今日の為替ウォーキング

今日の一言

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 インフレ期待とは、物価の行方を人びとがどう見るかの予想だ。「インフレ期待が安定」しているときは、物価の上昇が続かないと予想する人が多く、物価上昇の抑制効果がある。しかし、「インフレ期待が不安定」になると、物価の上昇が続くと考える人が多くなり、買い占めや売り惜しみ、あるいは賃上げ要求といった行動が発生しやすく、現実の物価を押し上げ加速させることになる。

 中央銀行の仕事は、金利を調節することによってインフレ期待を安定させ、物価高との悪循環を防ぐことだ。まさに今、FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)が行っていることである。

 FRBは1年間で述べ5%を超える利上げを続けることで、ようやくインフレ率をピーク時の半分まで下げることはできた。それでも、依然としてFRBの目標値2%より高い水準にとどまっている。ここままインフレと利上げのデッドヒートが続けば、いずれかの時点で経済が耐えられなくなり、深刻な景気後退が発生するリスクが高まる。

 FRBは6月のFOMCでは利上げを見送ったが、パウエルFRB議長は、利上げペースを緩めたのであって、利上げサイクルの終了ではないと強調している。FRBが利上げを続けるのは、今を逃してしまうとインフレ期待が暴走してしまうからだ。RBA(豪準備銀行)やカナダ中銀は、インフレが再燃して再利上げに追い込まれている。

 世界の中央銀行にとって、インフレ期待の定着は悪夢でしかない。しかし、日銀は何十年もの間、そうなることを望んできたのだ。

 日銀は逆にインフレ期待を刺激することに集中している。円安を煽って輸入インフレに火をつけ、日本人に物価上昇を長く経験させることで、インフレ期待を形成させようとしてきた。
そして、ついに日銀はインフレの離陸に成功した。日本の消費者のインフレ期待は急激に上昇している。(2023年7月13日)

 植田日銀総裁は「長期的に2%のインフレ目標が達成された暁には、インフレ予想も大体2%になる」とインフレ期待が定着することを期待している。しかしインフレが都合よく2%で止まるはずないのは、他国が証明している。

 もっとも、日銀は利上げしたくても、絶対にできない理由がある。将来税収で返済する必要がある国の長期債務残高、いわゆる「国の借金」は昨年6月末時点で1,255兆1,932億円だったと財務省が発表した。国民1人あたりで単純計算すると、初めて1,000万円を超えた。慢性的な財源不足が続いているほか、新型コロナ対策の巨額支出も借金増に拍車を掛けている。債務残高はここ10年で1.5倍に急増した。

 金利が上昇した場合の利払い費負担が財政運営にとって重大なリスクとなる。

 日銀が利上げによって円安を抑える、あるいはインフレを抑制することは、ほぼ不可能な状態になっているのだ。

今週の注目経済指標

出所:楽天証券作成