日本株の強さはとどまることを知らず、先週も青天井で上昇しました。

 先週、これまでの急騰にさらに火をつけたのは、米国でインフレ沈静化が鮮明になり、14日(水)終了の米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げの休止が決定された海外要因でした。

 16日(金)終了の日本銀行の金融政策決定会合で、今後も粘り強く金融緩和を続けていく方針が発表されると、日経平均株価(225種)は一時、3万3,772円の高値を付けました。

 16日の終値は3万3,706円で前週末比4.5%も上昇。

 週間の上昇幅は1,440円に達し、2023年3月期の決算発表などで急騰した5月15~19日の週間1,420円高を上回りました。

 一方、先週の米国株はインフレ鈍化や利上げ休止の好影響で、機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は16日、前週末比2.58%高と大きく上昇。

 ハイテク株が集まるナスダック総合指数も前週末比3.25%高と8週連続の上昇を記録し、日本株には劣るものの、高パフォーマンスが続いています。

 今週19日(月)~23日(金)の日経平均について、週明け19日午前の東京株式市場では売り買いが交錯し、午前終値は前週末比18円高でした。しかし、午後の取引が始まると売りが優勢になり、下げ幅は一時400円を超え、終値は335円安の3万3,370円でした。

 これまでの日本株の急激な上昇への警戒感による売りに押された結果でしたが、一方で、日本株の先高観から押し目買いが入り下値を支える動きも見られました。

 今週はこうした高値警戒感から利益確定売りで下げる場面が今後もあると思われます。しかし、この高値警戒感以外にさしたる悪材料や不安要素が見当たりません。3万4,000円の大台到達を試す展開も期待できます。

先週:時価総額37兆円のトヨタが約13%上昇。循環物色続き、日銀会合で急騰に拍車!

 先週の日本株上昇の象徴となったのは、売上高、時価総額ともに日本一の企業・トヨタ自動車(7203)です。

 13日(火)に、同社が2027年に次世代電池の本命とされる全固体電池を搭載した航続距離の長い電気自動車を実用化すると報じられると、13日の株価は前日比5.1%高。

 約7カ月半ぶりにPBR(株価純資産倍率)が1倍台を回復したことが話題になりました。その後もトヨタ自動車株には大規模な買いが入り、16日(金)の終値は前週末比12.9%も上昇。

 時価総額が約37.8兆円で日本一大きな上場企業の株価が、一週間で10%以上も上昇するのはかなり珍しく、大量の投資資金が今もって日本株市場に勢いよく流れ込んでいる証拠といえるでしょう。

 また、中小型のIT、ネット系成長株が組み入れられた東証マザーズ指数は16日(金)の日銀の政策決定会合で量的緩和の継続が決まったこともあって、16日の終値が前週末比7.5%高まで上昇。年初来高値を大幅に更新しました。

 利益確定売りに押される銘柄もありますが、投資対象となる銘柄が次々と移り変わり、相場が活況となる循環物色が続いています。

 売買代金の6割弱を個人投資家が占める東証グロース市場に属する中小型の成長株に上昇が波及しています。個人投資家の株取引が今後もさらに盛り上がりそうなことは、日本株全体にとっても大きな好材料です。

 一方、米国では、これまで米国経済を悩ませてきた物価高の沈静化が鮮明になりました。

 13日(火)発表の5月CPI(消費者物価指数)は、前年同月比4.0%の上昇で予想を下回り、2021年3月以来の低い伸びに。

 変動の激しいエネルギーと食品を除いた5月コアCPIは前年同月比5.3%の伸びと、いまだに高止まりしていますが、市場ではあまり問題視されませんでした。

 14日(水)発表の5月PPI(卸売物価指数)も前月比0.3%の低下と、0.1%の低下を見込んでいた市場予想を下回りました。前年同月比では1.1%下落し、11カ月連続で上昇幅は縮小しました。

 企業が仕入れる原材料などの川上での価格動向を示すPPIは川下のCPIの先行指数です。その値は、2023年に入って前月比ではマイナス圏、すなわち物価下落を示すことが多くなっており、CPIの先行きにも影響を与えそうです。

 14日には、米国の政策金利を決めるFOMCが終了し、株式市場が待ち望んだ利上げの休止を発表。

 米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、2022年3月から15カ月間、計10回のFOMCで途切れることなく利上げを続けてきましたが、その利上げサイクルがついに休止しました。

 しかし、FOMC後に公表された「政策金利水準の分布図(ドットチャート)」によると、2023年末の政策金利予想の中央値は、3月時点の5.125%から5.6%に引き上げられ、大半のFOMC参加者が年末までにあと1~2回の追加利上げを見込んでいることが判明しました。

 米国株はこれを「金融引き締めに積極的な、非常にタカ派的な見通し」とネガティブに受け止め、14日の米国株市場は一時急落しましたが、FRBのパウエル議長がFOMC後の記者会見で「どの程度の金融引き締めが適切か、まだ決定を下していない」という、穏当な発言に終始したこともあり、再び上昇に転じました。

今週:重要指標少なく小動き?21日パウエル議会証言や突発的金融危機に注意!

 今週の株式市場は、FOMCや日銀の金融政策決定会合という大きなイベントを通過したことから、上昇が一服して、いったん値固めの横ばい相場に入る可能性もあります。19日(月)の終値は利益確定売りが優勢となり、前週末比335円安の3万3,370円でした。

 ただ、日本株にさしたる悪材料があるわけではなく、日経平均はすでにバブル経済崩壊後の最高値を更新し続けています。

 そう考えると、日経平均が上昇して、3万4,000円台に到達する可能性もまだ十分にあるといえるでしょう。

 今週は19日(月)の米国市場が休場で、その後も大きな経済指標の発表がありません。

 20日(火)には米国の5月住宅着工件数など、高金利政策で減速している米国住宅市場関連の指標が発表になります。

 今週、最も注目されるのは21日(水)に行われるパウエルFRB議長の、米国議会下院の金融サービス委員会で行われる証言でしょう。

 14日のFOMC終了後の記者会見でパウエル議長は、米国個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)のうち、変動の激しいエネルギーと食品を除いたコアPCEが直近前年同月比4.6~4.7%増で高止まりしていることを憂慮していました。

 21日の議会証言でパウエルFRB議長が、来る7月25~26日のFOMCでの利上げ再開を匂わせるような発言をすると、株価にとってはネガティブかもしれません。22日には上院の銀行・住宅・都市委員会でも証言が予定されています。

 22日(木)には、米国の新規失業保険申請件数も発表。

 先々週の8日発表分は前週比26万1,000件増加と1年半ぶりの高水準まで悪化し、15日発表の分も前週比ほぼ横ばいの26万2,000件の増加になりました。

 22日の発表でも失業保険申請件数の増加が続くようだと、米国の雇用の落ち込みが景気後退につながる懸念も生まれそうです。

 日本では23日(金)に5月の全国消費者物価指数が発表になります。生鮮食品を除くコアCPIの4月の上昇率は前年同月比3.4%と、3カ月ぶりに上昇率が拡大しています。

 5月も上昇率拡大が続くようだと、金融緩和の継続を表明している日銀の植田和男総裁に対する風当たりが強くなる可能性もあります。

 また、米国の10年国債の金利が先週は一時3.8%台まで上昇し、日米の金利差拡大で16日のニューヨーク外国為替市場では1ドル=141円台後半まで円安が進行。

 今後もこうした急激な円安進行を繰り返せば、日本政府・日銀が昨秋に続き円買いドル売りの為替介入に踏み切ってもおかしくありません。今週はドル/円相場の動向にも注意が必要です。

 しかし、すさまじい日本株の上昇を見ると「これはもはやバブルの再来ではないか」という声も聞こえてきそうです。

 株価が上がっても、身の回りの景気や生活が劇的に改善された実感はあまりありません。

 日経平均株価採用銘柄225社の6月16日時点の平均PBRは1.38倍、予想PER(株価収益率)は15.33倍まで上昇しています。

 しかし、米国のS&P500の2023年に入ってからの平均PBRは4倍前後、平均PERは21~24倍前後となっており、それに比べれば、いまだ割安です。

 実際、先週12日(月)に発行済み株式数の11%超、300億円を上限にした大規模な自社株買いと、2024年3月期の大幅増配を発表した陸運会社のセイノーホールディングス(9076)は13日(火)にストップ高となり、16日(金)の終値は前週末比20.1%高まで急騰。

 同社のPBRはいまだに0.8倍と1倍を割り込んでいます。

 バブルというのは、株価が実体経済から乖離(かいり)して根拠なき急騰が続くことを意味します。

 まだまだPBR的に割安で、今後も積極的な株主還元策を発表した割安株に見直し買いが続くという「根拠」があるうちは、日本株が根拠なきバブルの領域に入ったとはいえません。

 そう考えると、7月、8月に向けて、日経平均が1989年12月29日に付けた3万8,915円の史上最高値を飛び越え、夢の4万円台に到達するのも夢ではないでしょう。

 むろん、高金利政策が続く欧米では、3月に突如発生した米国の地方銀行破たんの再発懸念、さらにはオフィスや商業施設向けに組成されたCMBS(商業用不動産ローン担保証券)の価格下落が続いています。

 突発的な金融危機の発生には、一定の注意は必要でしょう。