日本株の上昇はとどまることを知りません。

 先週の日経平均株価(225種)は22日(月)の終値が1990年7月26日以来、約33年ぶりとなる3万1,086円のバブル経済崩壊後の最高値を更新しました。

 23日(火)も取引時間中に3万1,352円の高値を付けて最高値を更新したものの、利益確定売りもあって終値は下落。

 24日(水)は中国で新型コロナウイルス感染症が再流行しているという報道を受けて急落しました。

 しかし、25日(木)、26日(金)は、1ドル=140円台に達する円安トレンドの加速もあって連騰。

 特に、24日に米国半導体メーカー・エヌビディア(NVDA)の決算発表で、AI(人工知能)向け半導体販売の絶好調ぶりが明らかになると、日本でも半導体関連株が全面高となり、上昇相場にさらなる弾みをつけました。

 その結果、26日の日経平均の終値は3万0,916円、前週末比0.4%高となり、先週の取引を終了しました。

 27日(土)には、米国株の足を引っ張っていた米国政府の債務上限問題について、民主党のバイデン大統領と共和党のマッカーシー下院議長の間で原則合意が成立。

 米報道によると、米国政府の債務上限の適用を2025年1月まで約1年半、停止する妥協案が31日(水)にも米議会上院・下院で決議される見通しとなりました。

 合意により、6月上旬に米国債の利払いなどが債務不履行(デフォルト)が起こるリスクが回避される見通しです。

 このポジティブなビック・ニュースを受けて、29日(月)の日経平均株価は前週末終値からの上げ幅が一時600円を超え、3万1,560円を付けました。23日の取引時間中に付けたバブル経済崩壊後の最高値(3万1,352円)を超えました。午後の取引では高値警戒感から上値が縮小したものの、終値は3万1,233円となり、終値としてバブル後最高値を更新しました。

 一方、先週の米国株は、エヌビディア株の急伸もあって、26日のハイテク株主体のナスダック総合指数が前週末比2.5%高と5週連続で上昇しました。

 その半面、製造業の組み入れ比率が高いダウ工業株30種平均は、米国の景気後退懸念もあって、前週末比1%のマイナスとさえない展開が続いています。

先週:半導体株急騰、AIバブル到来か!?

 先週の日本株は、利益確定売りに押されて、週前半の23日(火)、24日(水)は下げました。

 その原因になったのが、中国における新型コロナの再流行です。

 感染症の専門家が22日に1週間当たりの新規感染者が6月末に6,500万人に達するという予測を出し、24日、中国・北京市当局がマスク着用など感染対策の徹底を呼び掛けました。

 その報道を受け、24日には化粧品メーカー・資生堂(4911)が前日比5.6%安となるなど、中国関連株や中国からの訪日観光客の増加期待で上昇していたインバウンド(訪日客)関連株が売られました。

 中国経済の減速懸念で、先週25日(木)の香港ハンセン指数は前週末比3.6%安と急落。26日(金)は祝日のため休場でした。

 最近のアジア市場では日本株高・中国株安がセットのように進んでいます。

 先週の日本株市場をけん引したのは、AIに使う半導体の製造装置メーカーです。

 液晶向け洗浄装置で世界トップの芝浦メカトロニクス(6590)が26日、前週末比25.9%高、半導体試験装置のアドバンテスト(6857)が22.1%高となるなど、半導体関連株が軒並み上場来高値を更新しました。

 債務上限問題を巡って一進一退の展開が続いた米国株にとっても、画像処理などに使う高速GPU製造で急成長を遂げたエヌビディア(NVDA)の強気決算が状況を一変させる起爆剤となりました。

 同社は24日(水)、2023年2-4月期決算を発表。

 AI向け半導体の販売が好調で、売上・利益とも大幅な増収増益となったことに加え、次の2023年5-7月期の四半期売上高についても、市場予想を大幅に上回る110億ドル(約1兆5,500億円)という強気な見通しを示しました。

 これを受けて、エヌビディアの26日の株価は前週末比24.6%も上昇。

 米国市場に上場する半導体メーカー30社で構成されるフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数とも呼ばれます)も前週末比10.7%上昇するなど、半導体関連株の急上昇はAIバブル到来を感じさせるほど力強いものでした。

 ただし、不安要素もあります。

 それを示したの米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)の5月会合(2、3日)の議事録です。

 5月会合では0.25%の利上げが決定されましたが、24日に公開された議事録には、次回6月13、14日開催のFOMCで利上げを停止するという明確な見通しは示されていませんでした。

 26日(金)に発表された米国の4月個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)も、前年同月比4.4%の上昇、前月比0.4%の上昇と、伸び幅が拡大。

 米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度委員会)が物価指標として最重要視する、変動の激しいエネルギー・食品を除いたコアPCEデフレーターも前年同月比4.7%の伸びと、前月(3月)の4.6%の伸びから、伸びが大きくなりました。

 市場では、この結果を受けて、6月13、14日の次回FOMCでも0.25%の追加利上げが行われるという予想が過半数を占めるまでに台頭。

 米国の長期金利の指標である米国10年国債の利回りは週初の3.6%台から25日(木)以降、3.8%台前後まで上昇しています。

 さらなる利上げや長期金利の上昇は、米国株にとって明らかにネガティブな要因です。

 しかし、米国の金利上昇でドル相場の為替レートは先週1ドル=140円台に再到達。

 今後も円安トレンドが継続するようなら、絶好調・日本株にとっては絶好の追い風といえるでしょう。

今週:絶好調・日本株に死角は?米国債格下げや雇用統計、追加利上げ観測に注意!

「セル・イン・メイ(株は5月に売れ)」という投資格言をいい意味で裏切り、爆騰した日本株も、今週から6月に入ります。

 PBR(株価純資産倍率)1倍前後の割安な好業績株に対する増配や自社株買いを期待した買いが引き続き継続するでしょう。

 先週始まった半導体関連株の急騰は、「AI craze(人工知能に対する熱狂)」相場と表現されるまでになっています。

 そういう意味で、今の日本株には一見、死角らしい死角が見当たらない状況です。

 あえて不安要素を挙げるなら、まずは中国経済の低迷。

 27日(土)に中国国家統計局が発表した2023年1-4月の工業利益は前年同期比20.6%の減少となり、中国国内の需要低迷や生産者物価の低下は深刻なようです。

 また、米国債務上限問題はぎりぎりの段階で解決する運びになりそうなものの、24日(水)には、格付け会社大手のフィッチ・レーティングスが米国債の信用度を格下げ方向で見直す「ネガティブ・ウオッチ」に指定。

 31日(水)に予定される議会での債務上限適用停止の法案に対しては、共和党の強硬派を中心に相当数の反対戦力もあるようで、実際に法案がすんなり可決されるかどうか予断を許しません。

 今から約12年前の2011年8月5日には、同じ債務上限問題が紛糾したあと、スタンダード・アンド・プアーズ社が米国債の格付けを最上級の「AAA」から「AAプラス」に一段階引き下げ、その後、株価の急落や円高を招きました。

 その再来に注意が必要でしょう。

 IT、バイオ関連など成長企業が集まる東証マザーズ指数も26日、前週末比マイナス2.9%安とさえない展開が続いています。

 PER(株価収益率)が高く、株価がその企業のあげる利益に比べて割高な高PER銘柄は個人投資家の人気が高いこともあり、日経平均のバブル後最高値更新が続いても市場全体がそれほど盛り上がっていない要因といえるでしょう。

 週明け29日(月)の米国市場は、メモリアル・デー(戦没将兵追悼記念日)のため休場です。

 今週発表の重要指標としては、6月1日(木)の米国ISM(全米供給管理協会)の5月製造業景況指数が注目されそうです。

 半導体株などハイテク株の上昇を後目(しりめ)に、低迷を続ける米国の製造業が回復に向かうかどうかは、米国の景気後退懸念に直結する不確定要素になっています。

 6月2日(金)には5月の米国雇用統計も発表されます。

 非農業部門雇用者数は前月比19万人増の予想になっていますが、2023年に入って予想を大幅に上回る雇用者数となる月が多くなっています。特に、インフレに直結する平均時給は4月、前月比0.5%の上昇となりました。3月以降、伸び幅が拡大しており、今回も注目が集まりそうです。

 今回も強すぎる数字だと、FOMCの6月会合での追加利上げがさらに濃厚になるため、米国株にはネガティブでしょう。

 株式市場も6月に入ります。

 日経平均は、年初から月単位でずっと上昇が続き、5月は26日(金)の終値時点で2,059円も上昇。昨年の年末からの上昇は実に4,821円、上昇率は18.5%近くに達しています。

 株式市場は6カ月を一区切りにして動きやすいといわれますが、上昇相場入りした日本株もすでに6カ月目。

 今後は株価の乱高下も起こりそうですので、注意が必要でしょう。