1. ETFの上場国による違いは?

 個人投資家のみなさまから、米国の代表的な大型株500銘柄の株価指数であるS&P500種指数は強い人気を集め続けています。ですがS&P500に連動するETF(上場投資信託)を買おうとするとき、多くの個人投資家の方が直面するのが、国内上場のものがいいのか、それとも米国上場のものがいいのか、という問題です。

 同じS&P500に連動するETFといっても、当社では計19種類(オプション戦略を組み入れたものは除く)の取扱いがあり、内10種は国内上場、9種は米国上場です。

 国内上場の内4種は「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」がペアで上場されており、ここでは為替ヘッジなしの方のみ取り上げます。また高配当などS&P500のサブセクターに連動したり、ブルベアなど特殊な連動をしないプレーンな銘柄は、以下の一覧で銘柄名を太字で記載しています。

当社取扱でS&P500指数に連動するETF一覧(銘柄コード、ティッカー順)
国内上場(6種類)

※時価総額や最小購入代金はいずれも12/20の終値を用いて計算

銘柄コード 運用会社 銘柄名 信託報酬
(税込)
時価総額
(百万円)
当社取引
手数料
最小
購入代金
(円)
1547 日興AM 上場インデックスファンド
米国株式
0.165% 35,952 無料 55,170
1557 SSGA SPDR® S&P500® ETF 0.095% 45,780,326 無料 50,130
1655 ブラックロック
・ジャパン
iシェアーズ S&P 500
米国株 ETF
0.095% 45,351 無料 3,633
2558 三菱UFJ
国際投信
MAXIS米国株式(S&P500)
上場投信
0.077% 30,309 無料 14,450
2633 野村AM NEXT FUNDS S&P 500 指数
(為替ヘッジなし)
連動型上場投信
0.077% 5,622 無料 23,280
2635 野村AM NEXT FUNDS S&P 500
ESG指数連動型上場投信
0.143% 5,550 無料 24,525

米国上場(9種類)

※為替レートは135円/ドルで計算

ティッカー 運用会社 銘柄名 経費率 時価総額
(百万円)
当社取引
手数料
最小
購入
代金(円)
IVV BLACK
ROCK
iシェアーズ・コア
S&P 500 ETF
0.03% 39,135,603 有料 51,535
SPLG SSGA SPDR ポートフォリオ
S&P 500 ETF
0.03% 58,422,364 有料 6,032
SPXL Direxion
Shares ETF
Trust
Direxion デイリー
S&P 500
ブル3倍 ETF
0.90% 377,058 有料 8,300
SPXS Direxion
Shares ETF
Trust
Direxion デイリー
S&P 500
ベア3倍 ETF
0.95% 115,652 有料 515
SPY SSGA SPDR S&P 500 ETF 0.09% 58,357,897 買い無料 51,303
SPYD SSGA SPDR ポートフォリオ
S&P 500
高配当株式ETF
0.07% 7,002,950 買い無料 5,252
SPYG SSGA SPDR ポートフォリオ
S&P 500
グロース株式ETF
0.04% 82,023,273 有料 6,859
SPYV SSGA SPDR ポートフォリオ
S&P 500
バリュー株式ETF
0.04% 32,169,650 有料 5,169
VOO Vanguard バンガード・
S&P 500 ETF
0.03% 36,857,516 買い無料 47,359

 ETFの上場国の違いによる差は以下の3点と考えられます。

1)取引方法(取引時間/取引通貨)

 国内上場ETFは国内市場で、米国上場ETFは米国市場で取引するので、取引時間と取引通貨が異なります。国内上場なら9時~15時(除く11時半~12時半)に円で、米国上場なら23時半~6時(サマータイム時は22時半~5時)にドルで約定させます。

 ただし当社では米国ETFなら発注時に円決済(=当社で自動でドルに両替)を選ぶこともできるので、このためにドルを用意していただく必要はありません。

2)二重課税の扱い

 国内上場でも米国上場でも、ETFの分配金に対して米国現地の源泉課税があります。その後日本国内でも課税されるため、国内居住者に対しては二重に課税されることになります。

 しかし国内上場のETFなら現在(2020年1月1日以降)では、投資家が特に手続きせずともほとんどの銘柄で国内の課税額からこの二重課税分が自動で控除(外国税額控除)される仕組みになっています。

 一方で米国上場のETFではこの控除を受けるためにはご自身で確定申告をしていただく必要があり、手間をかけなければ分配金で損をするようになっています。ただしNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で保有する場合、そもそも国内課税分が非課税であるため、国内上場でも米国上場でも控除ができないことに注意が必要です。

3)管理コスト

 国内上場と米国上場では管理コストの考え方が違います。国内上場のETFでは管理コストとして「信託報酬」を開示していて、これは運用会社の計算で基準価額から毎日差し引かれ、運用会社/信託銀行で折半される経費、つまり販売関係者への手数料です。

 一方で米国上場のETFでは「経費率」という数字を開示していて、これは運用に係る経費の純資産残高に対する割合、つまり運用にかける費用の数字です。信託報酬プラスアルファの費用で経費率は計算されるので、基本的に信託報酬より経費率の方が高めに出ます。

 一般に米国上場ETFの経費率は国内上場ETFの信託報酬より低水準なことが多く、米国上場の方が管理コストで優れている傾向を示しています。

2.結局どっちを買えばいいの?

 国内上場から自動で外国税額控除がされる3銘柄、米国上場から上表で太字になっているプレーンな連動をする3銘柄をピックアップし、改めて特徴を表にまとめましょう。

    国内上場 米国上場
分配金
課税※2
NISA口座 米国10% 米国10%
課税口座 国内20.315% 米国10% + 国内20.315%
銘柄例 銘柄コード
/ティッカー
1655 2558 2633   IVV SPY VOO
手数料 無料 無料 無料 有料 買い無料 買い無料
分配金
利回り※1
1.05% 1.20% 1.23% 1.66% 1.65% 1.64%
信託報酬
/経費率
0.095% 0.077% 0.077% 0.03% 0.09% 0.03%
※1 分配金利回りは直近1年の分配金合計と作成日の終値から筆者が試算
円安が進み国内ETFの株価が上がると国内ETFの見かけの分配金利回りは下がります
※2 分配金について正確な税率は明細などでご確認ください

 この表を踏まえて今回は、

a)多額×長期(例:投資信託から乗り換え)
b)多額×短期(例:ニュースに合わせて大きく投資勝負)
c)少額×長期(例:積立投資)
d)少額×短期(例:試しに購入)

 の4パターンのお客さまを想定して、それぞれの軸でどちらのどの銘柄を選べばいいのか、ご参考までにお答えします! 主な判断軸は売買コストと管理コストです。

 また以下では基本的に為替手数料と分配金は考慮していないことに注意してください(その時の為替レートなど市況で異なるため)。また管理コストも、あくまで2022年12月時点で各運用会社が発表している数字に準拠しています。

a)    多額(100万円以上が目安)×長期(5年以上が目安)

 この場合は米国上場VOOなどがお得でしょう。1,000万円などまとめて購入して運用していく場合、米国上場でも4,444.45ドル以上の約定なら当社では一律で売買手数料は22ドル(税込)となるため、額が大きいほど売買コストは抑えられます。

 また運用が長期になるほど管理コストの運用収益への影響が大きくなるので、管理コストが低いVOOだと有利になります。

※米国ETFの売却手数料は22ドルを作成日時点の為替レート(135円/ドル)で計算した場合の目安
※投資元本は1,000万円と仮定し、これに対する信託報酬/経費率を日割りした額の積算の推移、月は30日で計算
※為替手数料や分配金は考慮していません、またVOOが前提のため買い手数料も無料として計算しています

 例えば投資期間を1年、投資金額を1,000万円と想定して、簡単のため元本の値動きを考慮しない場合、国内でも最低水準の信託報酬0.077%の2558と経費率0.03%のVOOを比較すると、1日あたりの管理コストの差は13円ほどなので、およそ8カ月運用すると3,120円ほどの差となり、1,000万円相当(= 4,444.45ドル以上)のVOOを売却したときの手数料22ドル(2022年12月時点で約3,000円)の元を取れるほど管理コストが浮く計算になります。

 投資金額が10分の1の100万円なら、投資期間もさらに10倍の80カ月(=7年弱)ほどで手数料の元が取れるので、5年以上の長期投資の予定なら100万円でもVOOの方が有利になる計算です。

 ただ確定申告をしない場合、二重課税分(分配金利回り約1.5%×米国課税10%=約0.15%)が管理コスト差(0.05%前後)を上回ることも多いので、国内上場の方がお得になることもあります。

b) 多額(数十万円~数千万円が目安)×短期(1週間以内が目安)

 短期だと売買コストの影響が大きくなるので、売りも無料の国内上場の取引手数料0円のETFを利用するのが効率的です。管理コストの差はありますが、仮に投資期間を1週間、投資金額を1,000万円、(a)と同じく2558VOOで比較すると、1週間あたりの管理コストの差はわずか90円ほどなので、1,000万円相当のVOOを売却したときの手数料22ドル(2022年12月時点で約3,000円)に大きく負けます。

 これが逆転するのは(a)のパターンなので8カ月ほど経過してからとなり、1週間で逆転するのは投資金額が3億円ほどになってからです。そのため数十万円~数千万円で短期売買をしたいなら、初めから売却コストの無い国内上場を選ぶのが良いと考えます。最小購入代金に余裕があるなら、信託報酬が抑えられていて時価総額も大きめの2558が適しているでしょう。

c)少額(1万円程度が目安)×長期(10年以上が目安)

 長期ならやはり管理コストが低めの米国上場ETFです。ここでは積立投資の状況を想定します。図2を見てください。例えば1万円程度の少額を毎月積み立てていくとすると、米国ETF売却時の手数料を4,444.45ドル以上積み立てた状態と仮定し同じく約3,000円として、おおよそ10年で管理コストの差が効いて米国上場ETFが有利になる計算になります。

※米国ETFの売却手数料は22ドルを作成日時点の為替レート(135円/ドル)で計算した場合の目安 ※投資元本は毎月1万円積立と仮定し、毎月の残高に対する信託報酬/経費率の積算の推移、月は30日で計算 ※為替手数料や分配金は考慮していません、またVOOが前提のため買い手数料も無料として計算しています

 ちなみに積み立てなどで少しずつ買い付けていく場合は売買コストがかさみます。図2の前提のように買い無料のものを選びましょう。経費率は高めですが時価総額が大きい銘柄を好むならSPY、長期なので経費率を重視するならVOOとなります。ただこのときも確定申告をしない場合は (a)と同じく国内上場の方がお得になることもあるので気を付けてください。

d)    少額(1万円程度が目安)×短期(1週間以内が目安)

(b)と同じく短期なので売買コストを重視して、売りも無料の国内上場を。図2はあくまで積み立て時のコスト比較であり、お試しの単発購入の場合のグラフは割愛しますが、仮に積立をせず1万円だけ保有し続けた場合、その他の条件が(c)の仮定と同じなら、1日あたりのコスト差は0.013円でしかないので、同じく10年ほど保有しないと売却コストおよそ50円を込み(2.22ドル超4,444.45ドル未満の約定なら約定代金の0.495%が手数料)のVOOとコストが逆転しないので、やはり国内上場が適しているでしょう。

 その上で少額のお試しならば、3,000円台(2022年12月時点)から投資できる1655が最適と考えます。信託報酬はやや高めですが、保有期間が短ければ短いほど信託報酬の影響は軽微になります。

 いかがでしたでしょうか。以上はあくまで単純化した考え方のため、実際は円貨決済なら為替手数料(当社ではドル↔円なら片道25銭のスプレッド)、また分配金利回りなど常に変動する数字も含めて総合的に判断していただく必要があります。ご自身の状況に即してお得にS&P500に投資してください!