先週の相場は4月以降、爆上げを続けてきた日本株がとうとう急落に見舞われました。

 先週の日経平均株価(225種)は3万3,500円をはさんだ横ばい相場が続いていましたが、6月23日(金)は前日比483円安の3万2,781円と大幅に下落。前週比末では924円安となり、下落率は2.7%。実に11週間ぶりの下落となりました。

 欧米の利上げ懸念、中国経済の低迷など理由はさまざまですが、最も大きな要因は、これまでの上昇で大きな利益を得た投資家たちが一斉に利益確定に走ったことでしょう。

 特に日経平均は6月に入って前週末の16日(金)まで前月比で9.1%も上昇。上昇幅は実に2,818円に達していました。

 バブル経済の崩壊など「大相場」の最終局面では、株価の急騰が加速した後、一気に急落が始まる現象がよく起こります。

 日経平均の週足チャートを見ると、先々週(6月12~16日)、大陽線(一直線の上昇を示す実体の長い陽線)で大きく急騰した後、先週(19~23日)はその急騰の3分の2近くを失う大陰線で急落しています。

 この形は相場が大天井を打って、急落するときによく見受けられる値動きのパターンなので、今週も注意が必要です。

 米国市場では、機関投資家が運用指針にするS&P500種指数が前週比1.39%の下落と、6週間ぶりに下落しました。

 生成AI(人工知能)の「ChatGPT」の普及を好感して、日本株と似た急騰が続いていたハイテク株中心のナスダック総合指数も前週比1.4%安と、9週間ぶりの下げに転じました。

 ただ、日経平均先物市場は23日(金)深夜に一時急落したものの、そこから急速に値を戻しています。

 週末には、ロシア国内において民間軍事会社ワグネルが武装反乱を起こしたものの撤収し、創設者のエフゲニー・プリゴジン氏がベラルーシに亡命という報道が流れました。しかし、その後、消息不明が伝えられています。

 ロシア国内の混乱で新たな地政学的リスクが台頭する可能性もあります。

 週明け26日の日経平均は前週比末82円安の3万2,698円となり、3営業日連続で下落しました。午前中は取引開始直後に欧米の株安から400円近く売られる場面がありましたが、割安感が出た銘柄を買い戻す押し目買いで切り返しました。しかし午後は、機関投資家による資産再配分による売りへの警戒感などから、半導体関連や商社株などで下落が目立ちました。

 今週の日本株は、先週末の急落が利益確定売りによる単なる調整にすぎないのか、それとも急落相場が始まる前兆なのか、その瀬戸際に立たされていると言えるでしょう。

先週:商社株が急落の先導役に!米国は年内利上げ1回か2回かで右往左往

 先週、23日(金)の日本株急落を主導したのは、米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏が保有する大手商社5社の株価急変でした。

 大手商社5社は、週初の19日(月)にバフェット氏が持ち株比率を平均8.5%台まで引き上げたことが報じられたこともあり、22日(木)まで3社が11連騰するなど、青天井で上昇していました。

 しかし、大手商社の収益源である原油価格が世界的な景気後退懸念で先週、下落していたことも影響したのか、23日になって利益確定の売りが殺到。

 主力の三菱商事(8058)の23日終値が前日比4.4%安まで下落するなど、総崩れとなりました。

 中国経済の停滞も日本株の足を引っ張りました。

 中国では新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に封じ込めようとする「ゼロコロナ」政策を解除した後も経済の低迷が続いています。

 また、政府の大規模な景気刺激策が遅れていることに失望感が生まれています。

「ピークチャイナ」(中国の隆盛がピークを打ったという説)という見方も台頭し、23日の香港ハンセン指数は前週末比5.7%超の急落に見舞われました。

 日本株も久々に中国株とツレ安し、中国経済の影響が大きい景気敏感株の非鉄金属、輸送用機器、電気機器が業種別値下がり率のワースト3になりました。

 欧米の中央銀行による強硬な利上げ継続姿勢も相変わらず不安要素です。

 21日(水)、22日(木)には、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が半年に一度の議会下院・上院での議会証言を行いました。

 パウエル議長はインフレとの戦いは「まだ先が長い」と発言し、データ次第では年内、1~2回の追加利上げは避けられないことを示唆しました。

 さらに22日には、米国以上に高いインフレ率に苦しむ英国の中央銀行にあたるBOE(英中央銀行イングランド銀行)が政策金利を一気に0.5%も引き上げて、5%にすることを決定。

 欧米の中央銀行が、景気がハードランディング(急激に失速)しても、物価上昇を抑制するための利上げ継続姿勢を鮮明にしたことが世界的な株価の下落につながりました。

 むろん、米国ではFRBのパウエル議長が「あくまでデータ重視」と強調したことから、2023年の追加利上げが年2回ではなく1回で済むのではないか、という希望的観測も根強く残っています。

 また、22日にはアマゾン・ドット・コム(AMZN)がクラウド事業における生成AIサービスを増強するため1億ドル(約143億円)の投資を行うことを発表して株価が上昇。

 引き続きAI関連のニュースがハイテク株上昇の支えになっています。

今週:中央銀行総裁発言や米国物価指標に注目!円安進行で為替介入も心配

 今週の日本株は、4月から3カ月続いた急騰がまだ続くか、それとも終わってしまうのかを決める重要な1週間になりそうです。

 今週の経済指標では、27日(火)発表の米国の5月新築販売件数や6月の消費者信頼感指数、6月のリッチモンド連銀製造業指数など、米国の景気後退を占う指標が注目されそうです。

 28日(水)には、FRBのパウエル議長がECB(欧州中央銀行)のフォーラムで発言します。

 このフォーラムでは、日本銀行の植田和男総裁やECBのラガルド総裁の発言も予定されており、各国の中央銀行総裁が物価高を抑え込むため、どれぐらい金融引き締めに積極的なタカ派発言をするかに注目が集まるでしょう。

 29日(木)には米国の前週分の新規失業保険申請件数も発表に。

 先週22日発表の新規失業保険申請件数が26.4万件に達して、1年8カ月ぶりの水準で高止まりするなど、米国ではこれまで強かった労働市場に軟化の傾向が見られます。

 今週もさらに上昇するようだと、失業者の増加=米国の景気後退懸念が台頭する恐れがあります。

 今週、最も注目度の高い経済指標は、30日(金)に発表される米国の5月個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)です。

 今回5月のPCEデフレーターは市場予想では前年同月比3.8%増と、4月実績の4.4%の伸びからの鈍化が見込まれています。

 一方、変動の激しいエネルギーや食品を除いたPCEコア・デフレーターは、4月と同じ前年同月比4.7%の上昇と、高止まりが予想されています。

 このPCEコア・デフレーターは米国の中央銀行FRBが物価指標として最重要視しているため、予想以上に高止まりすると、2023年の再利上げが1回ではなく2回あるという悲観論が台頭し、株価が急落するかもしれません。

 物価に関しては日本でも、株価が急落した先週23日(金)に5月のCPI(全国消費者物価指数)が発表され、生鮮食品を除いたコアCPIは前年同月比3.2%の上昇と伸び率が鈍化しました。

 しかし、生鮮食料品を除く食品は9.2%も上昇し、1975年10月以来、47年7カ月ぶりの高水準となりました。

 粘り強い金融緩和の継続を表明した先々週16日(金)の金融政策決定会合後の記者会見で、植田日銀総裁は「物価の下がり方がやや遅い」と発言しましたが、その通りの結果になりました。

 しかも、先週の円相場の為替レートは23日のニューヨーク外国為替市場の終値が1ドル=143円70銭台と7カ月ぶりの円安に振れており、輸入品のコスト増加で物価の高止まりが続きそうです。

 物価が高止まりするようだと、政府や日銀に批判の矛先が向く可能性があります。

 そうなると、植田日銀が、短期から長期までの国債利回りが描く曲線を適正な水準に保つことを目指すYCC(イールド・カーブ・コントロール)政策に早期に修正を加える可能性も高まってしまうため、株価にとってはネガティブと言えるでしょう。

 実際、YCCについては15、16日の政策決定会合で、政策委員の一人から「将来の出口局面における急激な金利変動の回避、市場機能の改善、市場との対話の円滑化といった点を勘案するとコストが大きい。早い段階で、その扱いの見直しを検討すべきだ」との指摘が上がりました。日銀が26日に公表した、会合での主要な発言をまとめた「主な意見」で明らかになりました。

 また、円相場は、2022年9月に政府・日銀が円買いドル売りの為替介入に踏み切った水準に近づいています。為替政策を担当する財務省の神田真人財務官は26日朝、記者団の取材に「足元の動きは急速で一方的だ。高い緊張感を持って注視する」と強い語気で述べました。

 再び為替相場をけん制する政府・日銀の動きで、株価の急落に拍車がかかってしまう恐れもあります。

 ただ、米国のFRBが年内1~2回の再利上げに踏み切るという情報は、すでに6月14日終了の前回の米国FOMC(連邦公開市場委員会)で示唆されていました。

 先週のパウエル議長の議会証言であらためて株価の懸念材料として注目が集まったものの、ロシア情勢を除き、日本株を取り巻く状況が大きく変化したわけではありません。

 そう考えると、先週の急落を跳ね返して今週、日本株が上昇基調を回復し、日経平均があらためて3万4,000円台を目指す展開もないとはいえないでしょう。

 とはいえ、先週、株価が急落したことで、33年ぶりのバブル後最高値圏で株を高値つかみしてしまった人たちの戻り売り、見切り売りも想定されます。

 今週1週間はこれまで急騰してきた銘柄を中心に、かなり激しく乱高下する展開になることは間違いないでしょう。