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理論株価の設計を考える(続編)
山崎 元
ホンネの投資教室
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元の提供レポートです。経済やマーケット、株式投資、資産運用のノウハウと考え方など幅広い情報提供をおこなってまいります。資産運用の参考にお役立てく…

理論株価の設計を考える(続編)

2013/6/7
本連載の「理論株価の計算式を考える(序論)」で、筆者は、投資の参照用として実用化したいと考える理論株価のイメージについて書いてみた。今回は、その具体化のために「もう少し」先を考える続編だ。
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相対値か、絶対値か?

本連載の「理論株価の計算式を考える(序論)」で、筆者は、投資の参照用として実用化したいと考える理論株価のイメージについて書いてみた。今回は、その具体化のために「もう少し」先を考える続編だ。

前回書いたイメージでは、資本コストを意識した将来利益によって、BPS(一株純資産)を修正する仕組みを考えた。これは、「残余利益モデル」と呼ばれる株価モデルである。このモデルは、利益が配当か株主資本かにかならず分配される「クリーン・サープラス」と呼ばれる仮定を置くと、有名なDDM(配当割引モデル)から導き出すことが出来る(たとえば、証券アナリスト試験の定番教科書である「新・証券投資論II」(日本経済新聞出版社)を参照)。

概念のあらましを半端な式で書くと、以下の通りだ。

株価=BPS+Σ{将来利益-(資本コスト×将来BPS)、の割引現在価値}

少々煩雑な式だが、ファイナンスで使う通常の記号法の下に数式で書くと、以下の通りだ(割引率を金利+リスク・プレミアムに分けて書いた)。

なぜ、このモデルで考えたいのかというと、大きな理由の一つは、利益は出ていても、PBRが1倍を割れている銘柄の株価を説明したいからだ。最近の株価の全般的上昇でこの種の銘柄は減ったが、まだまだ相当な数がある。

もう一つの理由は、日本企業の株主資本利用の効率の差異を株価評価に反映してみたいと思うことだ。

このモデルに従うと、たとえば、BPSを100として、仮に投資家が要求する資本コストが6%とした場合、仮に、今期の利益が4しかないと予想される企業の場合、この利益が株価に与える影響はマイナスだ。利益が株主の要求する資本コストに達していないからだ。

現在の約1万3千円の日経平均に対して、日経平均銘柄の平均PERは14.6倍で、PBRは1.25倍だ(「日本経済新聞」6月6日朝刊による)。

平均的なPBRが1.25倍ということは、BPS100に対して、平均的に、残余利益部分の貢献度が25ほどある、ということになる。

BPS=100を基準に考えると、株価=125に対して、PERが14.6倍なのでEPS(一株利益)は8.56だ。

具体的な計算のために加えて知りたいファクターは、「利益の成長率」と将来利益に対する「割引率」だ。特に、割引率を知りたい。

割引率は、市場金利に「これがフェアなリスク・プレミアムだ」と分析者が考える数字を加えて算出するいわば「絶対値」による方法と、市場で現実に使われているのではないかと推定される値をその時々の状況に応じて与える「相対値」による方法が考えられる。

リスク・プレミアムを絶対値として与える方法で考えてみるとすれば、たとえば、割引率を目下の長期金利0.8%に筆者が妥当だと考える6%を乗せて、6.8%だと考える。リスクフリー・レートは短期金利で考える方がいいのではないかという意見もあろうが、長期投資を考え、また、市場で形成される利回りを株価モデルに取り込みたいことを考慮すると、筆者は、長期金利をベースに使いたい。

他の条件が変わらずに長期金利が上昇すると、債券が株式に対して有利になるのだから、自然な考え方だろう。

当期のEPSは8.56なので、残余利益は1.76だ。仮に、毎年同じだけ残余利益が出ると仮定した場合、これを無限の将来まで足した合計は1.76÷0.068=25.88となってマーケットの平均PBRである1.25倍にかなり近づいた数字になる(個々の銘柄の成長率の問題は後で論じる)。

もう一つのアプローチは、その時々にマーケットが要求していると推定される株式投資リターンを直接的に資本コストとして使うことだ。

筆者は、本連載の第191回「山崎式『株価の高低判断法』」で一定の仮定(=利益成長率が均一で当面の名目GDP成長率に等しい)に基づいて、株式市場全体のリスク・プレミアムを推計する方法を、株価水準の高低の判断に使っているとご説明した。

この同じモデルでは、「益利回り+成長率」が「金利+リスク・プレミアム」、即ち投資家が株式に要求する資本コストということになる。現在の日経平均ベースの数字では、益利回りが6.8%で、政府の2013年度の名目成長率予想が2.7%なので、これらの合計である9.5%が割引率=資本コストだ、ということになる。

この割引率に対しては、EPSがBPS=100とした時の8.56では不足することになる。利益成長を加味しないとBPR1.25倍の株価は説明できない。

たとえば、EPS=8.56が3年続けて10%成長したとしよう。すると11.39となる。これ以降も、ある程度の成長が期待される訳だが、これらを加味して、現在の利益が11.39だと置き換えたらどうなるか。

当期の残余利益は11.39-9.5で、1.89となる。1.89の残余利益がずっと継続した場合の残余利益の割引現在価値の貢献は1.89÷0.095=19.89となる。まだ、25には足りないが、株主資本への要求リターンを、その時々の市場平均のデータから推計して資本コストとするやり方も、有力な方法だろう。

尚、業種、あるいはβ値等の属性によって、個々の銘柄に要求する資本コストに差をつけるかどうかという問題も、今後の研究課題だ。

利益成長率の代理変数

個々の銘柄の予想される利益成長率のちがい、あるいは、特別な利益成長率水準が継続するであろう期間のちがいが、株式の評価に大きな影響を及ぼすことは、投資家なら誰でも同意する常識だろう。

銘柄間の株価評価に影響する成長率のちがいを、ほどよく代理する変数としては何が考えられるだろうか。

利益そのものの直近の実績ないし、予想の成長率は、データとして振れ幅が大きすぎて、些か使いにくい。

第186回目の「理論株価の計算式を考える(序論)」で触れた「ザイ式・理論株価」では、前期と来期の売上高の伸び率を年率化して利益成長率の代理変数とする、という方法を採って、まずまずリアリティのある理論株価を算出しているように見える。

何年分の成長を取り込むか、また、業種によって成長を取り込む年数を変える必要はないかという点が検討対象になるが、これは、具体的なデータを見てみないと決めようがない。投資家は、平均的に、現在の成長率がどの程度将来まで続くと想定して株価を評価しているのだろうか。

ちなみに「ザイ式・理論株価」では、業種によって何年分の利益と利益成長をBPSに加えるのかを変化させている。

簡便法

残余利益モデルに従って理論株価を計算する場合、将来時点の利益の株価に対する影響の評価はその将来時点の残余利益を計算した上で、さらにそれを現在価値として割り引いて計算して株価に反映させる必要がある。

率直にいって煩雑だ。

また、将来の利益についても、厳密にモデルを適用するなら、遠い将来まで割引現在価値を計算して合算する必要がある。しかし、この段階で厳密な計算を行うことは、将来利益の推定が大雑把なものにならざるを得ない以上、意味が無い。

厳密に正しいインプットを厳密に計算すると厳密に正しいアウトプットが得られる可能性があるが、曖昧なインプットを厳密に計算しても偶然の一致を除くと曖昧なアウトプットしか得られないはずだ。

この点については、成長率の代理変数の変化が投資家の株価評価にもたらす影響と、割引率の変化をどれだけ株価に反映させるべきかの二点を考えながら、(1)成長率の代理変数となるものが示唆する成長率をどのくらいの年数を適用するのか、また、それを前提とした上で、(2)どのような割引率を適用して計算するのかの二要素を考慮しつつ、大まかに概算できる簡便法が必要だ。

できることなら、表計算ソフトがなくても、1銘柄が対象であれば、個人投資家が計算内容の意味を分かりながら電卓で計算できる「理論株価」の計算方法を見つけたい。

たとえば、何年か分の利益成長を反映させた利益を今期に引き直した「成長イメージ反映EPS」のようなものを簡単に計算し、これを将来一定とした上で割引率を反映した割引現在価値の合計値が計算できるというような理論株価モデルを作りたいということだ。

残る課題

便利でそこそこの納得性のある理論株価計算式を作るために、さらに詰めるべき課題は以下の三つだ。

  1. 割引率(資本コスト)の決定方法。リスク・プレミアムを固定するか、市場の変動に合わせるかなど。
  2. 利益の代理変数の選定と、その影響力の適度な反映方法。
  3. 前記二項目を前提とし、大まかに結果が一致する「簡単計算法」の設計。

次回は、具体的な「山崎式理論株価」の試作品をお目に掛けることができるのではないだろうか。ほどほどに期待してお待ち頂けるとありがたい。

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