先週の株式市場は、一時1ドル=146円まで円安が進んだにもかかわらず日本株が急落したり、インフレ率が低下傾向にもかかわらず米国の長期金利の指標である10年国債の金利が一時4.3%台まで再上昇したり、いわゆる「投資の常識」が通用しない相場状況が目立ちました。

 中国不動産大手の中国恒大集団(エバーグランデ)が17日(木)、米国で連邦破産法15条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請するなど、中国の壮大な不動産バブル崩壊が始まりつつあることも、特に日本株などアジア株にとって大打撃でした。

 日経平均株価(225種)の18日(金)終値は、前週末比1,022円安の3万1,450円まで、3.1%も下落。

 世界中の機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数は前週末比2.1%の下落。

 生成AI(人工知能)ブームに沸いたハイテク株主体のナスダック総合指数は前週末比2.6%安となりました。

 米国政府の国債発行増加や米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)の利上げ継続懸念から、米国長期金利がじわじわと上昇し続けていることが、米国株の大きな下げ要因になっています。

 今週8月21日(月)から27日(日)は、週前半に米国の住宅・景気関連指標が相次ぎます。

 また、後半の24日(木)~26日(土)には、米国カンザスシティ地区連邦準備銀行がワイオミング州ジャクソンホールで毎年開催する「ジャクソンホール会議」も始まり、25日(金)にはFRBのパウエル議長の講演も予定されています。

 毎年、その講演内容をきっかけに株価が急変動することが多いので、今回も非常に注目度の高いイベントです。

 週明け21日(月)の東京株式市場の日経平均終値は前週末比114円高の3万1,565円となり、4日ぶりに反発しました。18日まで3営業日連続の下落で計800円近く下げた反動で自律反発を見込んだ買いが広がり、午前中は300円超値上がりする場面もありました。午後に入り、アジア株の軟調から上げ幅を縮めました。

 先週に引き続き今週も、米国長期金利の上昇や中国不動産バブルの崩壊という「暗雲」が垂れ込める中、株価市場はこれまでの常識が通用しない一触即発の雰囲気に包まれそうな気配です。

先週:タカ派のFOMC議事録で米長期金利上昇。中国不動産危機で日本株急落! 

 先週の米国では、15日(火)発表の7月小売売上高が前月比0.7%増加と予想を上回り、米国のGDP(国内総生産)の約7割を占める個人消費が依然として堅調であることが判明しました。

 しかし、同じ15日発表の8月のニューヨーク連銀製造業景気指数は、マイナス19.0と予想をはるかに下回る落ち込みとなり、新規受注が下落した一方、インフレ圧力が再び強まる不安な結果となりました。

 経済指標が示す方向性がちぐはぐな結果に終わったことで、「米国経済は本当にソフトランディング(軟着陸)できるのか」、「高金利の長期化で景気後退に陥るのではないか」といった疑心暗鬼が広がりました。

 先週の株価に大きな打撃を与えたのは、16日(水)発表のFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事録です。

 7月25~26日に開催され0.25%の再利上げを決めたFOMCでどんな議論が行われたかをまとめた議事録から、大半の参加者が「インフレには著しい上振れリスクがあり、追加引き締めが必要」という認識だったことが判明しました。

 金融引き締めに積極的なタカ派的な内容だったため、米国の長期金利は4.2%を超えて上昇を開始し、翌17日(木)には一時4.3%台に到達。

 日米金利差の拡大で、外国為替市場の円相場は一時1ドル=146円台半ばまで円安が進行しました(18日のニューヨーク市場終値は145円35~45銭台)。

 通常、円安は外需企業にとって海外の収益拡大につながるため、日本株にとって好材料です。

 にもかかわらず、17日(木)の日本株は、中国経済への懸念などもあって続落しました。

 15日(火)には、鈴木俊一財務相が「行き過ぎた動きには適切な対応を取りたい」と急速な円安をけん制。

 しかし、鈴木財務相は「何か絶対的な水準があって、それを超えたら防衛するということではない」と、介入を行う為替水準に関しては明言を避けています。

 ただ、それが逆に「いつ為替介入が行われ、株価が急落するか分からない」という先行き不透明感につながっているのかもしれません。

 先週の日本株が急落した、もう一つの要因は、中国の不動産会社の経営危機を伝えるニュースでした。

 17日(木)には、中国不動産大手の中国恒大集団が米国で連邦破産法の適用を申請。

 それ以前の7日(月)には、中国不動産会社最大手の碧桂園(カントリーガーデン)がドル建て社債の利払いができず、13日(日)には人民元建て社債の取引停止を発表したことで、同社の経営危機が深刻化しています。

 米ニューヨーク・タイムズの報道によると、不動産販売の不振で同社の未払い金は2,000億ドル(約29兆円)に達し、中国全土で100万軒の集合住宅が完成しない試算もあるといわれています。

「中国版リーマン・ショック」となるリスクが高まっており、今後も中国不動産会社の連鎖的な危機が続くでしょう。

 さらに、「シャドーバンキング」と呼ばれる中国のノンバンク(非銀行融資)業界にも危機が波及し、中国の富裕層などが高利回りを求めて投資した投資商品の価格急落といった金融危機につながる可能性も高まっています。

 日本でも、中国関連株の主力銘柄であるFA機器のファナック(6954)の18日(金)終値は前週末比3.3%安、安川電機(6506)は7.1%安、中国での売り上げが成長源の資生堂(4911)は6.6%安、「ユニクロ」のファーストリテイリング(9983)は5.4%安と、軒並み大きく下落しています。

今週:24日早朝のエヌビディア決算、ジャクソンホール会議で相場急変動も!? 

 今週も米国の長期金利の上昇、それにともなう円安の進行と政府日本銀行による為替介入への警戒感、中国不動産バブルの崩壊懸念が、株式市場に打撃を与え続けそうです。

 米国では22日(火)に7月の中古住宅販売件数や8月のリッチモンド連銀製造業指数、23日(水)に製造業ならびにPMI(サービス部門購買担当者景気指数)の8月速報値など、景気や住宅に関する指標が相次いで発表されます。

 23日(水)(日本時間24日早朝)には、生成AIブームをけん引してきた高速半導体メーカー・エヌビディア(NVDA)が2023年5-7月期決算を発表します。

 決算の結果次第では、米国のハイテク株や東京エレクトロン(8035)アドバンテスト(6857)といった日本の半導体株も急変動に見舞われそうです。

 できれば相場の悪い雰囲気を打ち消すような好決算の発表に期待したいところです。

 そして、24日(木)からはジャクソンホール会議も始まり、25日(金)にはFRBのパウエル議長が講演を行います。

 昨年2022年の会議では、パウエル氏が株価の大敵である急速な利上げ継続を表明したため、講演直後にニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均が1,000ドル以上も急落しました。

 果たして、今回はどうなるのでしょう。

 先週16日(水)公表の7月FOMCの議事録では、参加者の大半が2023年中の利上げ継続に賛成するタカ派的な姿勢が際立ちました。

 しかし、このFOMC終了後の記者会見でパウエル氏は「スタッフはもはや景気後退を予想していない。インフレ率の確実な低下が確認できれば、政策金利を中立水準に引き下げる」と、利上げ打ち止めに理解を示すような発言も行っています。

 止まらない長期金利の上昇など、市場が悲観論に包まれている状況を見ると、パウエル議長が「9月には利上げなし」といったハト派寄りの発言をして、市場を落ち着かせようとする可能性も考えられます。

 日本国内に目を向けると、先週15日(火)発表の2023年4-6月期の実質GDP(国内総生産)は輸出の伸びや訪日外国人観光客の旺盛な消費に支えられ、前期比年率換算6.0%増という高い成長率になりました。

 しかし、物価高の影響もあって個人消費は前期比0.5%減少と3四半期ぶりのマイナスとなり、早くも息切れ。さらなる内需の拡大には期待できない内容でした。

 日本最大の貿易相手国・中国経済が今後さらに落ち込むと、日本経済の成長が一過性に終わる可能性も高くなります。

 2023年4月以降、日本株は大きく上昇してきましたが、8月末から9月にかけて正念場を迎える可能性が高いでしょう。

 通常、円安は株価にとって追い風にもかかわらず、その投資判断が通用しなくなっている現状は、かなりネガティブといえるかもしれません。

 日経平均株価が大台の3万円を割り込んでしまう可能性も視野に入ってきました。

 例年、8月後半から9月は相場が荒れる時期といわれています。今週も株価の乱高下に注意が必要です。