2022年は物価上昇元年、2023年最初の課題は年収増

 日本人がインフレと数十年ぶりに向き合うことになったのが2022年という年でした。2022年10月および11月のCPI(消費者物価指数)が3%以上の伸びを示しましたが、消費増税のタイミングを除けば実に40年ぶりということで、ほとんどの現役世代にとっては本格的なインフレは初体験ということになります。

 諸外国ではインフレが日本の2倍あるいはそれ以上のペースで推移しています。小麦や石油・ガスの供給問題などもありますが、世界的にはインフレが継続するのは珍しいことではありません。

 一時期、米国は「時給2,000円!」とか「ランチ2,000円!」と話題になっていましたが、この差は経済力の格差の問題だけではなく、物価上昇の積み重ねの差でもあります。

 仮に2000年時点で二国の価格に大差がなかったとして、日本で1,000円のランチはおおむね2020年も1,000円のままでした。

 仮に米国が年3%の値上げを20年繰り返したとすれば、2020年には1,806円相当、4%値上げであったら2,191円相当となっています(ここでは原則の理解を優先し、為替レートは加味せず)。物価上昇の積み重ねの差が、「時給2,000円」「ランチ2,000円」を呼び込んだというわけです。

 さて、物価上昇が続くということは、支出額が額面上は増え続けるということであり、それに見合う年収増を勝ち取っていく必要があります。

 個人における、2023年最大のマネーの課題があるとしたら、「物価上昇分の増+それを上回る増(ビジネススキルの質的向上分)」が年収増には必要なのだと意識して働くことが第一といっていいでしょう。

物価上昇時の運用目標は「大幅上方修正」を

 さて、今世紀に入ってから、個人の資産運用が身近なものとなってきたわけですが、この20年間、

「運用収益率=資産の成長率」

と考えて問題がまったくありませんでした。しかしこれからの時代は実質的な資産の成長率を考えていく必要が出てきます。つまり、

「(運用利回り)-(物価上昇率)=(実質的な資産の成長率)」

という意識が必要になるわけです。例えば、0.1%の5年定期預金を喜んでいた人があったとして、5年後にそれ以上の物価上昇があれば実質はマイナスになります。固定利回りの個人向け債券(3年と5年がある)を持ちきった場合でも、額面上はプラスですが実質マイナスになる可能性が高まっています。

 今までは、株式投資において年6~8%くらいを稼いでいたとき、これは大きく資産価値を増大させたイメージでした。しかし、同じ年に年3%の物価上昇があったときは、実質的にはプラス3~4%だと見なす必要があります(それでも資産成長の価値はリスク資産にある)。

 これから数年は、この実質的な運用利回りをみる感覚を忘れないようにしたいところです。私たちはついつい額面上の増減だけをみてしまいますので、意識的に運用成績をチェックするようにしたいものです。

 そしてこの問題、単年度の利回り把握だけではなく、将来の目標額にも反映されてきます。

 先ほど1,000円の商品が年4%の上昇を20年継続すれば2,191円に値上げと説明したといいましたが、未来の必要な資金額もそれだけ増えるということだからです。

 ウソみたいな話ですが、リタイアまでの資産目標、現在の「老後に2,000万円」は、20年後には「老後に4,382万円」に上方修正をかけておく必要がある、というわけです。

物価上昇時は「定期拠出額の増額」も要検討

 そうなると、「運用収益確保」だけで解決する問題ではなく、もう一つの資産形成上の課題にも向き合う必要があります。それは「定期拠出額の増額」という検討です。

 物価が上昇した分、毎月の積立額を増額しておけば、運用に依存する分は縮小します。

 仮に「20年間、毎月一万円の積立投資」モデルと「20年間、スタートは月一万円だが、毎年4%ずつ積立額を増額した積立投資」というモデルを作ってみます。2年目は月1万400円、3年目は月1万816円……と増やしていくのですが、なんと20年後の毎月積立額は月2万1,068円まで増えています。

 どちらも、物価上昇(4%)に運用はプラス3%稼げたとして、20年後の積立額を計算してみると521万円vs693万円、という結果になりました。

 定期拠出額を増額しなかったモデルは、拠出累計240万円が運用成績を乗せて521万円と倍増しているので、かなりうれしい数字のように見えます。しかし、インフレの影響を割り引くと実は十分ではありません。

 これに対して、インフレ見合いで毎月の掛金を増やしたモデルのほうは、20%ほど資産を大きく増やすことに成功したことが分かります。

 ただし、この話は簡単ではありません。毎月の拠出額を増額させるのはそう簡単ではないからです。

 目の前の生活を考えれば、物価上昇分、家計の負担が増えているわけですから、拠出額の据え置きだけでも苦しく、むしろ減額をしたい状況です。2023年春に賃上げが物価上昇率をカバーしてくれればなんとかなるかもしれませんが、いずれにせよ厳しい拠出環境であることは間違いありません。

 しかし、「老後に4,382万円」のようなことを考えていくためには、拠出額の増額を考える必要があります。運用で増えた分の何割かは「実質的な価値の維持」で消えてしまうからです。

 積立投資をしている人は、その増額を考えてみてください。つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)はできるだけ上限まで積み立てるようにし、それ以外でも積立を行うようにしましょう。2024年からのNISA制度は大きく限度額が増えるので、コツコツ拠出額を増大するのに向いています。

 ただ、自動的に積立増額する仕組みというのはほとんどないので、自分で定期的に積立額の変更届をしなければならないのが難点です。

物価上昇時、公的年金の物価追随力も弱まることにも目を配る

 最後にもう一つ、公的年金の物価への追随は限定的になっています。もともと物価上昇時に年金水準をマイルドに調整する(当初は(物価上昇率▲0.9%)で年金額を改定する予定だった)仕組みだったものが、ほとんど実行されないまま時間だけが経過してしまいました。

 これからの物価上昇時代は、物価上昇率と年金額の上昇率はイコールにはならない期間が続くことになります。マクロ経済スライドが実行されるからです。

 ただしこちらは、繰り下げ受給によって相当をカバーすることができます。67歳あるいは68歳まで働き(あるいは手元資金を取り崩し)、繰り下げ年金を得られれば、一生涯の増額になります。ちなみに67歳繰り下げは16.8%、68歳繰り下げは25.2%増額になるので、今後見込まれるマクロ経済スライドの調整分をおおむねカバーすることになります。

 詳しいことはWPP理論について述べた記事に譲りますが、物価上昇時は本格的に「繰り下げ年金」を検討していく必要が高まってくるといえます。

 ――ここまで、「物価上昇率に見合う年収増の獲得」「運用実績を物価上昇率と比較する視点」「運用目標額の上方改定」「毎月拠出額の増額改定」「公的年金の追随力低下」など、いろんなテーマをまとめて紹介してきました。

 いずれも物価上昇時代に考えなければいけないテーマです。2023年は、新しい視点で資産運用に取り組んでいく必要がありそうです。