先週の日経平均株価(225種)は、クレディ・スイス・グループ(CS)の経営危機を受けて、20日(月)に終値が前週末の17日(金)から388円下落したものの、祝日明けの22日(水)は欧米当局の金融危機阻止のための対策が評価され、祝日前の20日に比べ520円高と大幅上昇しました。

 しかし、22日に米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げが決まると、あらためて高金利下での金融不安が台頭。

 23日(木)、24日(金)はジリ安の展開となったものの、先週末24日の終値は前週末比51円高と多少、落ち着きを取り戻しました。

 ただ、24日、今度はドイツ最大の銀行であるドイツ銀行(DB)のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の価格が急上昇し、ドイツ銀行に信用不安が波及。

 CDSは、手数料を払うことで、対象企業が債務不履行に陥って破たんしたときの損失を肩代わりしてもらう保険のような金融派生商品です。

 米国市場にも上場するドイツ銀行の株価(DB)は23日の前日比6.1%安に続き、24日も、一時8%以上急落。

 終値は3%安まで戻しましたが、「クレディ・スイスの次はどこだ?」という警戒感は週明けの日本市場にも影響を与えそうです。

 24日(金)の外国為替市場で一時1ドル=129円台まで円高が進んだことから(終値は130円台)、今週27日(月)から31日(金)の日本株市場は神経質な展開が続きそうです。

先週:米財務長官の預金保護巡る発言で乱高下!市場は年内の米利下げ織り込む

 先週は19日(日)(日本時間20日(月)未明)にスイス第2位の銀行で信用危機にあったクレディ・スイス・グループがスイス最大の銀行・UBSに30億スイスフラン(約4,300億円)相当の株式交換で救済合併されることが決定。

 株式交換の比率はクレディ・スイス株22.48株に対してUBS株1株と決まりました。クレディ・スイスの破綻が回避されたことは金融市場にとっては一安心となりました。

 しかし、スイス連邦金融市場監督機構がほぼ同時に、クレディ・スイス・グループの「その他ティア1(AT1)債」という債券約160億スイスフラン(約2兆2,800億円)はゼロになる、と発表。

 AT1債は普通の社債に比べて、返済の優先順位が低い債券で、多数の欧州機関が「ティア1」と呼ばれる中核的な自己資本を補完するために発行しています。

 通常、株式より安全性が高いと思われていたAT1債が無価値になったことで、債券投資家の不満が高まり、今後も欧州の債券市場は混乱が続きそうです。

 一方、米国ではイエレン財務長官が21日に米国銀行協会のイベントで、破綻した米銀2行の預金の全額保護の措置をとったことに関連して、ほかの銀行でも預金を全額保護する用意があるとの考えを示しました。この発言を好感して、ニューヨーク株式市場では全面高となりました。

 それに冷や水を浴びせたのが、22日(水)の米国議会上院公聴会における、イエレン財務長官の「全面的な預金保護は検討していない」という発言でした。

 前日とは180度異なる趣旨だったため、22日(水)、機関投資家が運用指針にしているS&P500種指数は1.65%安。

 米国の主要な銀行株で構成されたKBW銀行株指数(BKX)も4.7%安と大幅に下落しました。

 21~22日に米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が開いたFOMCの会合は既定路線の0.25%の利上げをすることを決め、終了しました。

 ただ、金融引き締めを続ける中で2023年末の金利水準は従来予想(5.1%)のまま据え置いた形となりました。

 FRBのパウエル議長は、銀行にストレスがかかったことが金利見通し据え置きの理由であること、今後、金融不安が台頭すれば「全てのツールを活用する」と発言しました。

 同時間に行われていたイエレン財務長官の銀行預金全面保護を否定する発言と相反する内容だったため、混乱に拍車がかかったようです。

 同じ記者会見でパウエル議長は「年内の利下げはない」とあらためて明言しましたが、政策金利の影響を受けやすい米国2年国債の利回りは22日の高値4.2%台から、24日(金)には一時3.5%台まで急低下。

 パウエル発言にもかかわらず、今回の金融不安やそれにともなう景気後退懸念で、株式市場はFRBが年内に利下げに転じることを完全に織り込んでいるようです。

 先週末の24日のS&P500は前週末比1.4%高で終了。

 ハイテク株やヘルスケア株をけん引役に、金融不安や利上げをものともせず上昇しました。

 21日に米国で行われたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の決勝で侍ジャパンが米国に勝って、世界一に輝き、日本は大興奮に包まれました。

 しかし、ミズノ(8022)の24日の株価が前週末比1.1%安になるなど、日本で予選が行われたときに比べて株式市場は盛り上がりませんでした。

 業種別では銀行、保険に加えて不動産セクターが下落率でトップとなり、住友不動産(8830)が前週末比5.2%安。

 22日発表の公示地価(2023年1月1日時点の全国の商業地・住宅地の価格)は前年比1.6%上昇と15年ぶりの高い伸び率でした。

 しかし、金融不安で不動産市場から資金が流出する懸念や不動産価格のピークアウトに対する警戒感が高まっているようです。

今週:金融不安の連鎖は続くか、次はドイツ銀、商業用不動産?

 今週は、株価が24日に突如、急落したドイツ銀行に金融危機が果たして波及するのかどうかに市場の関心が集まりそうです。

 ドイツ銀行は2019年に全社員の2割を削減する大リストラ策を断行し、2022年12月期の利益は50億2,500万ユーロ(約7,100億円)に達し、3年連続の黒字でした。

 そのため、ドイツ銀行への信用不安は長続きしないという見方が市場の大勢を占めているようです。

 ただ、ドイツ銀行のような業績好調な銀行にまで信用不安が一時的に波及したのは、欧州銀行の先行きに対する警戒感が依然根強い証拠でしょう。

 やはり、19日に救済合併が発表されたクレディ・スイス・グループのAT1債が無価値、すなわち紙くずになったことが響いているようです。

 今回の金融危機の発端になった米国シリコンバレー銀行破たんも、2022年にFRBが急速な利上げを行ったことで、保有債券の評価損が大幅に拡大したことが原因でした。

 23日(木)の日本経済新聞の報道によると、米国ではCMBS(商業用不動産担保証券)が売られ、上乗せ金利が急速に拡大中とのことです。

 金融不安の渦中にある米国地銀は、こうした商業用不動産に多額の資金供給を行っています。

 信用不安が広がって預金引き出しなどが殺到すると、資金繰りに困った地銀が、商業用不動産からの融資や投資の引き上げに走る恐れも高くなります。

 商業用不動産事業が債務不履行に陥るリスクが高まり、それらの不動産へのローンを束ねて債券化したCMBSの価格下落、それに反比例した金利の上昇が発生しているというわけです。

 欧米の中央銀行がインフレ退治の高金利政策を継続し続ける限り、金利上昇で保有債券の価格が下落して、金融機関が巨額の含み損を抱え込むという構造的な問題は解決しません。

 金融不安がすぐに収束することもないでしょう。

 そんな中、今週は、米国では28日(火)に全米の住宅価格の動向を示す1月のケース・シラー米住宅価格指数、29日(水)に2月の住宅販売保留指数(売買契約は完了したものの、引き渡しが済んでいない中古住宅件数の伸びを指数化したもの)が発表になります。

 商業用不動産だけでなく、個人向け住宅の価格や販売の落ち込みが続くと、より規模の大きなRMBS(住宅ローン担保証券)市場にも悪影響が出るでしょう。

 2008年9月に発生したリーマン・ショックも、米国の住宅バブル崩壊で、格付けの低い住宅ローン担保証券が次々と無価値化したことが発端でした。

 さらに、月末の31日(金)には、米国の2月個人消費支出とその価格指数(PCEデフレーター)も発表されます。

 変動の激しい食品とエネルギーを除いたPCEコア・デフレーターはFRBが最重要視する物価指数ですが、前回1月は前年同月比4.7%、前月比0.6%の上昇と伸びが加速しました。

 今回も物価高が再加速するようだと、高金利政策の継続によって生じるさまざまな副作用で、金融不安がさらに高まる恐れもあります。

 またまだ春の嵐は収まりそうにありません。

 ただ、米国株は金融不安による金利低下でハイテク株中心に、勢いを取り戻しつつあります。

 4月を目前に株価底入れに対する期待感が台頭する可能性もありそうです。