バフェットはなぜ、エネルギー株へエクスポージャーを高めているのか?

 前述の通り、バフェットは期中にオクシデンタルの株式を追加取得し、6月末時点のバークシャーによる保有比率は25.55%まで高まった。バフェットは5月6日に開催されたバークシャーの年次株主総会において、「オクシデンタルの経営陣と事業を高く評価しているが、全てを買収する計画はない」と述べていたが、すでに4分の1を超える水準にまで買い進んでいる。

 5月6日のウォール・ストリート・ジャーナルの記事「バフェット氏が石油株に巨額投資 なぜ?石油株で大やけどした伝説の投資家バフェット氏、心変わりの理由とは」によると、過去(2008年と2014年)に石油大手への巨額投資で立て続けに大きな損失を出したバフェットが、ここに来てエネルギー株へのアロケーションを高めている理由について、炭素排出量の削減に向けて野心的な目標を掲げる企業が増える中でも、世界は今後も大量の石油を必要とし続けるとバフェットが確信しているからだと指摘している。

 バフェット自身も2022年、「米国が石油脱却へと近づいているとは思えない」と述べている。また、技術の進化により生産性が向上し、石油企業の多くは、原油相場が現在の水準を大きく割り込んでも、利益を確保できると語っている。例えば、オクシデンタルは原油がバレル当たり40ドルに下がっても、利益を確保できると言う。

NY原油CFD(週足)

マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

オクシデンタル・ペトロリアム(日足)

マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

オクシデンタル・ペトロリアム(週足)

マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

 バークシャーは昨年、FERC(米連邦エネルギー規制委員会)からオクシデンタルの普通株式を最大50%取得することを認められている。

 米国屈指の石油、シェールオイル生産地であるパーミアン盆地において優良な資産を保有していること、バランスシートの強化に加え株主還元も積極的に行っていることなど、バフェットが投資先に求める要素(バフェット・コード)の多くをオクシデンタルは満たしている会社だ。

オクシデンタル・ペトロリアムのキャッシュフローマトリックス(2017~2022年)

出所:石原順

 バークシャーは、オクシデンタルへの追加投資以外にも三菱商事や三井物産など日本の五大商社の株式を買い増した他、7月には米メリーランド州にあるLNG(液化天然ガス)輸出ターミナルのリミテッド・パートナーシップ権益を買い増す契約を締結するなど、エネルギーへの投資割合を高めつつある。

三菱商事(日足)

マーケットナビゲーターの売買シグナル(ピンク:買いトレンド・シアン:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

 米国の債務は今後10年間、毎日5.2億ドル増加する。「WSJは経済が好調だと主張している。彼らは、バイデン大統領が債務上限を引き上げたから株式市場が上昇していることを知らない」とロバート・キヨサキはXに投稿したが、なぜ、国債の大量発行が必要なのか? イエレン財務長官は「経済は順調」と述べているが、負債と資産が両方膨らんでいるだけの話である。

米国政府債務、債務上限以降1.2兆ドル急増し32.7兆ドルに

財務省、年末までに1.5兆ドルの負債を追加へ...
出所:WOLFSTREET

 バイデン大統領スキャンダル、ウクライナ情勢、米中対立、米国の政治的分断など、戦争の拡大とインフレの再燃が不安視されている。米国の物価高騰はいったん峠を越えた。しかし、バフェット氏がエネルギー株へのエクスポージャーを増やしている背景には、「インフレはそう簡単には収まらない」という歴史観があるのかもしれない。われわれはこの先、バイデノミクスの意味を学ぶことになるだろう。

 今後、地政学リスクが高まり、インフレが加速した場合、エネルギー株を保有するバフェットにとっては有利であり、一方、ディスインフレになり、金利が低下した場合はハイテク株有利となる。アップルを持っているバフェットにとっては大きなプラスだ。

 要は、アップル株と石油株の両建てで、これから金利が上がろうが下がろうが、何とかなるような運用になっているのである。

 一方で、相場の大暴落が起きるようなことも想定し、それに対する備えとして1,473億ドルもの現金も抱えている。大量の現金を保有しているため、市場が総悲観になっているときに買い向かうことができる唯一の投資家がバフェットである。

 バフェットは金融危機時に金融機関に投資を行い大成功した。2008年の世界金融危機(リーマンショック)の際、ゴールドマン・サックス・グループ(GS)に50億ドルを出資した。また、バンク・オブ・アメリカ(BAC)は2011年にサブプライム住宅ローン絡みの損失での株価が急落した後、バフェットから資本注入を受けた。

 バフェットの投資の神髄がわかるのは、金利上昇期や相場が大暴落したときである。次の金融危機の局面で、またしてもバフェットは規格外の安値で金融株や優良株を手に入れることになるのだろうか? 米民主党は来年11月の大統領選挙までは相場の暴落を回避しようとするだろう。

 したがって、本格的な金融危機や金融システムの崩壊はまだ先である。崩壊の始まりは「利下げ」となるだろう。