先週は「米国債格下げショック」が世界中の金融市場を直撃しました。

 日経平均株価(225種)は、米国債の格下げが発表された翌日の2日(水)に前日比768円安と今年最大の下げ幅を記録。4日(金)の終値も前週末比1.7%安の3万2,192円まで566円も下落しました。

 格下げの直撃を受けた米国でも、機関投資家が運用指針にするS&P500種指数の4日終値が前週末比2.3%近く下落するなど、全面安の展開でした。

 大波乱の元凶となったのは、8月1日(火)に格付け会社フィッチ・レーティングスが米国の外貨建て長期債券の格付けを最上級の「AAA」から「AAプラス」に一段階、引き下げたことです。

 債券の信用度が引き下げられると、債券の価格が下落し、債券価格とは反比例の関係にある金利が上昇します。

 米国の長期金利の指標である10年国債の金利は3日(木)、一時的に4.2%近くに到達。約9カ月ぶりの高水準まで上昇しました。

 金利が上昇すると株式市場に流れ込む資金が減り、現在の株価が割高に映るため、株価急落の原因になります。

 今週も米国債格下げショックの余波や10日(木)発表の米国の7月CPI(消費者物価指数)次第で、再び株価急落が進む恐れもあります。

 週明け7日の東京株式市場の日経平均は前週末の米国株が軟調となった流れを受けて、反落して始まり、取引開始直後に前週末終値比360円超値下がりする場面もありました。

 その後、下落幅を縮め、午後の取引で上昇に転じ、この日の終値は61円高の3万2,254円でした。

 日本銀行が7日午前に、7月に開かれた金融政策決定会合での発言をまとめた「主な意見」を公表し、改めて金融緩和の継続姿勢が確認されたことが相場の下支えになったようです。

 また、先週末に目の病気「加齢黄斑変性」の治療薬が米当局から承認されたアステラス製薬(4503)が上昇するなど、業績の上向きに期待がかかる個別銘柄に買いが入りました。

 日本では先週から始まった2024年3月期の第1四半期(4-6月期)の決算発表が今週、ピークを迎えます。

 先週も下げ相場の中、好決算を発表したトヨタ自動車(7203)日立製作所(6501)が前週末比5%高と逆行高。

 8日(火)の神戸製鋼所(5406)川崎重工業(7012)、9日(水)のホンダ(7267)など、円安や値上げ浸透で業績好調な外需株。

 10日(木)のすかいらーくホールディングス(3197)日本マクドナルドホールディングス(2702)などコロナ明けの旺盛な消費再開やインバウンド(訪日外国人)需要に沸く内需株の好決算が、株価の反転上昇のきっかけになることに期待したいところです。

先週:米国債格下げで金利急上昇!米国の強い雇用指標も株価の逆風に

 先週前半の日本株は、TOPIX(東証株価指数)が7月31日(月)、8月1日(火)と2日連続でバブル経済崩壊後の最高値を更新するなど、好調に推移しました。

 1日(火)には、日本一の時価総額を誇るトヨタ自動車(7203)の2023年4-6月期の四半期営業利益が日本企業初となる1兆円超えを果たし、同社の株価は2日に上場来高値を更新。TOPIX上昇の原動力となりました。

 また、7月28日(金)にAI(人工知能)向けの高性能光学デバイスの販売好調を発表したプラスチック精密加工機メーカーのエンプラス(6961)がストップ高を連発。

 4日(金)の終値が前週末比2倍近い92.1%高の買い気配で終わるなど、好材料が出た株の急騰も目立ちました。

 しかし、1日(火)に格付け会社フィッチ・レーティングスが米国債の格下げを発表すると、米国株とともに日本株も急落に転じました。

 格下げの理由としてフィッチ・レーティングスが挙げたのは、(1)今後、3年間で予想される米国の財政悪化、(2)高水準かつ増大する政府の債務残高、(3)度重なる債務上限問題の手詰まりと土壇場での解決などでした。

 米国では、二大政党である民主党と共和党の政治的対立によって、政府の債務上限の引き上げを認める法案が、ぎりぎりまで成立しない事態が何度も起こってきました。

 2023年5月から6月初めにかけて、この債務上限問題が紛糾(ふんきゅう)し、米国債が債務不履行(デフォルト)に陥る直前で、政府の債務上限適用を2025年1月まで停止する「財政責任法案」が成立。

 なんとか危機が回避されましたが、フィッチ・レーティングスはそれに先立つ5月24日に米国の信用格付け見通しを「ネガティブ」に変更。

 そして、8月1日、実際に格下げを発表しました。

 米国では債務上限問題が紛糾したこともあって、政府の保有する現金残高が枯渇しており、31日(月)に米国財務省が7-9月の連邦政府の借り入れ必要額見通しを1兆ドル(約141兆円)まで大幅に引き上げていたことも、不安に拍車をかけました。

 今回の格下げは、米国政府が今後、年率4~5%を超える高い利払い負担を抱えながら、借金を続けられるかどうかという、米国政府の債務の持続性という根源的な問題に疑問符を突き付ける格好になりました。

 そのため、問題がまだまだ尾を引く可能性もあります。

 先週は米国の強い雇用情勢を示す指標も相次ぎました。

 2日(水)、米国の給与計算代行サービス会社ADP(オートマチック・データ・プロセッシング)が発表した7月の米国民間雇用者数は前月比32.4万人増と予想を大幅に上回りました。

 4日(金)発表の米国雇用統計では、7月の農業部門以外の新規雇用者数が前月比18.7万人増と予想を下回ったものの、平均時給の伸びは前月比0.4%、前年同月比では4.4%の上昇と依然、高水準でした。

 強い雇用市場は賃金の上昇を通じて、物価が高止まりする原因になります。

 そうなると、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が今後も利上げを続ける可能性が高くなるため、株価の下落に拍車をかけました。

 3日(木)には世界有数の産油国サウジアラビアが9月まで原油の追加減産を延長することを発表して、原油価格が上昇。

 原油高はインフレが高止まりする元凶になることもあり、株価にとって逆風となりました。

 ただ、米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏が3日(木)、米国債格下げについて「心配する必要はない」と発言。積極的に米国債の買い増しを行っていると公表したことでも分かるように、米国債を巡る不安はいずれ解消するものと思われます。

 特に、米国債格下げによる米国の長期金利の上昇で、円相場は1ドル=141円台後半で円安が続いています。

 円安は海外の売上比率が高い自動車や半導体メーカーなど、日本株にとっては強い追い風になりそうです。

今週:日本株は好調な決算発表で再浮上?10年国債の金利上昇が心配

 今週は、先週の米国債格下げショックが沈静化するか、それとも依然としてくすぶり続けるかが焦点になりそうです。

 相場の転換点になりそうなのは、10日(木)に発表される米国の7月CPIです。

 米国CPIの前年同月比の上昇率は、2月が6.0%、3月が5.0%、4月が4.9%、5月が4.0%、6月が3.0%の伸びと、ここ数カ月、予想を下回って急低下しています。

 今回の7月CPIの予想は、前年同月比3.3%の伸び、前月比0.2%の上昇となっていますが、果たして、これまでと同様に、物価高の伸び率鈍化を好感して、株価が上昇するかどうかに注目が集まります。

 逆に物価が高止まりするようだと、株価にとっては非常にネガティブです。

 11日(金)には、物価の先行指標といわれる7月PPI(卸売物価指数)も発表。

 6月PPIは前年同月比わずか0.1%の伸びとなり、企業間レベルの物価高の沈静化が確認されています。

 米国債の格下げショックで注目度が薄れていますが、日銀のYCC(イールドカーブ・コントロール:長短金利操作)政策の柔軟化の行方も気がかりです。

 YCC政策は短期から長期までの国債利回りが描く曲線を適正な水準に保つ政策ですが、7月28日(金)に終了した金融政策決定会合で、植田和男総裁率いる日銀は、10年国債の金利変動幅の上限を実質的に1.0%に引き上げる決定を下しました。

 これを受けて日本の10年国債の金利は先週3日(木)、一時9年半ぶりの高水準となる0.655%まで上昇。

 日銀はYCC政策柔軟化を決めた後も31日(月)に臨時の国債買い入れオペを実施するなど、金利急変動を抑え込んでいます。

 植田総裁も「1%まで上昇することは想定していない」と発言していますが、海外のヘッジファンドによる日本国債の売り仕掛けなどで、想定外の1%まで上昇する恐れもあります。

 その場合、日銀がYCC政策を変更したにもかかわらず1ドル=140円台を維持してきた為替相場が急速な円高に振れる可能性もあり、日本株がさらに急落してもおかしくないでしょう。

 ただ、米国債の格下げというショックで一時的に下げたものの、米国経済がソフトランディング(軟着陸)するという見通しに変化はありません。

 また、米国債の格下げが発表される前は、トヨタ自動車など2024年第1四半期の好調な企業決算の発表で、TOPIXをはじめ日本株の全体相場は非常に堅調でした。

 今週はお盆休みを目前にして市場の取引が減少する「夏枯れ相場」になる可能性もありますが、米国債格下げショックを吸収して、日米の株価が戻りを試す展開になる可能性が高いかもしれません。