先週の株式市場は、金融危機がひとまず収束し、株価の上昇が続きました。

 3月31日(金)の日経平均株価(225種)の終値は前週末比656円高(2.4%上昇)の2万8,041円でした。

 31日の米国株の主要3指数は、危機の震源地である金融セクターの組み入れ比率の高いダウ・ジョーンズ工業株30種平均が前週末比3.2%高、機関投資家が運用の指針にするS&P500種平均が3.5%近く上昇しました。

 ハイテク株が集まるナスダック総合指数は3.4%高でした。昨年12月30日の終値からこの3カ月間の上昇率は実に16.8%に到達。

 アップル(AAPL)は3月の1カ月で前月比11.9%高、マイクロソフト(MSFT)15.6%高、フェイスブックの親会社メタ・プラットフォームズ(META)が21.2%高。

 金融危機の発生で、経営の安定した「GAFAM」と呼ばれる巨大IT企業の株式が資金の逃避先になったこともあり、先週も上昇相場のけん引役になりました。

 株価上昇の一番の理由はなんといっても、新たな金融機関の危機が報じられなかったこと。

 全米16位の地方銀行、シリコンバレー銀行の破たんやスイス第二のメガバンク、クレディ・スイス・グループの救済合併など、欧米で発生した金融危機がひとまず収束しつつあることが好感されました。

 新年度入りする4月3日(月)~7日(金)の日本株も、週初はさらに株価上昇に期待が持てそうです。

先週:新たな金融危機なく、米国の年内利下げ期待高まり急騰!

 先週の株式市場は、「次にどの銀行が破たんするのか?」という不安感が一掃された1週間でした。

 3月28日(火)、29日(水)には、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)で金融監督を担当するマイケル・バー副議長が米国議会上院・下院で証言。

 シリコンバレー銀行の破たんは「経営失敗の教科書のような事例」と強調しました。また、「すべての預金は安全だと保証する」と述べ、銀行システムの健全性を維持するため「いかなる規模の金融機関に対しても、必要ならあらゆる措置を講じる用意がある」と強調したことで、金融不安が後退しました。

 欧州では、経営危機に陥ったスイス金融大手のクレディ・スイス・グループが、「ティア1」と呼ばれる中核的な自己資本を補強するために発行していた「そのほかティア1(AT1)債」という債券約160億スイスフラン(約2兆3,200億円)の価値がゼロになり、債券市場に混乱が走りました。

 一方、日本では28日(火)の衆議院予算委員会で、鈴木俊一財務相は「国内からの投資の構成割合は少なく、影響は軽微だ」と発言。日本の金融機関に対する不安の払しょくにつながりました。

 30日(木)には、米国の預金を保護する預金保険制度を運営するFDIC(連邦預金保険公社)が大手銀行に対して、より多くの保険料負担を求めると報じられたものの、銀行株の下落はそれほど大きくありませんでした。

 31日(金)発表の2月の米国個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)は、予想を下回る前年同月比5.0%の上昇となり、伸びが鈍化。

 FRBが物価指標として最重要視する、変動の大きな食品とエネルギーを除くPCEコア・デフレーターの上昇率も前月比前年同月比ともに予想を下回りました。

 31日の米国株は、株価の大敵である金利上昇に直結するインフレの減速を好感して、大きく続伸しました。

 FRBが5月2~3日に開く次回のFOMC(連邦公開市場委員会)で、0.25%の追加利上げを行うのか、それとも金利水準を据え置くのか、市場見通しは五分五分になっています。

 FRBのパウエル議長は「2023年中の利下げはない」と明言しているものの、市場には6月13~14日のFOMCで金利据え置き、7月25~26日のFOMCで利下げに転じるという予想も台頭しています。

 金融危機の収束で、米国の主要な銀行株で構成されたKBW銀行株指数(BKX)は前週比4.7%高となりました。

 日本市場でも、急落していたメガバンク最大手の三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)の31日の株価が前週末比2.2%高となるなど、銀行株の底入れが進みました。

 まだ株価上昇の勢いは強くありませんが、金融危機がこれ以上深刻化しないようなら、割安な株価水準で配当利回りも高く、欧米の金融危機にツレ安しただけの日本の銀行・保険・証券株は底値買いのチャンスかもしれません。

 一方、米国の金融不安が落ち着いたことで、週初27日の円相場は1ドル=130円台半ばでしたが、3月31日(金)のニューヨーク外国為替市場の終値は132円台後半となり、円安が進行しました。

 円安になると海外収益の向上が見込まれるトヨタ自動車(7203)31日の株価は前週比5.4%高となるなど、輸送用機器セクターが値上がり率トップになりました。

今週:5日の米サービス業景況指数に注目!日銀黒田総裁退任の影響は? 

 今週も欧米金融機関の新たな危機が表面化しないようなら、株価の続伸に期待できそうです。

 4月3日(月)の東京株式市場で日経平均株価は続伸し、前週末より146円(0.5%)高い2万8,188円でした。

 3日にはISM(全米供給管理協会)の3月製造業景況指数、5日(水)には非製造業景況指数が発表になります。

 米国では製造業がインフレによる原材料高なとで低迷する一方、新型コロナウイルス禍の収束で個人消費が活発なこともあり、サービス業の好調が続いています。

 サービス業界の人手不足が賃金上昇につながり、物価高が収まらない元凶になっています。5日発表の非製造業景況指数の伸びが鈍化すれば、株高に弾みがつきそうです。

 7日(金)には、3月の米国雇用統計も発表になります。

 米国の月次の非農業部門雇用者数は、2023年に入ってからことごとく市場予想を大幅に上回る前月からの伸びを記録しています。

 今回も雇用市場が強すぎるかどうかに注目が集まるでしょう。

 ただ、同日の米国市場はイースター(復活祭)前の祝日で休場のため、影響は軽微かもしれません。

 8日(土)には、これまで10年間にわたって異次元の金融緩和策で日本の株式市場を下支えしてきた日本銀行の黒田東彦総裁が退任します。

 9日(日)には、学者で海外の中央銀行元高官らともパイプがある植田和男氏が新たな日銀総裁に就任。

 植田新総裁は「当面、金融緩和を継続する」と国会の所信聴取の場で述べており、日銀総裁の交代がすぐに株式市場に大きな影響を与えることはないでしょう。

 しかし、海外の金融メディアなどでは、植田新総裁による量的緩和策の修正で、超低金利の日本から高金利を求めて海外に流出した約3兆4,000億ドル(約450兆円)の資金の一部が日本国内に逆流する可能性が報じられています。

 黒田総裁は、短期金利の誘導目標をマイナス0.1%以下に引き下げる一方、長期金利の代表的指標である10年国債の金利を0%程度に抑え込むYCC(イールド・カーブ・コントロール)という政策をとってきました。

 2022年12月には、10年国債金利の誘導目標0%からの変動幅の上限を0.25%から0.5%に突如引き上げ、日本株は大きく急落しました。

 植田新総裁が、このYCC政策に修正を加えるのは必至です。

 というのも、黒田日銀はYCC政策のため、市場から長期国債を大量購入。

 その保有分は2022年9月末に国庫短期証券を除く政府の国債発行残高の半分を初めて超えました。国債市場で売買が成立しないことが目立つ場面も増え、市場の機能不全が問題になりました。

 ただ、性急なYCCの終了は長期金利の上昇を招き、それに反比例して既存の国債価格を急落させます。

 日本の地銀をはじめ多くの金融機関は、空前の低金利時代に発行された国債を大量に保有しており、金利が上昇すれば、国債の価格下落で巨額の含み損をかかえることになります。

 すでに2022年末の時点で、地銀が保有する国債には1.4兆円の含み損があると報じられています。

 シリコンバレー銀行の破綻では、FRBの強硬な利上げで保有する国債などに巨額の含み損が生じ、信用不安による預金の取り付け騒ぎでその含み損が実現損になりました。

 金融機関に対する信用不安は日本には波及せず欧米の銀行にとどまったものの、国内の地銀が経営に打撃となる含み損を抱える点は破たんしたシリコンバレー銀と共通しています。

 植田新総裁のYCC修正で、米国の地銀を襲った利上げショックが、日本の地銀などの金融機関でも起こらない保証はありません。

 そうした危機を起こすことなく、日銀の植田新総裁が量的緩和策の軌道修正を今後、どのように行っていくかに注目が集まります。

 また、欧米の金融危機がこれで完全に収束したと考えるのはまだ早いかもしれません。

 先週の急激な株価上昇の反動もありそうです。

 ただ、4月は例年、新年度の新規買いなどで株価が上昇しやすい季節。

 金融危機に関するニュースが表面化しない限り、今週も株価上昇に期待が持てそうです。