所得税と住民税とで異なる課税方法が選択できるのは2022年分まで

 皆さん、所得税の確定申告はもうお済みでしょうか。筆者も毎年この時期は大変な忙しさとなりますが、期日内に申告を終了させ、ほっとしているところです。

 ところで、上場株式などの配当金や譲渡益(売却益)に対する課税方法はいくつかあります。ここで一度おさらいしておきましょう。

〇配当金
(1)源泉徴収のみで終了(確定申告しない)
(2)総合課税で確定申告する
(3)申告分離課税で確定申告する

〇源泉徴収ありの特定口座での売却益
(1)源泉徴収のみで終了(確定申告しない)
(2)申告分離課税で確定申告する

 そして、2022年分までは、所得税と住民税とで異なる方式で申告することができます。例えば、住民税については配当金を確定申告しない方が有利なことが多いので、所得税は(2)の総合課税で確定申告し、住民税では(1)の確定申告しない、を選択するという人が結構いると思います。

 ただし、税制改正により、2023年分からは、所得税と住民税とで異なる方式で申告することができなくなります。ですから配当金につき所得税で総合課税にて確定申告したのであれば、住民税も総合課税で確定申告しなければいけなくなります。この点については別の機会に詳しく解説したいと思っております。

所得税で確定申告して住民税で申告不要を選択したいなら「意思表示」が必要

 読者の皆さんの中には、所得税の確定申告書を提出したことのある方は多いと思いますが、住民税の確定申告書を提出したことがある方は少ないのではないでしょうか。

 実は、所得税の確定申告書を提出すると、その内容がお住まいの市区町村にも伝わり、それをもとに住民税が計算されています。

 ですから、所得税の確定申告書を提出すれば、同じ内容で住民税も課税されるので住民税の確定申告書を提出する必要はないのです。

 ということは、もし「所得税では配当金を総合課税で申告するが、住民税は申告不要としたい」と希望されているのであれば、何らかの形でその意思表示が必要となります。

 2022年分の確定申告であれば、所得税の確定申告書の第2表の下の方にある「住民税・事業税に関する事項」で、「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」の欄に〇をつけることで、住民税は申告不要を選択するという意思表示を示したことになります。

もし所得税の確定申告で「意思表示」を忘れた場合は?

 でも、ここに〇をつけないと、「住民税では確定申告しない」という意思表示が伝わりません。そのまま放っておくと所得税と住民税とで同じ課税方式、つまり住民税でも総合課税で確定申告するという形になってしまいます。

 従って、ここに〇をつけるのを忘れてしまっても、住民税では申告不要としたいのであれば、住民税の納税通知書が送達される時までに住民税の確定申告書を提出したり、「上場株式等の所得に係る市民税・県民税申告不要等届出書」といった名称の書類(市区町村により名称および書類そのものがあるかどうか異なります)を提出する必要があります。

 納税通知書の発送時期は、ある市のHPの記載では、「給与特別徴収対象者が5月上旬頃、普通徴収対象者及び年金特別徴収対象者が6月上旬となります。」と書かれていますが、自治体によって時期は異なりますので、問い合わせの上できるだけ早めに提出することをお勧めします。

あえて譲渡損と配当金の相殺を翌年度以降に回すテクニック

 最後に、ある事例をご紹介したいと思います。この方は無職なので給与などの所得はありませんが、多額の上場株式を相続され、年間の配当金がかなりの額に上ります。一方で、2022年の株式の譲渡損がありました。

 なお、配当金の受け取り方法は株式数比例配分方式ではありません。

 通常であれば、配当金と譲渡損を相殺するために、所得税の確定申告では配当金を申告分離課税で申告することになるのですが、この方はあえて配当金を総合課税で申告しました。ちなみに、配当金を確定申告する場合、総合課税と申告分離課税を併用することはできません。住民税については申告不要を選択することにしました。

 そして2023年に受け取る配当金について申告分離課税を選択し、譲渡損と相殺することにしました。配当金と譲渡損の相殺の時期を1年先送りすることにしたのです。

 なぜなら、この方法を用いることにより、2022年、2023年の2年間トータルで見た場合の税負担が最も小さくなり、かつ国民健康保険料の増額も回避することができるからです。

 こうしたテクニックが使えるのも2022年分までです。2023年分以降、所得税と住民税とで異なる課税方法を使えなくなることにより、実質的に増税となってしまう方はかなり増えるものと思います。税負担および国民健康保険料などの負担を踏まえ、どの課税方式を選択するかのシミュレーションをさらにしっかりと行う必要がありそうです。