先週7日(火)、8日(水)に米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が米議会で、政策金利の引き上げ再加速を示唆し、米国株が下落しました。

 さらに10日(金)には、米国の中堅銀行シリコンバレー銀行(SVB)が預金の取り付け騒ぎと資金繰り難から経営破たんする緊急事態が発生しました。

 先週末10日(金)の東京株式市場では、SVBの経営不安による米金融株下落の動きを受けて、日経平均株価(225種)の終値は前日比479円安の2万8,143円と2023年に入ってから一番の下げ幅を記録しました。先週1週間では週前半の上げ幅が大きかったため、前週末比216円高とプラスを維持しました。

 10日(金)のニューヨーク株式市場では米国株が大きく続落しました。13日(月)午前の東京株式市場の日経平均株価は一時500円以上の値を下げ、2万8,000円の大台を割り込みました。

 今週13日(月)~17日(金)は、米国のその他の中堅銀行に対する信用不安も拡大しそうで、大混乱の1週間になりそうです。

先週:シリコンバレー銀がたった2日で経営破たん、SVBショック襲来!

 先週はまず7日(火)に米国議会上院で行われた半年に1度のパウエルFRB議長の議会証言が注目を集めました。

 FRBの度重なる利上げにもかかわらず、米国の景気・雇用などの経済指標は市場予想を超える堅調ぶりを示す状況が続いています。

 そのため、パウエル議長は、金融引き締めを続ける中で金利を最終的にどこまで引き上げるかを示すターミナルレート(最終到達点)について、従来予想(5.1%)よりも一段と高くなる可能性をにおわせました。

 また、今月21日(火)~22日(水)のFOMC(連邦公開市場委員会)で「利上げペースの加速」、すなわち利上げ幅を0.25%ではなく0.5%に拡大することを示唆する非常にタカ派的な発言に終始しました。

 多くの機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数は7日のニューヨーク株式市場で、パウエル議長のタカ派発言から前日比1.53%下落。

 FRBの政策金利の影響を受けやすい2年国債の利回りは15年ぶりに5%を突破しました。

 その悪影響が意外なところから噴出しました。

 それが、米国西海岸のシリコンバレーで1983年に創業して以来、テクノロジー系のベンチャー企業に融資を行ってきた中堅銀行シリコンバレー銀行(SVB)の突然の経営破たんです。

 8日(水)、SVBを傘下に持つSVBファイナンシャル・グループ(SIVB)は、22億5,000万ドル(約3,000億円)の増資計画を発表。

 FRBの利上げによって貸出先のベンチャー企業の経営状態が悪化したことや、金利上昇で保有する債券の含み損が拡大したことが原因でした。

 そして、資金繰り悪化で増資発表というネガティブサプライズで、SVBファイナンシャル・グループの株価は9日(木)、前日比約60%も大暴落。

 信用不安が拡大し、SVBにお金を預けていたベンチャーキャピタルなどが慌てて預金を引き出す「取り付け騒ぎ」が発生しました。

 増資で資金調達することを断念したSVBは10日(金)、預金保護のためにFDIC(米連邦預金保険公社)の管理下に置かれることとなり、増資表明からたった2日で経営破たんしました。

 SVBショックは他の米国中堅銀行などにも影響が広がっています。

 暗号資産関連企業に多額の融資を行っているシグネチャー銀行(SBNY)の株価は10日(金)、前週末比43%下落。さらに、12日(日)には、ニューヨーク州金融監督当局が同行の事業を同日付で停止したと発表し、シリコンバレー銀に続く破綻となりました。

 SVBと同様にベンチャー企業からの預金や融資の多いファースト・リパブリック銀行(FRC)パックウェスト・バンコープ(PACW)の株価は暴落しました。

 暗号通貨の大手企業がSVBから多額の預金を引き出せなくなったことを受け、ビットコインなど暗号通貨市場も急落しています。

 一方、10日には2月の米国雇用統計も発表されました。

 非農業部門の雇用者数は予想を大幅に上回る前月比31万1,000人増でした。

 しかし、失業率が3.6%に上昇し、インフレ高止まりに直結する平均時給は前月比0.2%の上昇と伸びが鈍化。

 強弱入り混じる数字となりましたが、それを吹き飛ばすSVBショックが市場を席巻しました。

 一方、日本では、野球世界一を決める「WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)」の1次ラウンドが開催されていることもあり、WBC関連株のスポーツ用具メーカー・ミズノ(8022)の10日の終値は前週末比12%高。

 試合を放映するTBSホールディングス(9401)は11.3%上昇しました。

 そんなWBC関連株も今週はSVBショックの余波を受けそうです。

今週:2月米CPIで株価乱高下は必至!?他の米銀の動向にも警戒必要! 

 今週も引き続き、SVBショックに端を発した米国の金融不安から目が離せません。

 米国では7日、8日のパウエルFRB議長の利上げ再加速発言もあり、政策金利の最終到達点が6%に達するのでは、といった見方も出ています。

 金利が上昇すると、借金をして成長・投資資金を確保している新興企業やベンチャーキャピタルなどは金利負担で資金繰りが悪化します。

 また、米国の銀行は顧客の預貯金を米国債やMBS(住宅ローン担保証券)で運用することでも収益を上げています。

 債券の価格は金利と反比例の関係にあり、現在の米国のように金利が上昇すると債券価格は下落。

 金融機関が保有している国債やMBSには多額の評価損が発生し、これもSVBの経営が圧迫された要因だったようです。

 通常、金利が上がると貸し出し金利の上昇で利ざやが拡大するので金融機関には追い風ですが、SVBは預金の7割近くを債券運用に回していたため、金利上昇が不利に働きました。

 そして、信用不安がいったん起こってしまうと、お金の貸し借りに対する疑心暗鬼が広がり、資金繰りに困った企業や金融機関が次々と連鎖破たんする金融パニックにつながります。

 すでに11日(土)~12日(日)の週末にも、預金保護の対象になる25万ドル(約3,380万円)以上の預金を他の中堅銀行から急いで引き出そうとしたり、世界中のスタートアップ企業が慌てて資金繰りに走ったりする動きが表面化しました。

 そうした事態を受けて、米財務省とFRB、FDICは12日、共同声明を発表し、SVBとシグネチャー銀行の預金者の預金を全額保護する方針を発表しました。さらにFRBは預金者の保護のため、政府の基金を活用し、銀行向けに緊急の融資枠を設定したと公表しました。

 米国の金融不安の広がりはいったんこれで鎮静化するのかどうか予断をまだ許しません。

 そんな中、14日(火)には、米国の2月CPI(消費者物価指数)も発表されます。

 予想では、前年同月比6.0%上昇、前月比0.4%の伸びと物価上昇が1月より鈍化する見込みです。

 ただ、もし物価の高止まりが続くようだと、金融機関の破たんが起こる中でもFRBが利上げ再加速を進めざるを得ないことになり、株価にとっては非常にネガティブです。

 一方、物価の伸びの鈍化が鮮明になれば、株価にとってはかなりポジティブです。

 今回のSVBショックの影響もあり、10日には長期金利の指標となる米国10年国債の金利が3.7%台まで低下し、11日には3.6%台に下落する場面もありました。

 SVBショックによって米国債の金利低下が鮮明になり、SVBに続く米国地銀の連鎖破たんが発生せず、しかも2月CPIの伸びが鈍化傾向を示せば、今週中に日米の株価がV字回復する可能性もないとはいえません。

 15日(水)には米国の2月小売売上高が発表されます。

 予想は前月比0.3%のマイナスですが、こちらも強すぎる結果になると株価急落につながりかねません。

 16日(木)には同じく物価高に悩むECB(欧州中央銀行)が政策金利を決める理事会も開催されます。

 SVBのスピード経営破たんで、米国のインフレとそれにともなう金利上昇は金融不安という新たな危険水域に入ってきました。

 それは空前の低金利の中、大量の国債を保有する日本の地銀も同じ。

 なぜなら、国債の金利が少しでも上昇すると、それに反比例して地銀が保有する国債の価格が下落して、膨大な含み損が発生するからです。

 また米国債の金利低下で日米金利差が縮小したことから、13日(月)早朝の為替市場では1ドル=133円まで急速な円高ドル安も進行。

 円高は日本株の足を引っ張る下げ要因になるでしょう。

 株式市場の混乱は今週も続きそうです。