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「日本のバブル」はどのように起こったか
山崎 元
ホンネの投資教室
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元の提供レポートです。経済やマーケット、株式投資、資産運用のノウハウと考え方など幅広い情報提供をおこなってまいります。資産運用の参考にお役立てく…

「日本のバブル」はどのように起こったか

2013/1/25
実は、日本にもバブルがあった。不景気とデフレの継続を経験してきた現在二十代以下の人々には、こう言って過去を説明しなければなるまい。
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日本にもバブルがあった

実は、日本にもバブルがあった。不景気とデフレの継続を経験してきた現在二十代以下の人々には、こう言って過去を説明しなければなるまい。

日本のバブルの起点は、1986年だろう。日経平均は、前年末の13,113円から上昇し、同年末には18,701円(端数切り捨て)に駆け上った。

主な要因は、日銀による金融緩和であり、当時はこれが公定歩合の引き下げの形で表れた。前年に5%だった公定歩合は、1986年の1、3、4、11月の各月に0.5%ずつ引き下げられて、3%まで低下した。

これは1985年の「プラザ合意」による急激な円高がもたらした不況を緩和するための政策だったが、矢継ぎ早の金融緩和が株価を引っ張った。

現在の投資家の体感では、金利の低下は不況を反映したもので、金利が低下する局面では株価が下がる状況が「普通」だろうが、1980年代後半には、「金利の低下→カネ余り→株高」という連想が強く働いた。「カネ余り」とは、あまり上品でない表現だが、当時から頻繁に使われるようになったと筆者は記憶している。

株価形成の理論からは、利益の変化の影響と、金利の変化の影響のどちらが優勢であるかによって、どちらの状況が起きても不思議ではないが、1980年代後半の日本のバブルの初期は,明らかに金融緩和による「カネ余り相場」だった。企業の業績はまだそれほど向上していない。

この時期の株価は、当時の金融環境と、その後の経済状況(成長率)を考えると問題のない範囲だったと思う。上昇率は大きいが、まだ「バブル」とはいえない。

この時期の記憶としては、日銀が株価の急上昇に対して「警戒感」を示したことが、主に証券界から「日銀は、株が専門ではないのに株式相場に(余計な)口を出すな」といった論旨の批判を浴びたことが重要だったと思う。これ以来、日銀は組織として株価に言及することがなくなったし、資産価格に介入してはいけないというセンチメントを持ったように思われる。

1987年には、NTT株の第一次放出があり、この放出でNTT株を買った個人投資家は大儲けすることができた。売り出し価格119万円が、ピークには318万円まで上昇した。この放出は個人投資家層の拡大に貢献し、個人に株式投資のブームが拡がった。

また、この年の10月には、ブラックマンデーが起こる。一日でユーヨークのダウ平均が508ドルも急落する先進国の一日の株価変動では「率」として過去最大のイベントだったが、これを受けて、日銀は当時として緩和的だった政策を継続することになり、この金融緩和の継続が「バブル」を後押ししたとされている。確かに、金融緩和は、バブルの重要な「必要条件」だ。

公定歩合はこの年の2月2.5%まで下がり(当時としては画期的な低金利だった)、これが1989年の5月に3.25%に引き上げられるまで維持される。

日銀には、現在に至るも、この時期の金融緩和の継続がバブルの深刻化に繋がったのではないかという「トラウマ」があって金融緩和に消極的なのだと解説する向きもある。

もっとも、政策金利の上下に代表されるマクロの金融政策が、株価や地価のような資産価格に対して割り当てられるべきかについては、根本的な再考が必要なのではなかろうか。物価・景気(雇用)・資産価格の全てに対して、政策金利の上下を主な手段とする金融の緩和・引き締めだけを割り当てるというのは無理がある。たとえば、株価の行き過ぎ(上がりすぎ)のような事態には、信用取引の掛け目の厳格化や、株式や土地を担保とした融資に対する制約(将来の不良債権の抑制になる)を使うべきなのではなかろうか。

この点に関しては、先般の金融危機を経た現在でも、世界的に経済政策上の結論が得られていないように思われるが、大事な問題だ。

仮に、今後、デフレが十分払拭されていない段階で、資産価格の高騰が起きた場合、これを抑える目的で金融引き締めを行うことがあれば、デフレ脱却に失敗しかねない、といった事態を将来する可能性がある。

ともあれ、1987年は低金利で緩和的な金融環境が維持された一年だった。ブラックマンデーで大きく下げる局面があったものの、年末の日経平均は21,564円だった。

「勢い」がついた1988年

1988年は景気の好調を背景に、資産価格の上昇がさらに加速した年だ。地価の上昇も本格化し、東京湾岸の「ウォーターフロント」とよばれた臨海地域に土地を持つ企業の株が人気を集める「ウォーターフロント相場」が話題になるなど、資産価格の上昇が更なる資産価格の上昇につながるような、バブルに最も勢いがあった年だといえる。

当時は、大手証券会社が考えた相場のストーリーを「相場シナリオ」等と称して、機関投資家も、個人投資家も有りがたがるような風潮があった。証券業界は、現在よりも、遥かに大きな影響力を世間に対して持っていたし、大手証券会社の株価の歴史的なピークはこの時期だ。翌年も平均株価が上昇していたこと思うと、証券株の株価がこの年にピークを打っていたというのは、少し意外な感じがする。

将来も相場を考える上で、この時期の言葉で記憶にとどめるべきは、「財テク」と「Qレシオ」だろう。

「財テク」という言葉は「財務テクノロジー」を縮めて言った些か野暮ったい略語だが、事業会社などが、手持ちの資金を資本市場で運用して利益を積み増ししようとする行為を指す。1988年以前からあった言葉だが、これがピークを迎えたのが1988年だった。

企業の財テクが拡大する上では、何れも信託銀行が提供する枠組みだが「特定金銭信託」あるいは「ファンド・トラスト」という商品が実現したことの、制度的な後押しがあった。

特定金銭信託は、顧客が信託銀行に資金を預けて、顧客本人ないし、本人の委託を受けた運用指図者が運用を指図する仕組みだが、この際に、企業が持ち合いで持っている株式と、財テクで買った株式の簿価を分離できる「簿価分離」が認められたことの効果が大きかった。日本の事業会社は、簿価分離によって、本格的に財テクに注力するにあたっての大きな制約を取り除くことが出来た。

後年サブプライム問題から金融危機に至った米国のバブルで「証券化商品」が果たしたように、バブルには、たいていの場合、それを可能にする制度変更やイノベーションが存在する。日本のバブルでは、「財テク」を可能にした制度変更と商品の開発は、バブルを活性化する大きな切っ掛けの一つになった。

もう一つ忘れられないのは、証券経済研究所が若杉敬明東大教授(当時)を座長とするワーキング・グループに書かせた報告書が提示した「Qレシオ」という概念の登場だ。

同報告書は、地価を含めた日本企業の資産価値(時価評価された実質純資産)を考えると、株式の時価総額、すなわち株価は、まだまだ上昇余地があるという議論を展開した。これを、多くのメディアは、これを「日本の株価がまだまだ高すぎないことについて、東大教授のお墨付きが得られた」という文脈で報じた。

当時、東証一部上場銘柄の平均的なPER(株価収益率)は60倍から80倍程度に達しており、証券界は、「それでも株価は高くない」と顧客に言うことができる別の株価尺度を求めていた。

バブルの絶頂期には、「株価はまだまだ高くないのだ…」ということを「もっともらしく説明する、新しいアイデア」が登場することが多い。これは、経済学者の故ジョン・ケネス・ガルブレイス氏が「バブルの物語」で強調したことでもあるが、バブルの症状的な側面での特徴の一つだ。

たとえば、1990年代後半に膨らんで2000年に弾けた米国の「ネット株バブル」では、バリュエーション論的には凡そ無理な「PEG」(PERを%単位の利益成長率で割り算した比率だ)のような株価尺度が登場した。

「Qレシオ」がなぜダメだったのか(確かに理論的にダメなのだが)の説明は別の機会に譲るが、これも後から振り返ると「バブル」を象徴する「あだ花」の一つだった。

1988年末の日経平均は30,159円だった。

「リスクの誤認」がバブルの「十分条件」

1989年になって、さすがに、景気の過熱が意識されるようになり、公定歩合は、5月に+0.75幅で引き上げられて3.25%に、さらに12月にも0.5%の引き上げがあって3.75%となった。

バブルにとって金融引き締めは最大の敵だが、引き締めのはじめの段階でいきなり株価が下落することは少ない。引き締めに抵抗しながら、最後の上昇相場を演じて、何度目かの政策金利引き上げに対して、急激な株価下落が始まる形で崩壊することが多い。

ところで、先に、株価が高騰する過程で「財テク」が重要な役割を果たしたことを述べたが、財テクには、「簿価分離」の他に、重大な特色があった。それは、当時「握り」と呼ばれた、運用利回りの下限を保証する取引慣行だ。

当時の法律(有価証券取引法)でも利回り保証は違法だったが、証券会社が顧客に売り込んだ「営業特金(えいぎょうとっきん)」でも、信託銀行が運用する「ファントラ」(ファンド・トラストの略称)でも、当時の優良法人の借入金利である長期プライムレートに0.1%程度の利鞘を乗せた利回りで、運用利回りを保証することが広く行われていた。

当時、財テクに熱心な幾つかの事業会社にあっては、資金を借り入れて「握り」を伴う運用を行う財テクを、一社で、数千億円、数兆円という単位で行っていた。

株式運用には当然リスクがあり、利回りの保証を大規模に行うことなど不可能なのだが、多くの財テク企業が、大手証券会社(あるいはそのグループの投資顧問会社)が、又は信託銀行が保証してくれるのだから、損をすることはあるまいと判断して、大量の運用資金をマーケットに注ぎ込んだ。

バブルが拡大する際には、「緩和的な金融環境」が「必要条件」だが、これに加えて、本来リスクがあるもののリスクを過小評価させるような「リスク誤認の仕組み」が「十分条件」となっているように思われる。

金融危機の前にサブプライム問題があり、サブプライム問題に先行して大規模な不動産バブルが生じた2000年代の米国では、複雑な金融テクノロジーを使った不動産の証券化商品が、住宅ローン債権が本来持っているリスクを覆い隠す役割を果たした。

加えて、甘い格付けを与えることが自らのビジネスを増やすインセンティブ構造を持った格付け会社が、不動産の証券化商品にAAA等の高格付けを乱発したことも重要な役割を果たした。

1980年代後半に発生した日本のバブルは、「緩和的な金融環境(=日銀の政策)」、「リスク誤認の仕組み(=握り)」、「バブルから目を逸らす権威のお墨付き(=Qレシオ)」といった三点セットが存在した、バブルの典型に忠実な大型で本格的なバブルだった。

1989年の日経平均は年末が最高値で38,915円だった。翌年の大発会から、株価は勢いよく下がり始め、バブルの崩壊が始まったのだが、かの「握り」はどうなったのか。一言で言えば、それは「大変なことになった!」。

バブルの崩壊過程については、機会を改めて書くことにしよう。

今回は、かつてあった「本物のバブル」を簡単に振り返ってみた。昨年11月からの株価の急上昇を「安倍バブル」などと呼ぶメディアもあるが、本物のバブルは、この程度の生やさしいものではない。

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