生成AIの明と暗

 生成AIの進歩と普及は「戻らざる川」でしょう。筆者もチャットGPT3、同4、それを使うマイクロソフトのBing、グーグルのBardなどを投資の理解にどの程度使えるかをテストしてきました。  

 元々の目的は、筆者が主幹の投資勉強会に参加するゼミ生多数からの質問に、生成AIはどの程度適切に答えられるかを調べ、皆さんの学習に役立ててもらいたいということからでした。

 現時点で投資に関する生成AIの力量は、質問さえ的確にインプットすれば、教科書的解説には迅速に、かなり的確に回答してくれる、といった印象です。言葉と言葉の連なりを確率的に並べていくものであり、いわば、経験のないジュニアやアシスタントが、経済学や金融論の基本知識をいかして調べ物をしてくれる、という趣です。しかも瞬時に答えてくれるので、大変重宝するでしょう。しかし、正しいかどうかを、経験・知見を踏まえてチェックする必要があります。

 チャットGPTは、少し古いデータに基づいており、最新のデータを踏まえた回答には難がありました。また、相場の予測や判断には対応していません。仮に対応させる術が導入されても、相場形成の力学メカニズムから言えることは、一般に生成AIが普及した場合、その回答から抜け駆け的に勝つチャンスを継続して得ることはできないでしょう。

 そうかといって、相場や投資を自分の頭で考えて行いたいという人にとって、生成AIを使わないことは機会損失であり、劣後するリスクがあります。投資は生成AIで優位に立てるわけではないにしても、理解の底上げには大いに役立つでしょう。投資にかかわらず、生活や仕事のさまざまなシーンで重宝するので、まずはなじんでおくことを勧めます。

 一方で、個々の人や企業にとって、ジュニア専門家レベルのことを簡単にできる重宝さを持ち、専門家の裾野を形成する多くの人々が職を危うくするリスクもあります。また専門家でも企業でも投資家でも、優勝劣敗が激しくなる恐れもあります。フェイクでの情報操作でも、個々人レベルが侮れない力を発揮して、市場のみならず、社会や政治などあらゆる場面で混乱が生じるかもしれません。マクロでもミクロでも、生成AIには明るい未来ばかりではなかろうという警戒の目が必要です。

相場のこれからへの含意

 ごく少数の生成AI銘柄にけん引されてきた米国株相場が、裾野を広げて上伸するか、広がり無く失速するかは、市場の内部事情だけでは判断できません。生成AIというテーマが大きい一方、企業間の優勝劣敗が鮮烈に表れそうなため、GAFAMや一部半導体企業だけが先進し続けるケースを想像しても、外部環境の悪化で他の銘柄が売られるときに、生成AI銘柄だけがリスクをしのげるとは言えないでしょうし、値上がりによって含み益が大きくなれば、損失穴埋めのための売り対象にもなり得ます。

 現在、筆者の短期の米株式相場の想定は、政府債務上限問題をクリアしたら、中間持ち直し場面でもあり、上値の視界がいくらか広がり、生成AI銘柄から裾野も広がる堅調展開があり得る、というものです。

 しかし中期では、昨今の裾野銘柄のもたつきが示唆している通り、高金利、逆イールド、信用引き締まりによる景気悪化リスク、逆業績相場リスクを拭うことはできないとの判断を維持します。相場が下落の深みにはまる事態は、その後の金融緩和を早く強くし、次の株高サイクルを促す可能性を高めます。この過程で、大きなテーマ性を持つグロース銘柄はアウトパフォームする可能性が高いことまで視野に入れれば、不安ばかりではないでしょう。

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