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経済的な豊かさのために「運用」よりも大切なもの
山崎 元
ホンネの投資教室
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元の提供レポートです。経済やマーケット、株式投資、資産運用のノウハウと考え方など幅広い情報提供をおこなってまいります。資産運用の参考にお役立てく…

経済的な豊かさのために「運用」よりも大切なもの

2013/10/18
読者は、「運用」について、これまでさまざまなテキストを読んでこられただろうし、あるいは、運用の実践を重ねてこられ方もおられるだろう。
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たまには、純然たる「運用」以外のお金の話をしよう。

そもそも、普通の人の人生全体の経済的豊かさにとって、「お金の運用の巧拙」はどのくらい大切なのだろうか。実は、普通の家計にとっては、少なくとも「一番大切だ」という問題ではなさそうだ。

筆者は、正直なところ、普通の日本のビジネスパーソンにとって、お金の運用の大切さは、6番目くらいではないかと思っている。その他の5つが何かは、図1を見てみて欲しい。筆者が、大学生向けの「金融資産運用論」の学期の初めの授業をする時によく使う図だ。

(図1)人生の経済的豊かさには何が重要か

資金運用を6番目に順位づけた理由を説明する。

専門的にいって運用が「上手い」というためには、リスクの大きさを変えずに、リターン(投資収益率)の水準を改善しなければならない。この場合、確実に年率1%改善するのはなかなか大変なことだといえる(もとが悪ければ、簡単なこともあるが)。

日本人の平均的な金融資産額は、金融広報中央委員会の2012年に行われた調査によると、2人以上世帯1世帯当たり約1,108万円だが、「平均」は少数のお金持ちの数字に引っ張られてしまうので、「中央値」を見ると、約450万円だ。数字を丸めて5百万円と見ても、1%の改善効果は、年間5万円にしかならない。

お金の運用は、仕事の稼ぎとは別の場所で独立して改善が可能なので年間5万円であったとしても決して小さな金額ではないが、さりとて他の要素よりも影響が大きいわけではない。

但し、お金の運用で、明らかに不良な商品を掴んだり、他人に騙されたりすると、普通の金融資産額の家計でも、数十万円、あるいは百万円を超えるような失敗(相場に起因する結果論ではなく、意思決定上の失敗)をする可能性はあるから、運用に関する常識を持っていることは無駄ではない。

また、もちろん、運用資産額が増えてくると、お金の運用の巧拙が占める順位は向上することも強調しておこう。

しかし、端的にいって、「人生の大問題をお金の運用だけで解決しようとは考えない方がいい」。

インフレにせよ、老後の不安にせよ、雑誌などが読者の不安に訴える特集を組む時に、筆者も取材されることがあるが、その際、殆どの場合に、「われわれは、どのような対策を取るといいのか?」と訊かれる。この場合、質問者が期待している答えは、「金を買え」とか「新興国の株式に投資しましょう」とか「不動産を買おう」といった、お金の運用・投資の話であることが多い。

しかし、普通の家計が持っているくらいのお金を投資して老後の不安が消えるような運用を期待するのは無理だし、将来のインフレ・リスクをヘッジできるくらい商品でも買うというのはハイリスクで、外れた場合に目も当てられない。

わが運用・金融業界は、これまで、不安をかき立てておいて、「霊感の壺」を売り込むがごときビジネスを繰り返しては、商品やサービスを売りつける傾向があった。長年続いたデフレの最中に、「将来のインフレ・リスクに備えて『貯蓄から、投資へ』」と言うようなパターンが典型的で、筆者自身も時々その先棒を担いだことがあったことを反省するものだが、読者は、「人生の大問題が、お金の運用ごときで解決するというのは、安易ではないか」と疑う感覚を持って欲しい。

さて、運用よりも重要かも知れないという項目が五つ出てきた。この際、それぞれの項目について、簡単に眺めておこう。

「稼ぎ」が一番大切

一生を経済的に豊かにすごすために最も重要な要素は、余程の資産家の家にでも生まれない限り、通常はどこで何をして働いていて、幾ら稼いでいるかだ。

どのような仕事を選び、どこの会社の、どんな部署でどのような働き方をして、幾ら稼ぐか。これが、人生の豊かさに最も影響するファクターだろう。もちろん、起業もあれば、フリーランスの働き方もある。

働くにあたっては、自分の「人材価値」を作り、育て、頼りにしていくことが大切だ。ダイエー、山一證券、日本長期信用銀行、日本航空、東京電力。まだ潰れていない会社も、倒産後に立ち直った会社もあるが、何れも、かつては盤石に見えたはずの会社であり、こうした社名を見ただけでも、会社というものが頼りにならないことと「会社頼みの人生の危うさ」が分かる。会社の将来は分からないし、社員がコントロール出来ない。

自分で影響を及ぼすことが出来、ある程度は予測できるもの、という意味で、自分の人材価値に注目するのが現実的だ。この際、自分が社長で同時に自分が社員であるような「自分会社」を経営して成長させていくようなイメージでものを考えるといい。

人材価値を構成する要素は、ある仕事について、「仕事が出来る能力」と「能力を仕事に活かした実績」それに、「今後、能力を使うことが出来る時間」の三つだ。能力を養うにも、実績を作るにも時間が必要だし、それらに時間を掛けすぎると、経済価値を実現するのに使うべき残り時間が足りなくなる。若い頃からのキャリア・プランニングが必要な所以だ。また、同じ、能力と実績なら、年齢が若い方が人材価値は高い、というのが厳然たる事実であり、ビジネスパーソンにとって加齢は残酷な現実だ。人材価値があるかどうかのセルフ・チェックは、「同業他社が自分を雇ってくれるだろうか?」と自問するのが簡単な方法だが、自分で分からなければ、ヘッドハンターなどの他人に聞いてみるのもよい。

また、就職・転職といった、いわゆる本業の働き方の他に、「夫婦の共稼ぎ」とか「副業」といった追加的な収入の手段を考えることも重要だ。古来より「稼ぐに追いつく貧乏なし」という言葉があるが、お金が足りない場合に先ず考えるべきは、稼ぎの増やし方だ。

いずれにせよ、自分の「人材価値」の成長・維持・利用を通じた「人的資本」の運用にこそ力を入れるべきだ。

節約と貯蓄の習慣

稼ぎ、に次いで大切なのは、節約と貯蓄の習慣だろう。節約は、賢いお金の使い方と言い換えてもいい。

高校や大学の同期会などで旧友と会うと、給料のいい会社に勤めている友人が必ずしも豊かな生活を送っているとは限らない。お金が右から左にながれるだけで、案外余裕のない生活をしている場合がある。

ある程度の蓄えを継続的に作っていく習慣と、現実に、余裕となる貯蓄を持つことが重要だ。

何よりも、小さなものでも借金は避けたい。例えば、カードのリボルビング払いは決して使わないことだ。リボ払いは、小さな借金であり、借金生活への入り口だし、金利も高く経済合理的でない。リボ払いの借金残高に対する金利は、一五%〜一八%と、株式に期待できるリターンの三倍近い高利だ。

金融機関は、このように、小さな借金をさせるような巧妙な罠をあちこちに仕掛けている。金持ちからは運用商品の手数料を、貧乏人からは借金の金利を搾り取るのが、金融リテール・ビジネスの基本だ。

また、ある程度の貯蓄を持つと、臨時の支出に対して抵抗力を持つことが出来る。特に、医療保険を含めた生命保険に入らなくていい点が大きな節約になる。

お金の貯め方は、給与やボーナスから、「お金を使う前に」貯蓄分を取り分ける、いわゆる「天引き」のスタイルでやるのがいい。もちろん、天引きの積み立てに、投資を組み合わせてもいい。ともかく、一定額の運用資金を持たないと、人生に余裕が生じないし、もちろん投資もできないので、人生が面白くならない、と申し上げておく。

不動産購入は慎重に

住居を買うか、賃貸で住むかの選択の基本は、住居を買う価格が住居の価値に十分見合うか否かの計算に基づくものであるべきで、基本的に「投資」の判断と同じだ。

不動産業者から持ち込まれる案件が、リーズナブルな投資価値を持つほど安いケースが稀であることも、金融商品の運用とよく似ている。

また、ローンの金利と賃貸に回した場合の利回りを比較して、後者が高ければ、借金して買っても「儲かる物件だ」と考える人がいるが、住宅ローンを借りて不動産物件を買う場合の損得は、「現金から投資する場合の損得+ローン自体の損得」となるので、現金から投資する時の損得に加えて、銀行の儲けの分だけ住宅取得者が追加で損をする計算になる。

「自分が住む住居の損得は、投資用とちがう」という人もいるが、これは当たらない。自宅用の不動産は、単に「自分が店子である不動産投資物件」だ。転勤や転職で、その場所が不便になれば、借り手か買い手を探さなければならない。

付け加えると、若いビジネスパーソンには、なるべく職場から距離の近い物件に賃貸で住むことをお勧めする。仕事の腕を磨こうとする時、最も貴重な資源は時間だ。また、人生にはいろいろな変化がある。不動産が重荷にならないようにする方がいいことが多い。

生命保険は損な賭け

世界の先進国の中で、日本は、生命保険にかけるお金が突出して多い。

しかし、多くの場合、生命保険は不要だ。特に新入社員にいいたいのは、先輩に紹介されて、成り行きで生命保険に加入しないことだ。

生命保険が唯一必要な場合があるのは、貯金も支援してくれる身内もない若い夫婦に子供が出来たときに、一〇年ないし、最大二〇年くらいの期間を限定した加入する死亡保障の掛け捨ての生命保険(定期保険)くらいだろう。これは、ネットの生命保険会社でシンプルなものを選ぶと、セールスを使う保険会社の半分程度の保険料で加入することができる。

保険は基本的に掛け捨てがいい。保険会社に、保険と、資産運用の両方の商売をされることが有利であるはずがない。保険に貯蓄機能を求めるべきでない。貯蓄や投資は、保険会社にやってもらうのではなく、自分でやるべきだ。

また、死亡に保障はいらないが、病気は心配なので、民間の医療保険(ガン保険など)には入るという人がいるかも知れないが、これも止めた方がいい。一つには、仮に高額の医療費支払いが生じるようなことがあっても、通常の健康保険にさえ入っていれば「高額療養費制度」の利用で医療費は十分支払える(月々数万円の範囲だ)。加えて、民間の医療保険は将来払われる医療費に対して保険料が暴利と言いたくなるほど割高で損だ。

保険という仕組みは、「たまにしか起こらないが起こると被害が大きいイベント」のリスクに対して集団で対処する仕組みであり、それ自体は時に利用価値のある便利な仕組みだ。しかし、現実の保険商品は、加入者にとってあまりに不利なものである場合が多い。

保険も金融商品だから、その有利・不利は「実質的な手数料」で決まる。保障や貯蓄に対して払うフェアな価格に加えて、保険会社に幾ら払っているかが問題だ。契約者が支払う保険料は、保障や貯蓄に必要だと計算された「純保険料」と、保険のセールスに支払う費用をはじめとして保険会社の経費や利益になる「付加保険料」の二つの要素から構成されている。後者は、投資信託でいうと、販売手数料や信託報酬にあたる手数料であり、売り手側が商品に設定した「粗利」だ。商品を評価するためには、第一に知るべき情報だ。

ところが、この付加保険料が、ごく一部の例外を除いて公開されていない。これは、消費者保護上大きな問題だと思うが、改められる気配がないのは残念だ。

付加保険料は、通常の対面営業の生保の売れ筋商品では、保険料の三割、四割になることが珍しくないという。また、日本のがん保険などの医療保険では、保険会社が保険機として支払う医療費が保険料の五割に満たないような代物であるようだ(文句のある保険会社は、是非自社のデータを公開して反論して欲しい)。

また、純保険料に関しても、保険会社が保険の種類別に自社に有利なデータを使い分けて計算しているようだ。保険会社の決算を見ると、例年、この部分に対応した損益(「死差益」という)で巨額の利益が出ている。

一言でいうなら、「生命保険は、ひどく損な賭け」だ。出来るだけ、近づかないようにして、利用せずに済ませよう。生命保険にかけているお金は、一般に支出の見直しを行う場合は、真っ先に見直すべき費目の一つだ。貯蓄や投資で一定の資産を早く作り、安心して生命保険から遠ざかるべきだし、生命保険に入ったつもりで貯蓄や投資にお金を回すのも良い心がけだ。

都会住まいは自動車不要の場合も

生命保険と似た規模のお金が掛かる支出に自動車がある。自家用車がないと不便な地方在住の場合や、自動車が趣味だという場合を別にすると、都会の生活では、自家用車を持たずに暮らす方が経済的な場合が多いので、検討してみよう。トータルで、ずいぶんコスト節約になる場合があるはずだ。

公共交通機関を利用し、必要があれば躊躇無くタクシーを使うという方法で使う交通費の方が、自動車のローンを払い、駐車場代、保険料、ガソリン代、車検費用などを考えると大幅に安く済むことが多い。また、駐車場の問題を考えると、自分の車を使わない移動の方が身軽で気楽だ。

近年の若者は、かつての若者ほど、自動車を持つ事に対するこだわりがなくなったとよく聞く。自動車を「格好のいい物」と見て、あこがれることが減ったようだ。これは、長引いた不況のせいだと言われることが多いのだが、そうとばかりもいえないのではないか。物の所有へのこだわりを捨てて、不要な物を持たない生き方は、さわやかで、美しい。

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