投資をいつまで続けるか問題

 20〜30歳代にかけては、「とにかく投資をスタートすること」「投資を継続すること」が主眼となります。必要資金を取り崩す以外は基本的には解約は避けて、市場の騰落に一喜一憂せずに少額の積立投資を継続することが望まれます。

 一方で、その資産を使う時期が近づいた場合、運用から手を引くことも考えていく必要があります。

 とはいえ、若い時分は資金ニーズに部分的解約をしても、老後のための資産形成という本丸は残っているので、投資を続けていくことに問題はありません。投資から手を引く問題は基本的に、老後資金をどこまで運用を継続させるか、というテーマになります。

 今まで投資をスタートすることが遅すぎる、つまり定年退職してようやく運用を開始するデメリットが指摘されてきました。

 団塊世代の一部が退職金で高額投資を行い、リーマンショックの直撃をくらってあわてて解約(もちろん損失確定)という事例は、本来ならその資金を取り崩していく時期にいきなり資産の多くを投資に回すという失敗例です。

 しかしこれからの世代は、「すでに現役世代から運用をしている」ため、その運用の「終わり方」を現役世代から考えていく必要が出てきます。

 これは今まであまり議論されてこなかったテーマです。

50歳:投資を続けるスタンスを維持

 年齢別に少し検討してみましょう。まず50歳前後です。

 ターゲットデートファンドのような、年齢に応じて投資比率を引き下げていく商品は50歳に到達したあたりから投資比率を引き下げていくことが多いようです。

 しかし、50歳に到達した個人投資家は基本的に運用方針をそのまま継続してもいいでしょう。自分なりの投資比率をイメージできているなら、無理に引き下げをする必要はありません。

 50歳はまだ時間があります。今50歳の人であれば、65歳まで賃金があまり減らずに働ける可能性も高く、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)に65歳まで積み立てが可能ですから15年もあります。むしろ70歳現役社会の当事者となっているかもしれません。

 50歳で投資資金を引き揚げてもいいのですが、その後も市場が上昇を続けるとさらなる上昇チャンスを逃すことになります。しかも現下の預金金利はインフレ率を大幅に下回っており実質目減りの状態にあり、移し替えると確実に「実質マイナス」になる状況にあります。

 若干リスクを落とした運用としたい場合は、株式投資などから部分的に個人向け国債(変動10年)などに動かしてみるのもいいかもしれません。

 とはいえまだ時間はありそうだ、という年齢です。

55歳:リタイアを意識し、投資比率を調整してもいい

 それでは5年後、55歳になったあたりではどう考えればいいでしょうか。

 55歳というのは悩みどころです。60歳定年の場合、あと5年しかない、と考えられます。しかし65歳リタイアだと思えば現役時代はまだ10年あります。近年では、60歳から65歳までの間の待遇が改善傾向にあり、この時期に資産の取り崩しをせざるを得ないケースは減少しています。

 セカンドライフを75歳までと思う人にとってはもう時間が少ない印象かもしれませんが、人生100年と考えるとまだまだ老後の時間もたっぷりあります。

 資産運用を止める方向に動くか、もう少し継続するかを考えるときは「55歳という年齢」ではなく、自分の人生の選択、特に「リタイア計画」を意識して判断してみるといいでしょう。

 標準的に65歳リタイアを考えるならもうしばらく運用を続けてもいいでしょう。70歳リタイアを検討しており65歳までは取り崩しを想定しない場合も同様です。一方で60歳リタイアを考えているか60歳以降は取り崩しもしながら緩く働こうと考えている人にとっては、資産の安定確保の必要性が高まっており、投資比率を引き下げていくことが考えられます。

 ターゲットデートファンドは、眼下の市場環境はおかまいなしに、「あなたの年齢に応じて投資ウエートを下げます」という投資行動を取りますが、個人の投資判断はもう少し柔軟性を利かせることができます。

 自分自身のリスク許容度を第一の判断理由とするべきですが、マーケットを自分なりに見極めてもいいでしょう。10年以上資産運用経験を持っている55歳であれば、今の相場が上昇中か、飽和感があるか、下落相場の回復途上なのか、といった相場観は持てるはずです。

「ここで資産の何割かを利益確定したあと、さらなる相場上昇があっても悔いはない」とか「次の下落相場到来前に資金の売却をしておきたい」というような判断を、自分自身のリタイア年齢という事情と組み合わせて決断してみてください。

 なお、企業型の確定拠出年金をやっている会社などは、55歳くらいは運用の手じまいを考えようと投資教育することがあります。ただしこれは60歳で拠出が終了するが、あくまでテンプレート的な知識であって最終判断は自分自身だということを忘れないようにしてください。

60歳:リタイア、継続雇用など状況を見極めて投資のスタンスを考える

 60歳はどうでしょうか。

 この場合、基本的には投資比率を引き下げてかまいませんが、具体的な継続雇用の状況や条件が判断材料に加わります。また、リタイア時期も具体的な決断として判断材料になるでしょう。

  • 60歳時点での賃金水準の低下状況(あるいは低下しないか)
  • 65歳時点でさらに働き続けることができそうか(あるいはリタイアが確定か)
  • 配偶者との年齢差、配偶者の労働意欲(特に年下の配偶者)
  • 自身と配偶者の退職金・企業年金制度の水準
  • 自身と配偶者のNISAやiDeCoの資産形成状況

を単純にメモ書きしてみるだけでも、自分たちの投資をどうシフトさせていくかの方向性が見えてくるはずです。

 マーケットの話は二番目、としつつも「来週以降に○×ショックがやってきたとき、今のままの投資割合でもいいだろうか」というケーススタディを自分に問うてみるのはいいでしょう。

 特に市場が上昇基調であるときこそ、「自分の年齢なら、ここで利益確定をしておいたほうがいいのでは」という判断を強めてみることをおすすめします。

 また、私たちがノーチェックなことが多いのは退職金です。60歳段階で現金が1,000万円前後入金される場合、60歳前後でいきなり現金のポジションが高まるので、「今の投資額、そのままキープしていても自然に投資割合がダウンするんじゃない?」ということがしばしば起こります。

 この場合は、今のまま投資比率を下げずにいても、60歳時点で一気に現金保有比率が高まるので、調整不要かもしれません。

健康に不安が生じたとき:病状に応じてリスクを抑えることを考える

 人生は徐々に多様化、多彩なものとなっていきますが、50歳代は健康における個人差が大きいことも注目すべきポイントです。

 あなたが、あるいはあなたの配偶者がもし病気になって、人生の残り時間を真剣に考えることになったら、そのときは年齢に関係なく、投資をストップし、むしろお金の使い方を考えてもいいでしょう。

 一方で、診断の早期(不安としては大きい時期)に慌てて全額売却することは、少しだけ思いとどまってみてください。検査結果によっては十分に快癒する可能性があったり、まだまだ長生きできる可能性もあります。

 とはいえ、長期入院をしつつ、下落相場とも向き合うようなことはあまり好ましくありませんし、病状悪化時に投資判断を下せないリスク資金が高額であることもいい状況ではありません。

 健康状況は、あなたの資産運用を手じまいさせる判断材料としていいでしょう。

急いで投資をやめる必要はないが「終わり方」は考えてみよう

 投資の「終わり方」について考えるとき総じて言えるのは、年齢よりも「リタイア時期」と「健康」のほうが投資に及ぼす影響としては大きいということです。

 投資においてはリスク許容度の重要性が指摘されますが、これは個人の投資スタンス、年齢、リタイア時期、健康状況や他の資産状況などが反映されます。

 リスク許容度が低下した場合、リスク資産の売却理由は十分です。相場が上昇中でも下落時でも、ここはためらわなくてもいいでしょう。

 少なくとも、株価に売却理由を求めるよりも、自分自身の内に売却理由を求めるほうが、個人的には合理的なものとなります。

 50歳代は、人生が無限に続くわけではないことと向き合う年代です。一方で、ほとんどの人においては人生の終わりが目の前というわけではありません(社会人人生の終わりは近づいていますが)。

 リタイア後も資産の一部を投資し続けることはまったく問題ありません。しかし全財産がリスク資産にふりむけられているというのはやはり年金生活者のリスク許容度に応じた保有状況とはいえないと思います。

 ここでは「60歳は○割投資比率」のような断定的な示し方をしていません。一人一人が自分なりの保有割合を検討し、部分的な投資の「終わり方」を考えてみてください。