物価上昇基調が明らかになるも預金金利は低いまま

 2022年の物価(インフレ)上昇率は2.5%でした。これは消費者物価指数の年平均数値ですが、私たちの生活実感としてはもっと物価が上がっている印象があるはずです。

 詳細をみると食品が4.5%アップ、高熱・水道が14.8%アップと大きな上昇となっています。先日、子どもとスーパーに出かけて自由にお菓子を選ばせるとき「100円以内ね」と軽い気持ちで言ったら、ほとんど選択肢がなくてびっくりしましたが、数十年ぶりの大幅物価上昇がスタートした年だったのかもしれません。

 さて、物価上昇期、原則としては銀行預金金利も上昇することになりますが、現下は超低金利が続いています。物価上昇期への移行初期は金利上昇が遅れてやってくることになりますし、現在は日本銀行のマイナス金利政策が効いているため、「5年もの定期預金で年2.5%!」なんて設定は難しそうです。

 さてこうなると資産運用においては、株式などのリスク資産運用だけではなく「銀行預金という運用」についても評価しておく必要が高まっています。

総務省 2020年基準 消費者物価指数

元本割れはしないが実質マイナスの銀行預金をどう持つか

 資産管理として考えたとき、銀行預金にはいくつもの価値があります。まず、元本割れはしない、ということです。

 これは同時に、資産全体のポートフォリオを考えたときに全体でのリスクを抑えることになります。資産の全額を投資しているケースと、半額を投資しているケースでは、市場の下落時の値下がり幅が後者では半分になります。当たり前のことですが、銀行預金は市場リスクにさらされていないからです。

 あなたの資産運用を全体で考えたときは、リスクをコントロールする役割として銀行預金を保有している割合が果たしていることになります。だからこそ「あなたの資産全体で何割を投資に振り向けるか、一度じっくり考えてみよう」とアドバイスされるわけです。

 とはいえ、最初に述べたとおり「(物価上昇率)>(銀行預金利率)」という現状は実質的に資産が目減りしていることを意味します。これは運用としては実質的にマイナスになっていることです。額面では減少していないものの購買力がダウンしていることをしっかり認識し、向き合う必要があります。

 そうすると、「運用のリスクを抑えるメリット」と「物価上昇には現状負けてしまうデメリット」のバランスの中で、銀行預金を保有していくことをどう位置づけていくかがポイントになります。

銀行預金よりは高利回りでもインフレにはまだ勝てない個人向け国債

 さて、銀行預金と株式投資の間で、運用の第三の選択肢となりうるものはないでしょうか。例えば個人向け国債が考えられます。

 個人向け国債は、1万円から購入できる点では個人が購入しやすい債券運用の選択肢です。元本が保証されますし、発行後1年で中途換金可能です(その際に直前2回分の各利子(税引前)相当額が差し引かれる)。

 現在では3年固定、5年固定、10年変動の3タイプが販売されています。

 執筆時点での利回りは

 3年固定 年0.05%(税引前 159回)
 5年固定 年0.14%(税引前 149回)
 10年変動 年0.39%(税引前 161回初回金利)

 となっています。

 金利をみるところでは、3年固定、5年固定は定期預金とほぼ同様にみた場合、やはり2022年の物価上昇率には負けています。10年変動も負けているわけですが、こちらは金利政策が将来変わったときには利回りがその都度改定されることになります。

 将来的にはインフレにそれなりに対応してくれる金利設定となるかもしれませんが、現下においては、銀行預金より極端に強いというわけではないところを、どう組み入れいていくか考えどころとなります。

財務省 個人向け国債

リスクはあるが上昇時には預金金利も物価上昇率も大きく上回る株式投資

 さて、教科書的には物価上昇局面においては株式や不動産の価格は先駆けて上昇することになります。

 しかし、米国や欧州諸国のように急激なインフレと金利政策が駆け引きをしているのと日本は状況が異なります。また為替レートを挟むか挟まないかでも話は簡単ではなくなります。

 教科書通りにはなかなかいかないもので、2022年の株価指数はMSCI ACW(ドルベース)などが大きく下落したように、物価上昇時の下落、そして銀行預金金利にも負けた1年となりました。

 とはいえ、これを2022年度(3月末で区切る)とすれば、国内株も+5.81%(TOPIX(東証株価指数)の配当込み)となりますし、大きく価格変動する株価をどう見るかは初心者には難しいかもしれません。

 今年度に入ってからは物価上昇率を明らかに上回っており、2023年9月の目の前の市況についてはS&P500種指数にしろTOPIXにしろ、半年で10%以上上昇していることは皆さんもご存じのとおりです。

 中長期的には物価上昇率を上回る可能性が大きい、しかし下落することも短期~中期的にはあり得る、という基本を踏まえつつ、自身の資産のポートフォリオにリスク資産を位置づけていくことが物価上昇時には必要になってきます。

仮に銀行預金が高金利になってもリスク資産の組み入れは有用

 ところで、こうした頭の整理をしておくと「高金利の時代は銀行預金でOK」という一般論にも危うさがあることが分かります。

 仮に銀行預金が年3.0%の利息を得られる時代があったとしたら、そういう時期は物価上昇率もまた年3.0%はある、と考えておく必要があるからです。

 ネットではしばしば「1970~1980年代は銀行に預けるだけで5%以上増えるいい時代だった」と現下の政権を批判するような投稿がありますが、これは当時のインフレ率を差し引いていないミスリードです。

 こうした画像をSNSで見かけると私はすぐ当時の物価上昇率をチェックしますが、下手すると郵便貯金の金利(たいてい郵便貯金の画像がポストされている)と物価上昇率は同等か、ときによっては物価上昇率のほうが上回っていたりします。

 これからの資産形成は「物価上昇率を上回った分が実質的な運用利回りである」と意識していく必要があります。過去20年以上にわたって失ってしまった感覚ですから取り戻すのは簡単ではありません(50歳より若い世代はそもそも物価上昇の感覚すらないでしょう)。

 物価上昇が生じる場合、基本的にはリスク資産のリターンはそれを上回るところに数字が行きますので(米国株の上昇も、日本からすれば驚くべき数字ですが、米国人からすれば物価上昇を考えるとこれくらいは上がらないとね、という数字であったりします)。

 日本で物価上昇を意識した場合、銀行預金が高金利であったとしても実質マイナスであった場合であっても、やはり株式投資の組み入れは必要となるのでしょう。

 さて、2023年も物価上昇は続いている中、これから私たちがどう資産配分を考えていくか、悩みはまだまだ続くことになりそうです。