先週の日経平均株価(225種)は一時1ドル=137円台にタッチした円安を追い風に、前週末比473円の大幅高となる2万7,927円で取引を終えました。2月から続いたもみ合い相場の上限を勢いよく突破しました。

 3月3日(金)の米国株が長期金利の低下で大幅に上昇したこともあり、6日(月)~10日(金)の今週は、6日の東京株式市場で日経平均が大きく値を上げて幕を開けました。

先週:金利上昇でも株は上がりたがっている?不可解な急騰の背景

 先週の株式市場は、米国の長期金利の指標となる10年国債の利回りが4%台を突破。

 金利が上昇すると株式市場に資金が流れ込みにくくなるため、金利動向とにらみ合いの状況が続きました。

 その雰囲気を一変させたのが、金融引き締めに積極的なタカ派とみられていた、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)高官の利上げ停止発言でした。

 2日(木)、米国アトランタ地区連邦準備銀行のボスティック総裁が「夏の半ば、夏の後半までに利上げを停止する可能性がある」と発言したことが伝わると、米国株は一気に上昇しました。

 3日(金)発表のISM(全米供給管理協会)の2月非製造業景況指数は55.1と、市場予想を超え、好況の目安となる50を上回りました。ただ、前月より低下しました。

 米国の物価高の元凶になっている活発なサービス業の先行きを示す新規受注や雇用は伸びた一方、仕入れ価格指数は65.6となり、前月からわずかに低下しました。

 それを好感して10年国債の利回りが3.9%台に低下したことで、株価は上昇ムード一色になりました。

 機関投資家が運用指針にしているS&P500種指数の先週末の終値は前週末比1.9%高、ハイテク株が集まるナスダック総合指数は金利上昇でも前週末比2.6%近く上昇。

 米国の長期金利が一時4%台を超える中、株価が上昇しているのはかなり異常です。

 ただし、「金利が上昇しているのに株価が上がっているのは間違っている」と考えるのは禁物。

 株式投資にとって株価の動きこそが唯一の正解です。

「理由なき」と言いたくなるような上昇の背景には、2月の好調なISM非製造業景況指数が示すように、米国の好景気や雇用増加を素直に好感する投資家心理もあるのでしょう。

 また、金利高やインフレ加速懸念といった悪材料もある中での株高には、これまで株が下がると予想して売っていた人が、予想外の株価上昇で、売った株を慌てて買い戻す動きがあるのかもしれません。

 そんな米国株以上に底堅く推移したのが日本株です。

 米国の金利が上昇すると、日本の金利は低い水準のままなので、日米の金利差が拡大し、円安が進行します。

 円安は外需企業の多い日本株にとって追い風です。

 5日(日)には、日本にとって最大の貿易相手国・中国の国会にあたる全人代(全国人民代表大会)もスタート。

 台湾統一に関する過激な主張が飛び出す可能性もありますが、新型コロナウイルス感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ政策」で落ち込んだ景気回復のために大規模な経済対策が発動される期待感が高まっています。

 円安と中国の景気回復期待から、先週の東京株式市場では、株価が割安な外需株を中心に大幅上昇。

 配当利回りが3%超と高い鉄鋼株がけん引役となり、神戸製鋼所(5406)や、鉄鋼炉の耐火レンガ製造が主力の黒崎播磨(5352)の先週末3日の終値はいずれも前週末比12%超も上昇。

 中国の経済対策発動で収益増が見込めそうな鉄鋼、鉱業、非鉄金属といった業種が好調でした。

今週:パウエル証言、黒田日銀総裁最後の金融政策決定会合、米雇用統計に注目!

 今週は中央銀行がらみのイベントや重要経済指標が目白押しです。

 米国では、7日(火)、8日(水)には半年に1度行われるFRB議長の上院・下院での議会証言があります。

 FRBのパウエル議長は2月1日、金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)後の記者会見で「ディスインフレ(インフレ低下)が始まっている」とハト派の発言をしました。

 しかし、その後もインフレの高止まりを示唆する景気、雇用関連の指標が相次いでいることから、再び金融引き締めに積極的なタカ派寄りの発言に逆戻りする可能性が高いでしょう。

 ここまで急速に株価が上昇したこともあり、パウエル氏の議会証言によっては急落もあり得ます。

 10日(金)には、2月の米国雇用統計も発表。

 前回1月の雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月比51.7万人増と非常に高い伸びになりましたが、2月は約20万人の増加が予想されています。

 物価高に拍車をかけかねない平均時給の伸びは前月比0.3%増と横ばいの予想となっています。

 予想以上の伸びになると、労働コストの上昇でインフレが高止まりする懸念が広がり、株価下落につながる可能性もあります。

 一方、日本株に大きな影響を与えそうなのは、9日(木)~10日(金)に開かれる日本銀行の金融政策決定会合です。

 歴代最長の10年間に及ぶ任期を務めてきた黒田東彦総裁にとって最後の政策決定会合となります。

 黒田総裁は、マイナス金利、そしてYCC(イールドカーブ・コントロール)と、異次元の量的緩和を拡大させてきました。

 YCCは、短期金利だけでなく、長期金利にも誘導目標を定めることで、短期から長期までの国債利回りが描く曲線を適正な水準に保つことを目指す金融政策です。

 日銀は、2016年10月以降、「無担保コール翌日物レート」という短期金利をマイナス0.1%に抑え込むだけでなく、10年国債を市場から大量に買い入れ、長期金利を0%程度に誘導する政策を取ってきました。

 その後、長期金利が誘導目標の0%から上下に変動することを許容し、その変動幅を段階的に引き上げてきました。そして、昨年12月の金融政策決定会合では、10年国債金利の変動幅の上限を0.25%から0.5%に引き上げることを決めました。

 これが実質的な長期金利の利上げと受け止められ、日本株は取引時間中に急落しました。

 今月の会合で、日銀が長期金利の実質利上げを再び決めた場合、株価がまた急落する恐れもあります。

 ただ、さすがに黒田総裁も「立つ鳥跡を濁(にご)さず」で、YCCの再修正は行わず無難に任期を満了する可能性が高いと思われます。

 多くの企業の決算期末である3月末に株式を保有していると、株主配当金をもらえる権利が発生します。

 そのため、3月は「配当取り」と呼ばれる買いが入りやすく、株価が上昇しやすい時期です。

 むろん、先週、悪材料をほぼ無視して急ピッチに上げてきたこともあり、パウエル氏の議会証言や米国雇用統計次第では急落するリスクもあります。

 株価の乱高下に振り回されそうな1週間になりそうです。