【質問】地方銀行で金融商品販売を担当している者です。山崎さんが日頃から仰る通り、対面営業から金融商品を買ってはいけないというのは当事者から見てもその通りだと思います。一方で、金融機関もビジネスなので、収益を出していかないといけないという面もあると思います。対面での金融商品営業の今後の在り方について、山崎さんのお考えを伺いたいです。

【回答】結論から言うと、コンサルティングと商品販売のアンバンドリングに対応する以外に道はないと思います。




 

 質問者が正直に仰っておられるように、対面での金融商品営業は多くの場合顧客のためになっていない一方で、ビジネスとして収益を確保しなければならないという難しい問題があります。率直に言って、行き詰まっています。

 行き詰まりを象徴する事例は、先般、金融庁が問題化するに至った、千葉銀行とその子会社が関わった仕組み債の不適切販売でしょう。千葉銀行は地方銀行協会の会長行であり、同行にしてここまで顧客を軽視したビジネスに注力せざるを得なかった点に、特に地方銀行以下の規模の地域・顧客密着型の金融機関の金融商品営業の窮状が表れています。

 銀行の窓口で投資信託や生命保険を売る営業行為で、顧客から見て高い手数料を正当化しようとする売り手側の言い分は「お客様への丁寧なアドバイス、コンサルティング」でしょう。その内実がコンサルティングというよりもセールスであることを脇に置いて建前論を続けると、これは、コンサルティング商品のソフトダラー・ビジネスです。

 ソフトダラー・ビジネスとは、運用会社が情報サービスや情報機器の使用代金などを、証券会社に支払う手数料を通じて支払う仕組みで行う証券会社側のビジネスを意味しますが、かつて隆盛を極めたこの手法は、顧客である機関投資側で非効率的なコストを発生させて、そのコストを最終顧客であるファンドのオーナーに転嫁するものとして批判され、現在あるものは禁止され、あるものについては大幅に縮小されています。

 機関投資家の運用の世界では、証券会社のサービスと売買手数料のアンバンドリング(≒分離)が求められ、進行しました。

 質問者もお気づきのように、顧客から見て、銀行等の窓口の担当者から、「アドバイスを貰いたい」、「話し相手になって欲しい」、「対面でないと不安なので購入に付き合ってほしい」といったニーズを満たすサービスに対して、金融商品の手数料を支払う実質的な取引形態は非常に経済効率が悪く、加えてその実態が不透明で見えにくい難点があります。

 ビジネスの進化は、この構造を生き残らせるテクニックを磨くことよりも、顧客にとって有利な方向に向かう方が好ましいし、その方が変化の先にあるビジネスもより安定的でしょう。

 1990年代に戻って投資信託などの「銀行窓販」(銀行窓口での販売)の解禁(行われたのは1998年、山一證券廃業の年でした)の意義は、顧客にとって投資信託へのアクセスを容易にすることだったと考えられます。この点で、窓販には一定の意義のある時期もあったと思われますが、今や投資信託はネット証券でノーロードで買えるし、投信よりも実質的な手数料率の高い生命保険や仕組み債券のようなものを銀行の窓口で売る社会的な意義は殆どありません。

 対面営業の金融機関は、コンサルティングは堂々と相談料を取って営み、金融商品の販売は行うとしてもローコストで顧客にとっても効率的なものに変化していくべきでしょう。

 次に問題になるのは、では、個人客へのコンサルティングをビジネスとした時に地方銀行のような金融機関に優位性があるか否かでしょう。

 法人向けの融資のような世界では、銀行が取引先の資金の流れを把握していることによる情報上の優位が(「まだ少々」という位のものかも知れませんが)存在しますが、個人向けの取引ではどうなのか。

 例えば、私個人の資産や生活ぶりや好みなどについて、私が口座を持っている取引銀行(入社が三菱商事だった縁で三菱UFJ銀行です)は私の情報を「ある程度」持っているはずですが、今や、税金の支払いや公共料金の支払いを把握していないし、もちろん商品の購買に関わる好みや、生活上の関心時も知りようがないはずです。

 他方、楽天やアマゾンのようなネット通販業者や、グーグル、フェイスブックのようなネットのプラットフォーマーは、どこまで情報を利用していいかはともかくとして、おそらくコンサルティングを行うに当たって、私の取引銀行よりも私に関して有用な情報を多く持っています。

 銀行は、取引のある個人に関してある時期にあっては、他者よりも優位な情報を持っていましたが、今はその優位性を失いつつあるように思えます。おそらく、その端緒は、窓口の混雑と手間の面倒を嫌って顧客の公共料金や税金の支払いをコンビニ等に渡した辺りに遡ることが出来ると思います。コストの掛かる小口個人向け取引を捨てても、法人取引や海外ビジネスに収益を求められるメガバンクは当面それでいいかも知れませんが、地方銀行や地域・顧客密着型の金融機関は自らに「個人向けのコンサルティングで自分たちに勝ち目はあるのか?」という問いを突きつけなければならないでしょう。

 仮に、私が地方銀行の若い行員だったら、どうするでしょうか?

 たぶん、転職するだろうと思います。