日本が5月3日(水)以降、ゴールデン・ウイーク休暇に突入した先週、米国では地方銀行の経営不安が拡大するなど、非常に大きな動きが起こりました。

 1日(月)には、全米14位のファースト・リパブリック銀行(FRC)が破たん。3月の米地銀シリコンバレー銀行破たんなど一連の金融不安の影響で、3月末時点の預金残高が昨年末時点から約4割以上流出し、株価が急落していました。

 3日(水)には、米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げが発表されました。

 3日から4日(木)にかけて、米国西海岸が地盤の地銀パックウエスト・バンコープ(PACW)ウエスタン・アライアンス・バンコープ(WAL)が身売りを検討しているという報道が流れ、米国株は急落。

 しかし、4日に米巨大IT企業アップル(AAPL)が2023年1-3月期決算を発表すると、事前の予想を上回る内容で、市場の雰囲気は一気に改善。

 5日(金)発表の4月の米国雇用統計の非農業部門新規雇用者数が予想を大幅に上回る前月比25.3万人増となり、失業率は3.4%に低下したことも好感され、米国株は全面高の展開になりました。

 その結果、先週末の終値は、機関投資家が運用の指針にするS&P500種指数が前週末比0.8%安、ハイテク株が集まるナスダック総合指数が0.07%高とほぼ横ばいとなり、週前半の急落を取り戻して終わりました。

 全体として見ると、米国地銀の経営不安がくすぶっているものの、米国経済全体を揺るがすような事態にはならないので、見て見ぬふりをしても大丈夫、といったところでしょうか。

 一方、東京株式市場の日経平均株価(225種)は連休入り前の5月2日(火)の終値が前週末の4月28日(金)と比べて301円高の2万9,157円まで上昇し、約8カ月ぶりの高水準で取引を終えました。取引時間中には2万9,278円を付け、昨年8月17日の高値2万9,222円を超えました。

 連休中も取引が行われた日経平均先物市場では、6月に期限を迎える直近先物価格の5日終値が2万9,070円と、前週末比5円高で終了しました。

 そうした流れを受け、今週の日経平均株価は値下がりして始まりました。連休明け8日(月)の終値は連休前の2日(火)終値比208円安の2万8,949円でした。

先週:米地銀の経営不安高まるもアップル決算、雇用統計で持ち直す! 

 先週は、米国の地銀の経営不安をめぐる楽観論と悲観論が交錯し、乱高下する展開になりました。

 週明けの5月1日(月)にはファースト・リパブリック銀行が、米国の預金保険制度を運営するFDIC(連邦預金保険公社)の管理下に置かれ、経営破たん。

 資産規模では米国史上2番目に大きな銀行破たんになりました。

 しかし、FDICの資金面も含めた迅速な関与のもと、米メガバンク最大手のJPモルガン・チェース(JPM)が即座にファースト・リパブリック銀を吸収合併したことで安心感が広がりました。

 むろん、FDICによる綱渡りの破たん処理が、今後もうまくいくかどうかは分かりません。

 2日(火)には、米国政府の債務上限問題が再浮上しました。

 米国では民主党と共和党の議会対立で、政府の債務が法律で決められた上限を越えてしまい、政府機関の停止や米国債がデフォルト(債務不履行)に陥る危機が、これまで何度も浮上しています。

 今回は、イエレン財務長官が「現在の債務上限額の引き上げに議会の承認が得られないと、早ければ6月1日には債務不履行に陥る可能性がある」と表明したため、2日の米国株は急落しました。

 5月3日(水)には、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)がFOMCで政策金利を0.25%引き上げると発表した直後に、米カリフォルニア州を地盤にする銀行持ち株会社のパックウエスト・バンコープ(PACW)が身売りを検討しているという報道が飛び込みました。

 4日(木)にはアリゾナ州が地盤のウエスタン・アライアンス・バンコープ(WAL)にも身売り報道が浮上し、同社は報道を完全否定したものの、3~4日の米国市場は地銀株が全面安となるなど、大荒れの展開となりました。

 パックウエスト・バンコープの5日(金)終値は前週末比43%も下落。

 ウエスタン・アライアンス・バンコープも27%安で先週の取引を終えました。

 ただ、そうした暗い雰囲気を払拭(ふっしょく)したのが4日発表の巨大IT企業アップル(AAPL)の2023年1-3月期決算でした。

 2023年1-3月期は2四半期連続の減収減益でしたが、売上高、純利益ともに事前の市場予想を上回り、懸念されたiPhoneの販売がインド市場の開拓もあって、1-3月期としては過去最高を記録。

 アップル株は決算発表翌日の5日に前日比4.7%近く上昇。2023年に入ってから上昇傾向が続き、前年末比33.6%に達しています。

 5日発表の4月米国雇用統計は、非農業部門新規雇用者数が前月比25.3万人増と極めて好調な結果に。

 平均時給の伸び率も0.5%増と、3月の0.3%増から伸び率が拡大し、市場予想を上回りました。

 本来、平均時給の上昇は物価高に直結する悪いニュースです。

 しかし、2、3日のFOMC後に当面の利上げ停止が示唆されたため、いくら雇用統計の数字が良くても、当面はさらなる利上げに直結しないこともあって、5日の米国株は週前半の下落の大部分を取り戻す大幅高で終わりました。

 一方、欧州に目を映すと、4日(木)のECB(欧州中央銀行)の理事会で、域内の物価高を抑え込むため0.25%の利上げが決定されました。

 ラガルド総裁は会見でインフレ抑制対策を引き続き重視し、利上げを継続する姿勢を示しました。ただ、利上げ幅は前回までの0.5%から0.25%に縮小したことから、外国為替市場では円高ユーロ安に振れ、一時1ユーロ=147円台前半を付けました。

 ここ最近は、日欧金利差の拡大から2日(火)に14年7カ月ぶりに1ユーロ=151円台を付けるなど歴史的なユーロ高の状況が続いていましたが、いったんユーロが売られた形です。ただ、その後は再びユーロ高が進み、148円台後半で推移しています。

 円安ユーロ高が追い風となる欧州関連銘柄として、ユーロ圏の売上高比率が高いカメラ・事務機器のキヤノン(7751)、電動工具のマキタ(6586)、自転車部品のシマノ(7309)などの株価上昇に期待が持てそうです。

今週: 米CPI伸び縮小なら年内利下げ論がさらに台頭?依然、米地銀は心配! 

 今週は米国の物価指数の発表に関心が集まるとともに、バックウエスト・バンコープなど、米地銀の破たん懸念が引き続き焦点になりそうです。

 10日(水)には米国の4月CPI(消費者物価指数)が発表されます。

 前回の3月CPIは前年同月比5.0%、前月比0.1%の上昇と伸び率が前月から低下し、株価にとってはポジティブでした。

 今回の4月CPIは前年同月比5.0%、前月比0.4%の上昇が予想されています。

 最近の株式市場では物価上昇がいずれ鈍化していくだろうという希望的な観測が優勢で、CPIに対する関心は薄れています。

 3日に0.25%の利上げを発表したFOMCでは、声明文から「いくらかの追加引き締めが必要となる可能性を見込む」という文言が削除されました。

 つまり、CPIが予想より高止まりしても、FRBがさらに利上げを続ける可能性は少ない、という楽観論も、CPIの株価に対する影響力が減少している原因といえるでしょう。

 ただ、FOMC後の記者会見で、FRBのパウエル議長は「インフレ率が高止まりすれば、利下げはしない」と、あらためて年内の利下げを否定しています。

 実際、変動の激しい食品やエネルギーを除いた3月のコアCPIは、住居費、医療費、外食費など、いったん物価が上昇すると、なかなか低下せず、粘着性が高いといわれるサービス分野の伸びが続き、高止まりしたままです。

 10日発表の4月コアCPIが高止まりするようだと、先走り気味に年内利下げを織り込んでいる株式市場の期待感が後退し、株価急落につながる恐れもあります。

 11日(木)には物価の先行指数の意味合いが強い4月PPI(卸売物価指数)も発表されます。

 4月PPIでも物価の伸びが鈍化すれば、年内利下げ期待が再び活気づいて株高につながるかもしれません。

 米国株は今、楽観シナリオと悲観シナリオの間で不安定に揺れ動いている状況です。

 楽観シナリオは、物価鈍化が鮮明になって、年内利下げが確実なものになり、米国経済がそれほど落ち込むことなく好調を持続し、株価も本格的な上昇トレンドに入る、というもの。

 悲観シナリオは、物価の高止まりが続き、年内利下げ期待が後退。高金利継続の中、米国の地銀不安がくすぶり続け、金融機関の貸し渋りなどで米国経済がハードランディングに陥るというもの。

 当然、投資家の多くは、株が下がることより上がる方に期待を寄せがちです。

 そのため、先週は地銀不安が再燃する中でも楽観論が大勢を占めて、株価は大きく値を戻しました。

 これを危ういとみるか、株価の本格上昇の前触れとみるかは判断が分かれるところです。

 一方、日本では4月28日(金)に初の金融政策決定会合を終えた日本銀行の植田和男新総裁が予想以上に金融緩和に前向きなハト派であることが判明。

 政策決定会合では、大規模緩和を当面維持するとともに、「1年から1年半をかけて」過去の金融政策の運営を多角的に検証することを表明しました。

 これが市場の一部では、1年から1年半程度は金融緩和策に変更を加えないものと、非常に希望的に解釈されています。

 新型コロナウイルス感染が落ち着き、マスク着用が緩和される中でのゴールデン・ウイークの内需活況もあり、日本株は5月も好調に推移するかもしれません。