先週は、欧米と日本の主要中央銀行が相次いで金融政策を決定する「中銀ウイーク」でした。

 意外にも、世界の金融市場に最も大きなインパクトを与えたのは28日(金)のわが国・日本銀行の金融政策決定会合になりました。

 植田和男総裁率いる日銀は事前予想に反して、短期から長期までの国債利回りが描く曲線を適正な水準に保つYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)政策の微調整を決定しました。

 2022年12月以降、日銀は長期金利の指標となる10年国債の金利変動幅の上限を「0.5%程度」に設定してきましたが、それを「0.5%程度をめどに」という文言に変更。

 長期金利の操作をこれまでより柔軟化する方針に変更したのです。

 28日(金)未明にこのYCC政策変更の見込み報道が流れると、米国でも10年国債の金利が4%台まで急上昇。

 それまで絶好調だった米国株は27日、急落しました。

 28日の東京株式市場の日経平均株価(225種)も日銀の政策発表直後には一時、前日比853円安の3万2,037円の安値まで急落。

 しかし、その後、急速に反発し、28日終値は小幅安となる131円安の3万2,759円まで回復。前週末比では1.4%高で終了しました。

 28日の米国株も物価高のさらなる鈍化を示す経済指標の発表を受けて大幅高。

 機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は前週末比1.01%高。

 27日(木)に下落するまで、歴史的な13営業日連続の上昇を続けたニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均も前週末比0.65%高となるなど、米国株は全面高の展開で終わりました。

 ニューヨーク外国為替市場の円相場の終値も1ドル=141円15~25銭と、予想外の円安に振れました。

 世界中に駆け巡った日銀のYCC政策修正という「ショック」はある意味、「泰山鳴動してねずみ一匹」ということわざのように収束しそうな状況です。

 週明け31日(月)の日経平均株価は、前週末の米国株高や、円安を好感して、前週末終値から上げ幅は一時600円を超え、終値は前週末比412円高の3万3,172円でした。終値では今月5日以来となる3万3,000円の大台を回復しました。

 米国経済のソフトランディング(景気軟着陸)論が大勢を占める中、今週の米国株、そして日本株はさらなる高値を試す展開になる可能性が高そうです。

先週:日銀YCC修正の余波は短期間で収束。米景気のソフトランディング論に沸き返る株式市場!

 先週は、米国企業が堅調な2023年4-6月期決算を発表。

 25日(火)発表のグーグルの親会社アルファベット(GOOG)、26日(水)発表のフェイスブックの親会社メタ・プラットフォームズ(META)の決算は、主力の検索広告事業やネット広告事業が堅調で予想を上回り、両社の株価はともに前週比10%超も値上がりしました。

 米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が25日(火)~26日(水)に開いたFOMC(連邦公開市場委員会)では、0.25%の利上げを決定し、政策金利は5.25~5.5%と22年ぶりの高さまで引き上げられました。

 FOMC後に記者会見したFRBのパウエル議長は次回9月19~20日のFOMCの利上げに関しては「データ次第」と否定も肯定もしませんでした。

 しかし、「もはやリセッション(景気後退)は見込んでいない」と米国経済の強さを強調しました。

 このことから株式市場は多少下落しただけで、FOMCの追加利上げを無事、通過。

 27日(木)には、2023年4-6月期の米国実質GDP(国内総生産)が発表され、パウエル議長の発言通り市場予想を上回り、年率換算で前期比2.4%の成長になったことも判明。

 米国経済が高金利でもリセッションに陥らないことを、株式市場が「確信」した1週間になりました。

 さらに、28日(金)に発表された米国の6月個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)は前年同月比3.0%の伸びまで低下。

 変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアPCEも、予想を下回る前年同月比4.1%の伸びまで鈍化しました。

 FRBが政策金利を5%超まで引き上げても、景気も企業業績も雇用も堅調に推移しているのは、ある意味、大きな謎です。

 一部では、米国経済の主役が、高い金利を払ってお金を借りなくてもインターネット上のサービスだけで利益を上げられる情報通信業にシフトしたことが、高金利でも景気が後退しない理由として挙げられています。

 28日のPCEデフレーターの伸び率鈍化が示すように、今後は景気が堅調なまま、物価が落ち着き、やがてFRBが利下げに転じるという、株式市場にとって願ったりかなったりのベストシナリオも視野に入ってきました。

 一方、先週の日本株は28日(金)の日銀の金融政策決定会合におけるYCC政策修正に対する臆測報道によって、全体市場が上下動する神経質な展開でした。

 そんな中、中国の景気刺激策期待もあって好調だったのが景気敏感株の鉄鋼株。

 21日(金)に業績上方修正を発表した電炉メーカー大手・東京製鉄(5423)の28日終値は前週末比20.4%高となりました。

 また日銀YCC政策修正を受け、貸出金利の上昇で収益向上が見込める銀行株が週間業種別ランキング1位に躍進。

 主力の三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)は前週末比5.7%高しました。

今週:アップル、アマゾン決算&雇用統計に注目!YCC修正による世界的な金利上昇は大丈夫?

 今週は米国企業の2023年4-6月期決算発表がピークを迎え、3日(木)(日本時間では4日早朝)にはアップル(AAPL)アマゾン・ドット・コム(AMZN)の発表が予定されています。

 8月1日(火)には、米国ISM(全米供給管理協会)が7月製造業景況指数を、3日(木)には同非製造業景況指数を発表します。

 いまだ好不況の境目の50を切っている米国製造業の景況感が上向けば、重厚長大産業の組み入れ比率の高いダウ工業株30種平均がさらなる高値を目指す展開に期待できそうです。

 4日(金)には7月の米国雇用統計も発表。

 7月の非農業部門新規雇用者数は前月比20万人増が予想され、インフレ率に影響を与える平均時給の伸びは前月比0.3%増の予想になっています。

 新規雇用者数がそれほど落ち込まず、平均時給の前月比や前年同期比の伸びが鈍化すると、米国株の上昇に弾みが付くでしょう。

 一方、今週の日本株はひょっとしたら日銀YCC政策修正に対する懸念が再燃して、乱高下するかもしれません。

 日銀が10年国債の金利変動幅の上限を0.25%から0.5%に突然引き上げたのは2022年12月20日でした。その日の日経平均終値は前日から669円下落し、その後も下降トレンドが続きました。

 それに比べると、先週の政策修正による下落は一過性に終わり、今週の日本株も今のところ堅調に上昇しています。

 日銀は今回、金利抑制のために無制限に10年国債を買い入れる「指値オペ」の上限金利の水準を1.0%まで引き上げる決定をしました。

 それを受けて、10年国債の28日終値時点の金利は0.545%まで上昇し、31日には一時0.605%を付け、2014年6月以来約9年ぶりの高水準となりました。

 こうした中、複数の報道によると、日銀は31日、臨時の国債買い入れオペ(公開市場操作)を通知したとのことです。対象となるのは残存期間5年超10年以下で、買い入れ額は3,000億円。10年国債の利回りが急騰したことを受けて、それを抑える狙いがあるとみられています。

 10年国債の金利がいきなり1%まで上がる状況にはありませんが、債券市場は当局のけん制の動きをにらみながら、長期金利の水準を探っていくことになりそうです。

 一方、相変わらず、短期金利がマイナス0.1%に据え置かれたこともあり、市場でもマイナス金利解除といった本格的な量的金融緩和の修正は、早くて2024年以降になるという予想が大勢を占めています。

 ただ、海外では日銀が長期金利の上限目標を事実上、撤廃したことで、ジャパン・マネーの一部が米国債市場から、魅力的な金利水準に戻りつつある日本国債に回帰するのではないかという見通しが台頭。

 米国債の金利の上昇傾向が鮮明になっています。

 これまで日本は、空前の低金利で借りた日本円を高金利のドルに両替し、利ザヤを稼ぎながら、海外のリスク資産に投資する「キャリートレード」の巨大な資金供給源になってきました。

 その資金供給が先細りすると、高金利でも勢いよく上昇してきた米国株にも悪影響が及ぶ恐れがあります。

 実際、米国債券市場では相変わらず、景気後退の前兆シグナルといわれる逆イールド(短期金利が長期金利を上回っている状態)が続いています。

 逆イールドは、FRBが短期金利の利上げを続けることで景気が落ち込むという見通しから、長期金利が低下することで起きる現象です。

 やはり、FRBがこれほどハイペースな利上げを続けても景気後退が起こらないのは、どこか「異常」な面もあるのです。

 当面は「高金利でも好景気、物価もそのうち落ち着く」というソフトランディング論の台頭で株高が続きそうです。

 しかし、3月に発生した米国の地方銀行の破たんなど、突発的な金融ショックや、好景気の副作用で物価が長期間、高止まりするリスクなど、高金利が株式市場に与える「負の面」にも十分注意を払いましょう。