先週末4月7日(金)の日経平均株価(225種)の終値は前週末の3月31日と比べ523円安い2万7,518円となり、反落しました。

 米国の代表的な株価指数S&P500種指数も、イースター(復活祭)休暇前の6日(木)終値は0.1%安となりました。週間ベースで下落したのは、地方銀行・シリコンバレー銀行が破たんした3月第1週(3月6日~10日)以来となりました。

 ハイテク株が集まるナスダック総合指数も1.1%下げました。

 株価が大幅に上昇した先々週(3月27~31日)は欧米の金融不安が後退し、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が年内にも利下げに転じるだろうという希望的観測が広がりました。

 しかし、先週は一転して落ち込み、下げ幅も大きくなりました。株価が反落した原因は、先々週の急騰の反動もありましたが、米国の景気後退懸念が高まったことです。
 

 これまでは景気後退の兆候が出れば、FRBの早期利下げにより株価が上向くことへの期待が大きかったですが、景気後退そのものへの恐れが強まると、株価が景気後退懸念を無視して上昇し続けるのは難しくなります。

 1週間ごとに市場が反応する材料が変化していることもあり、今週4月10日(月)~14日(金)も不安定な動きが続きそうです。

 特に、12日(水)発表の米国の3月CPI(消費者物価指数)の結果やFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録の内容次第では、市場の流れが大きく変化するかもしれません。

先週:金融危機収束による急騰から一転、米景気指標悪化で日本株は大幅安に

 先週は、米国で発表される景気や雇用に関する指標が、ことごとくと言っていいほど景気悪化を示したことを受け、日米で株価が下落しました。

 4月3日(月)にISM(全米供給管理協会)が発表した3月の米国製造業景況指数は、好不況の境目となる50を大幅に下回る46.3まで低下。2年10カ月ぶりの低水準に落ち込みました。

 新規受注の落ち込みや売り掛けなど信用取引されることの多いモノの売買が減少したことが、大幅な落ち込みの原因でした。

 5日にはISMの3月非製造業景況指数の公表もあり、新規受注の急速な落ち込みで予想を大幅に下回る51.2まで低下。いまだ好不調の境目となる50は越えていますが、2月の55.1から大幅に下がりました。

 これまで雇用市場やサービス部門の景況感は、新型コロナウイルス禍からの経済再開で活況が続き、人手不足による米国のインフレ率高止まりの元凶になってきました。

 指数低下は米国のインフレ鈍化につながり、FRBの利上げ打ち止めに対する期待に拍車がかかるため、これまでなら株価にとって好材料と受け取られていたはずです。

 しかし、3月に発生した米国地銀の相次ぐ破たんにより、銀行による民間分野への貸し渋りなどへの懸念が高まっています。

 今後はFRBがこれまで行った大幅な利上げによって、米国が景気後退に陥るリスクへの警戒感が高まりそうです。

 7日(金)発表の3月の米国雇用統計では、非農業部門の新規雇用者数が予想をわずかに下回ったものの、23万6,000人増と堅調な結果でした。

 物価高の原因になりやすい平均時給の伸びも前年同月比4.2%増と鈍化しました。

 先週は米国株以上に日本株の下落が大きくなりました。

 日本の主力株には世界経済の動向に業績が左右されやすい景気敏感株が多いことが、その原因でしょう。

 業種別でも、鉄鋼、タイヤメーカーなどゴム製品、機械、電気機器、自動車会社が属する輸送用機器など、外需産業の下落率が大きくなりました。

 米国が景気後退に陥ってFRBの利上げが打ち止めになると、日米金利差縮小の思惑から円高が進む懸念もあります。

 先週の週初3日に1ドル=133円台半ばだった円相場は一時130円台半ばまで円高方向に振れたことも、海外での収益が目減りする外需株の多い日本株の下げ要因になりました。

 一方、2日(日)にOPEC(石油輸出国機構)やロシアなどで構成されるOPECプラスが予想外の原油減産を決定して原油価格が上昇。

 原油を運搬する海運会社や資源を扱う鉱業会社の株価は好調に推移しました。

 高配当株としても人気が高い商船三井(9104)の7日の終値は前週末比1.7%高、海外に多数の石油権益を持つINPEX(1605)は1.9%高となりました。

今週:市場の懸念はインフレから景気後退へ!FOMC議事録で利下げ否定なら急落? 

 今週も米国発の経済指標に振り回される展開が続きそうです。米雇用統計の発表直後、外国為替市場の円相場は、1ドル=131円台半ばから一時132円台前半まで円安が進みました。

 この円安の流れが続き、週明け10日の東京株式市場の日経平均株価終値は、前週末比115円高の2万7,633円となりました。

 12日(水)には現在、世界の株式市場で最も注目度の高い、米国の3月CPI(消費者物価指数)が発表されます。

 2月CPIは前年同月比6.0%上昇にとどまり、伸びは8カ月連続で鈍化しました。3月CPIは市場予想では5.1%の伸びと、さらに物価高が沈静化すると見込まれています。

 CPIが予想以上に鈍化すれば、米国の政策金利を決めるFOMCの5月会合で利上げが行われないことへの期待感が高まり、株価上昇につながるかもしれません。

 この12日には、0.25%の利上げを決定したFOMCの3月会合の議事録も公表されます。

 現在の株式市場では、FRBのパウエル議長が「年内の利下げはない」と明言しているにもかかわらず、市場サイドは早ければFOMCの7月会合で利下げが行われると予想しています。

 FRBの見解と市場の期待感に大きな乖離(かいり)が生じています。

 もし今回公表される3月の議事録で、「高金利の維持、年内利上げなし」というFRBの強行姿勢が再確認されると、市場に動揺が広がるかもしれません。

 また、今回のFOMC議事録は、シリコンバレー銀行破たんなど米国で金融危機が深刻化している最中に行われた討論内容です。金融危機に対するFRBの見解に関する部分にも注目が集まりそうです。

 そのほか、13日(木)には物価の先行指数といわれる米国の3月PPI(卸売物価指数)、14日(金)には米国経済の7割を占める個人消費の動向がわかる3月小売売上高や速報性の高い4月のミシガン大学消費者態度指数の速報値も発表になります。

 週後半には米国企業の2023年1-3月期決算発表も開始します。

 14日には銀行セクターの大手JPモルガン・チェース(JPM)ウェルス・ファーゴ(WFC)シティグループ(C)が発表。3月の金融危機が業績にどう影響したかに注目が集まりそうです。

 米国以外では、11日(火)にIMF(国際通貨基金)が年2回、4月と10月に公表(1月と7月にも改訂版を公表)する世界経済見通しが発表されます。

 先週6日には、IMFの専務理事を務める東欧出身のエコノミスト、クリスタリナ・ゲオルギエワ氏が「2023年の世界経済の成長率は3%を下回る。先進国の約9割は成長率が低下しそうだ」と発言。

 IMFの世界経済の2023年成長率見通しが1月時点の2.9%増からさらに落ち込むと、景気後退リスクが一段と意識されそうです。

 日本では、10日(月)夜に植田和男新日銀総裁の就任記者会見も行われます。

 就任早々、黒田東彦前総裁の異次元緩和策を見直すといったサプライズ発言をすることはまず考えられず、「金融緩和を継続することが大切」という従来の無難な発言に終始しそうです。

 しかし、短期金利だけでなく長期金利の代表的指標である10年国債の金利を0%前後に抑え込むYCC(イールドカーブコントロール、長短金利操作)政策の具体的な修正方法にまで植田新総裁が言及すると、日本株急落の引き金になりかねないので、多少の注意は必要でしょう。

 植田新総裁のもとでYCCの修正は確実視されており、そうした市場の思惑をどうなだめることができるか、市場との対話力が試される初の記者会見になりそうです。

 3月に発生した相次ぐ地銀の破たんで、米国では信用不安に苦しむ銀行が民間企業への融資を絞り込む恐れが広がり、それが「隠れた金融引き締め」につながるリスクになります。

 そのため、今後の株式市場では、物価動向より、米国の景気悪化が株価の一番の下げ材料になりそうです。

「米国がくしゃみをすると日本が風邪をひく」といわれるように、米国経済の悪化は、外需主体の景気敏感株が多い日本株により大きなダメージを与える面もあります。

 世界経済が景気後退に陥らず、賃上げやインバウンド(訪日外国人)需要で国内需要が喚起され、内需株中心に株価上昇が続く展開に期待したいものです。