先週の日経平均株価(225種)はかなり大きな下落と上昇を交互に繰り返したものの、17日(金)の終値は前週末比0.6%の下落となりました。

 今週2月20日(月)~24日(金)は、ロシアが2022年2月24日にウクライナへ侵攻を始めてから1年が経過することもあり、あらためて地政学的リスクやそれに伴うインフレなどに注目が集まりそうです。

先週:強すぎる小売売上高、高金利でも米国の景気は失速しない?

 政府は先週14日(火)、日本銀行の次期総裁、副総裁の人事案を国会に提出しました。

 サプライズ人事とこれまで報道されてきた通り、黒田東彦現総裁の後を継いで、4月に就任する予定の次期総裁の候補に経済学者で国際的な人脈を持つ植田和男氏を指名する人事案になりました。

 副総裁には黒田現総裁の下で異次元緩和政策の実務を担当してきた日銀生え抜きの内田真一氏、国際機関で要職を務めたこともある前金融庁長官の氷見野良三氏を起用する方針です。

 植田氏は総裁人事に関する報道が相次いだ10日に、報道陣の取材に対し「現在の日銀の政策は適切であり、当面は金融緩和の継続が必要」と発言しています。

 市場では当面は現在の緩和路線を維持すると受け止められ、正式に公表された日銀人事案への反応は限定的でした。

 また、14日には米国で1月のCPI(消費者物価指数)の発表がありました

 結果は前年同月に比べて6.4%の上昇となり、昨年12月の6.5%の伸びから鈍化したものの、市場予想を上回って物価が高止まりしていることが明らかになりました。

 物価全体の約3割を占める住居費のほか、輸送関連などサービス価格の伸びがいまだに加速していることが、物価高止まりの原因でした。

※CPIに関して詳しくはこちら:1分でわかる!インフレと株価の関係

 CPIの公表以上に市場の関心を集めたのが、翌15日(水)に発表された米国の1月の小売売上高でした。

 小売売上高は米国のGDPの約7割を占める個人消費の動向が分かる指標です。

 結果は前月比3.0%増と、予想を大幅に上回る約2年ぶりの伸びに。

 賃金上昇や失業率の低下などで、米国の一般消費者の消費意欲が非常に旺盛なことが判明しました。

 米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)は既に政策金利の上限を4.75%まで引き上げ、過熱した景気を必死に冷まそうとしていますが、それでも米国の個人消費は堅調なようです。

 本来、金利が上がれば、個人や企業はお金を借りた際に高い利息を払わなければならなくなるので、個人消費や企業の設備投資は落ち込み、景気が悪化します。

 しかし、一部の専門家の間では、FRBによる高金利が長期間続いても、経済成長が失速せずに持続する「ノーランディング(無着陸)」論が台頭しているほどです。

 それは株価にとってポジティブな面もあります。

 実際、米国と同じくインフレ率が鈍化し始めた英国の代表的な株価指数FTSE100は、資源価格高騰の恩恵を受けやすい主力のエネルギー企業の業績が絶好調なこともあり、2月に入って史上最高値を更新し続けています。

 ただ、いったん鈍化したインフレが、再び加速することになれば、FRBもさらなる利上げに踏み切らざるを得ません。そうなれば、株価にはネガティブな影響が及びます。

 16日(木)には、金融引き締めに積極的なタカ派で知られるセントルイス地区連邦準備銀行のブラード総裁が、米国の金融政策を決める3月21、22日の次回FOMC(連邦公開市場委員会)では通常の倍となる0.5%の利上げが妥当とする見解を示しました。

 他のFRB高官のタカ派発言が相次いだこともあり、多くの機関投資家が運用指針にするS&P500種指数の17日の終値は前週末比0.28%安、ハイテク株主体のナスダック総合指数は0.59%高と、まちまちで終わりました。

 日本株では、10日(金)に2023年3月期業績を上方修正したマツダ(7261)が前週末比13.5%高、今年人気になっている鉄鋼株の一角、神戸製鋼所(5406)が14.2%高となるなど、株価が割安な好業績株が好んで買われました。

今週:次期日銀総裁候補・植田氏の国会発言次第では日本株急落も!?

 今週は21日(火)に米国景気の動向が分かる2月の製造業、サービス部門のPMI(購買担当者景気指数)の速報値が発表されます。

 21日には米国の小売チェーン大手のウォルマート(WMT)ホーム・デポ(HD)の2022年10-12月期決算も発表に。

 旺盛な個人消費を背景に好業績をたたき出せば、全体相場にも強い追い風になるでしょう。

 24日(金)には、FRBが物価指標として最重要視する1月の個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)が発表されます。

 小売売上高に続いて、1月の個人消費支出やPCEデフレーターが上振れすると、インフレの長期化や3月のFOMCでの0.5%利上げが現実味を帯び、株価が急落するかもしれません。

 24日には、日本の1月の全国CPIも発表されます。

 そのうち価格変動が大きい生鮮食品を除く指数の事前予想は前年同月比4.2%増で、物価上昇がさらに加速する見通しです。

 また24日には衆議院の議院運営委員会で日銀次期総裁候補である植田氏の所信聴取が行われ、質疑応答も実施されます。その模様がインターネットで中継される予定です。

 直前に発表される全国CPIの伸びや黒田現総裁の異次元の量的緩和策の後始末について、厳しい質問が飛び出すことが予想されます。

 植田氏は研究畑出身ですが、1998~2005年まで約7年間も日銀審議委員を務めるなど実務経験は豊富です。審議委員は日銀の最高意思決定機関の政策委員会のメンバーで、総裁と副総裁を含めた政策委員の多数決によって金融政策を決めています。

 その後、金融理論の基礎研究などを行う日銀の金融研究所の特別顧問を務めるなど日銀との関係は現在にいたるまで深いです。

 現状の量的緩和策を当面続けるべきという姿勢ですが、黒田現総裁と考え方や路線は異なるでしょう。

 この10年間、日本株は黒田現総裁の異次元金融緩和の恩恵もあって、大きく上昇しました。

 しかし、いくら日銀や政府が市中にお金をばらまいても、賃金の上昇や将来の経済成長に対する期待感が国民の間にしっかり根付いているとはいえない状況です。

 また、現状、日銀が国の借金である国債を大量に買い入れて金利操作を行っているため、国債市場の機能が麻痺(まひ)したり、財政規律が乱れたりするなど、副作用も目立ってきています。

 そんな状況の中、24日の所信聴取と質疑で市場の目にさらされる次期総裁候補・植田氏の生の言葉が大きな注目を浴びるのは必至です。

 米国ではインフレの高止まりを示す経済指標が数多く発表されているにもかかわらず、株価はある意味、能天気に横ばいで推移しています。

 24日はロシアによるウクライナ侵攻が始まってからちょうど1年となります。

 西側諸国とロシアや「世界の工場」といわれる中国との政治的な対立で、安価な製品や部品が世界に流通しづらくなっていることも、インフレが高止まりする構造的な問題として意識されるようになっています。

 そういう意味でも、今週は思わぬ相場急変に警戒が必要でしょう。