実質GDP成長率目標は5.0%前後と保守的に設定

 3月5日、李克強(リー・カーチャン)氏が国務院総理としての最後の仕事として、「政府活動報告」を発表しました。最も注目された実質GDP(国内総生産)の成長率は5.0%前後に設定、昨年の5.5%前後よりも下方修正しました(昨年は3.0%増という結果)。私自身、1月のレポートで「5%」を一つの目安に挙げていましたが、想定内だったと言えます。

 一方で、5%と言っても、5%前後、5%、5%以上、5.0~5.5%という四つの設定ができたわけですが、この中で最も保守的な目標を掲げた事実は特筆に値するでしょう。中国政府として、ポストコロナという新常態、新段階において投資や消費が着実に回復していくか、欧米の景気、ロシア・ウクライナ戦争といった外的要因がもたらすショックにどこまで耐えられるか、といった点を巡って、情勢を掌握しきれないという心境を表していると言えます。

 もう一つ注目された財政赤字のGDP比は3.0%と、昨年よりも0.2ポイント引き上げられました。地方政府が発行する特別債は3兆8千億元と昨年と同レベルに設定されました。中央政府として、5.0%という目標達成に向けて景気を上向かせるためには、財政出動によるインフラ投資が鍵を握ると考えている現状が見て取れます。一方で、巨額の債務を抱える地方政府の財政健全化も急務となっています。構造的矛盾を抱える地方財政が今後どう推移していくか。今年の中国経済を巡る見どころの一つになると思います。

 その他の経済指標を見ると、CPI(消費者物価指数)は3%前後(昨年は2.0%)、都市部における調査失業率は5.5%前後(昨年は5.5%)、都市部における新規雇用者数は1,200万人前後(昨年は1,206万人)と設定されました。新規雇用者数の目標は昨年から100万人増え、雇用という観点からすれば昨年よりは強気になっているという傾向が見て取れます。

 一方、2023年は6月から8月くらいにかけて、過去最多の約1,158万人(昨年は1,076万人)の大学卒業生が労働市場に流れ込んできます。「ゼロコロナ」下にあった昨年、若年層の失業率が20%を超える月もありましたが、社会不安のまん延という意味でも、「雇用と若者」は今年も重大なテーマになるでしょう。