Q5.高配当株式への投資は新NISAでの資産形成に有効でしょうか。

 新NISAの運用で高配当株式がいいはずだと言える一般論としての理由はありません。高配当株式のパフォーマンスが相対的に優れている時には、新NISAで投資しても悪くないだろうと言えるに過ぎません。

 より厳密に考えると、トータルリターンが同じなら配当に回るよりも株価が上昇する方が節税枠をより有効に使うことができるとも言えるでしょう。

 新NISAでの投資は、なるべく回転率を下げることができるようにバランスの取れた分散投資を行うことが一応のセオリーになります。

 説明のための例を考えると、全体で新NISAの投資枠の何倍もあるような個別株式のポートフォリオを運用している場合に、その一部を新NISAを利用して投資することは合理的ですが、その場合には、ポートフォリオの中の高配当株部分ではない一部を新NISA口座に充てることが合理的になるはずです。

 私としては、投資にあって配当や分配金のようなインカムゲインにこだわる意思決定を早く卒業することをお勧めしたいと思います。インカムゲインとキャピタルゲインを区別せずにトータルで合理的に投資して、お金が必要なら部分的に解約するアプローチでいいはずです。すっきり割り切って、さっぱりしましょう!

Q6.海外債券への投資の有効性をどのように考えていますか?

 昨今海外の先進国の債券の利回りが一時よりも上昇してきたので、内外の株式と外国債券との分散投資の効果が得られる可能性が以前よりも大きくなったとは言えるでしょう。

 ただ、債券と株式の分散投資効果は必ずしも安定していませんし、債券に資金を回すと、一定の金額の投資の中では獲得が期待できるリスクプレミアムが小さくなるので、巨額の資金を運用したり、レバレッジ運用が手軽且つ低コストに可能だったりするわけではないので、個人投資家が外債投資をポートフォリオに加えることで運用を改善できる可能性は、あるとしてもそれほど大きなものではないように思います。外債投資に回すお金があれば一部ないし全部を内外の株式に充てる方がいい場合が多いのではないでしょうか。

 運用を複雑化しないことのメリットまで考えると、外国債券まで手を広げなくてもいいと考えておくのが現実的な投資家が多いと思います。

Q7.日銀の新体制と新NISAでの投資の関連について考えを聞かせて下さい。

 先ず、長期的な資産形成の観点からすると、日銀やFRBが当面どのような政策を採るかは、殆ど影響がないか、影響はあってもそれを予測して運用を改善することはできないかのいずれかである可能性が大きいことを理解して下さい。

 例えば、老後の資産形成の一応の目標時点が20年後だとして、20年後の内外の株価に、今年の日銀の政策は殆ど影響を与えないことはお分かり頂けるでしょう。

 今年の株価が上昇したなら、これまで持っていた資産が増えたことを喜べばいいし、下がったのなら安い株価で将来に向けた投資ができたことを喜べばいい。もっと言うと、厳密にはいちいち喜ぶことが余計です。淡々と投資していればいい。

 全くの個人的な希望を付け加えると、植田和男新総裁の日銀が、あくまでもインフレ目標を十分達成したと判断してからのことですが、これまで市場で買ったETF(上場型投資信託)を正々堂々と市場で売ってくれると喜ばしいように思います。「株価が下がる」と大騒ぎする人がいるかも知れませんが、新NISAで増えるはずの投資家にとっては安い株価で投資を行うことができる良い買いチャンスになる可能性がある。

 また、民間企業の株式は、日銀が持つよりも、普通の民間人の投資家が持つ方が企業経営上圧倒的にいい。

Q8.新NISAでのお勧めポートフォリオを、さまざまな対象者別に教えて下さい。山崎さんが勧める「全世界株式のインデックスファンド1本」以外の商品・組み合わせで答えて下さい。

 質問者は、私の話の肝心の部分を理解していないか、最初の質問の際に説明した「ショッピング好き」の投資家なのか、或いは私を試しているかのいずれかなのでしょう。

 若い人と退職者などの高齢者、少額の投資家と富裕層、経験豊富な投資家と初心者など、投資家のタイプによって選ぶべき運用商品が異なるはずだという考えは基本的に間違いで、いわゆる「カモ」になりやすい気持ちの持ち方でもあります。

 金融機関の対面営業ばかりでなく、新聞や雑誌の記事でも「投資家のタイプ別のお勧め運用」というアプローチがよく見られます。理解が不十分な専門家は、ついそうしたアプローチに付き合って何種類もお勧め商品を提示してしまったりするのですが、これは愚かで格好が悪いことだと思った方がいい。

 たぶん、株式の外に内外のREITを少々使うと思います。しかし、例えば私が運用してみたいと思うアロケーションのポートフォリオは存在しますが、そのポートフォリオと全世界株式一本の運用との優劣は、そもそも微差のはずですし、どちらが優れているかは何とも言えないのが現実です。

 どうか、シンプルで合理的な運用をスッキリ理解することの気持ちよさに目覚めて下さい。

Q9.既に特定口座あるいは既存のNISA口座で運用している資産の新NISA口座への振替の考え方と方法について教えて下さい。

 特定口座にある資産は、運用益が課税の対象になるので、極力早く実質的に新NISA口座に移したい。この点に気がつくことは、大いに結構なことです。

 例えば生活に必要な資金を別として、運用資金が、銀行預金、特定口座、既存のNISA口座にあるとしましょう。

 新NISAが始まったら、先ず銀行預金から、次には特定口座から資金を引き出して、年間360万円の上限にできるだけ近づけるように新NISAで投資してしまいましょう。近い将来、生活費や大きな買い物などにお金が必要になれば、銀行預金、特定口座、新NISA口座の順に資金を引き出して使えばいいし、また投資できるお金ができたら、今度は新NISAから投資し始めたらいい。このようにお金を動かすことで、資金を新NISAに早く寄せることができます。

 かつて投資した一般NISAやつみたてNISAの資産は、それぞれが利用している制度の期限が来るまでできるだけ置いておくことが合理的でしょう。新NISAの利用枠は旧来のNISAと別に管理されて、両方に投資し続けることができるので、税制優遇された運用の総枠を拡げるためには、かつてのNISAの投資はそのままにしておくといいということです。

Q10.私はアーリーリタイアと同時に投資を始めました。リタイア層における新NISAの使い方について教えて下さい。

 何度も申し上げて恐縮ですが、「高齢だから」、「リタイアしているから」といった理由で適切な運用のやり方が他の条件の人と変わることはありません。普通の人と同じように、普通に合理的に運用すればいいのです。

 せっかくアーリーリタイアを達成されたのですから、細かな運用のあれこれを気にせずに、大いに人生を楽しまれてはいかがでしょうか。

 投資は人生のためにあります。人生が投資のためにある訳ではありません。