ってしまうことになります。

 また、運用方針もそろえて考えるのが基本で、さらに手数料競争を強く意識するのはインデックス運用のほうになります。アクティブ運用については手数料の多少ではなくそもそもの運用哲学の評価のほうが優先されるからです。

投資信託の乗り換えを実行する際は、2つの条件を意識してみるといいでしょう。

売却=同額買付で注文するなら、タイミングのデメリットはあまり気にしなくてよい

 さて、投資信託の乗り換えの議論では、売買タイミングの不利益がしばしば採り上げられます。例えば投資信託Aを売却し、投資信託Bを購入したいとします。

 まず、注文日と約定日が異なる場合があります。特に外国を投資対象としている場合、翌日以降となるのが一般的です。また、約定日と受渡日(売却代金が入金される日)も2~5営業日ほど空いてしまいます。

 ただし、これをあまり神経質に捉える必要はありません。運用手数料を低くするほうが長期的にはメリットが大きいわけです(特に投資資金が高額であるほど影響が大きい)。

 そのため、数日間の基準価額の上下動にはこだわらず、スパッと注文をしておくといいでしょう(そもそも基準価額の変動、約定日の決定は個人投資家側がねらって決められるものではない)。

 それでも「いや、乗り換えのタイミングで株価が2%くらい動く『かも』しれないから、年0.XX%の運用手数料引き下げをわざわざやるのはイヤだ」というなら、それはそれでかまいませんが、年0.1%以上の低下が期待できるなら、乗り換えをしておいたほうが長い目では有効ではないでしょうか。

「税」と「NISA枠」をにらみつつ判断

 乗り換え時、さらに気にしておきたいのは、「税」と「NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)枠」です。

 1つは「税負担」です。通常の課税をされる証券口座で投資信託の乗り換えをした場合、運用益に課税されてしまいます。

 全額が新しい投資信託に移るわけではなく、運用収益に課税された分(20.315%)、乗り換え資金が減少します。持ち続けた場合でもいつかは課税されるので同じともいえますが、心理的には悩ましいところです。

 なお、解約時の手数料(信託財産留保額)がかかる場合、これもマイナス要因となります。

 2つ目の要素は「NISA枠」の問題です。まず、NISA口座内で保有していた投資信託を売却することは、その投資信託の非課税投資期間は終了するということになります。もちろん非課税で全額が手元に現金として受け取れるわけですが、NISAの口座から一度降りることになります。

 また、売却後の資金で乗り換えをするとNISA口座の枠を使うことになります。「私はNISAで投資をし続ける」といっても、非課税枠としては出入りが生じたことになるわけです。

 2024年以降は、非課税投資枠を総枠1,800万円として年単位の管理はなくなりますので、出入りがあってもあまり影響がないと思います。

 つみたて投資枠で増やした分を売って乗り換えると、成長投資枠に移ってしまうという問題がありますが(成長投資枠は1,200万円を超せない)、個人にとっては大きな問題ではないでしょう。年最大360万円という枠も個人にとってはあまり支障にはならないはずです。

 気にしたいのは2023年までのNISA口座にある投資信託です。非課税投資期間が定められており(一般NISAが最大5年、つみたてNISAが最大20年)、この非課税投資枠と非課税投資期間は新NISAには引き継がれない「別枠」です。

 となれば、基本的には2023年までのNISAについては運用期間をできるだけ長くとって、非課税投資枠を延ばしていくことが考えられます。

 もし乗り換える場合は、2024年から始まる新しいNISAの年間投資枠を、旧NISAからの乗り換え分で使い切ってしまわないよう注意してください。新しいNISAの年間投資枠を新規の投資資金で使った上で、残った枠を使って旧NISAから資金を移しかえていくといいでしょう。

iDeCoの「中」なら積極的に乗り換えたい

 もうひとつ非課税投資枠としてはiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)もありますがこちらはどうでしょうか。

 iDeCoは売却する際、必ず次の運用商品を指定する必要があります(銀行預金という「金融商品」を指定することもできる)。60歳まで原則として解約できないという制限がある一方、「iDeCo内」であれば、非課税投資は継続して運用が行えることが魅力です。

 こちらは低コスト投信へ乗り換えをしていくことのデメリットがほとんど生じません。ただし、iDeCoには商品数上限35本の制限があり、また各社がiDeCo内では積極的な商品追加・除外を行わない傾向があります。

「低コストの投資信託があるから、運営管理機関ごと違うiDeCoプランに乗り換えよう」とすると手続き的にはかなり大変なのが悩ましいところです。

 ただし、つみたてNISAの基準をはるかに上回る運用管理費用の投資信託しか提示していないiDeCoプランについては、プランそのものの乗り換えをしたほうがいいでしょう。

まとめ

 投資信託の乗り換え作業そのものは、証券会社のホームページであっという間に行えます。

 対象商品も最初からはっきりしているはずです(低コスト商品が見つかったので乗り換えを検討するため当たり前)。

 ここでは乗り換えの条件をいろいろまとめてみましたが、基本的には「低コストなら乗り換えを考えてみよう」が結論です。

 0.0X%刻みで頻繁に乗り換える必要はありませんが、0.1%以上の差異が生じた場合はちょっと検討をしてみてください。