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「アベノミクス」の基礎知識
山崎 元
ホンネの投資教室
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元の提供レポートです。経済やマーケット、株式投資、資産運用のノウハウと考え方など幅広い情報提供をおこなってまいります。資産運用の参考にお役立てく…

「アベノミクス」の基礎知識

2012/12/21
12月18日、日経平均が1万円を回復した。もともと安倍晋三自民党総裁が提唱していた「大胆な金融緩和」に反応して円安と株高が進行していたが…
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12月18日、日経平均が1万円を回復した。もともと安倍晋三自民党総裁が提唱していた「大胆な金融緩和」に反応して円安と株高が進行していたが、総選挙で自民党が大勝して、この政策実施に対する期待が高まったことが、今回の株価上昇の主な要因だと考えられる。選挙期間を含めて、日本のマクロ経済政策がこれほど関心を集めるのは久しぶりのことだ。

金融緩和を中心とする安倍氏の経済政策パッケージに対して「アベノミクス」という造語も登場した。今後の経済とマーケットを考える上で、このアベノミクスの理解は欠かせない。そこで、今回は、アベノミクスの要点と、今後の注目点をなるべく分かりやすく整理しておこう。

アベノミクスの定義

先ず、アベノミクスの目的はデフレを脱却して、年率2%程度の「マイルドなインフレ」の環境を作り出すことだ。デフレないし物価変化率ゼロよりも、副作用無しに実現可能なのであれば、「マイルドなインフレ」の方がいいことに関しては、学者の間でも異論はほとんどない。

どの政策をアベノミクスに含めるかは議論があるかも知れないが、以下の三点が含まれることは間違いない。筆者は、これら三つの政策を「アベノミクスの三点セット」だと考える。

  1. 2%(以上)の「インフレ目標」設定
  2. 金融緩和の拡大(リスク資産購入の拡大を含む)
  3. 公共投資による需要追加

③は明らかに財政政策の範疇だし、②のリスク資産購入も最終的に国庫の損得につながるので財政政策的側面がある。

アベノミクスは、純粋な金融政策ではない。この点で、日銀に全ての責任があるような言い方は少し日銀にかわいそうなのだが、デフレに対して日銀の責任がないわけではないし、日銀の行動及び情報発信が政策の主役であることは間違いない。従って、日銀の次期正副総裁人事や、日銀法の改正といった手段が関係してくる。

総合的にいって、アベノミクスは、デフレ脱却を目的として、金融政策を有効に機能させるための政策パッケージだ。

問題は、これでデフレから脱却できるのか、また、政策としてその他にどのような作用・副作用を伴うかだ。

政策の波及メカニズム

日銀はこれまでにも、銀行が保有する国債を買うことで、民間銀行に「ベース・マネー」と呼ばれる資金を供給してきたが、一つには民間に資金需要が乏しいこと、もう一つにはインフレ率目標が1%と低かったために「物価が少し上がると、直ぐに金融引き締めを行うのではないか」という予想を人々が抱きやすかったことの二点で十分な効果を上げなかった。

今回のアベノミクスは、この状況を改善して、物価を年率2%上昇程度のマイルドなインフレに持って行こうとするものだ。この政策は、デフレ対策という意味では、十分な規模と継続期間があれば、効果を発揮するはずである。

ただし、金融政策を発動してから、効果が現れるまでには、おそらくは1年を超える「タイム・ラグ」(時間差)があるので、この点には注意が必要だ。来年直ちに物価が大幅上昇するようなことは考えにくい。

インフレ目標が1%から2%ないしはそれ以上に引き上げられることの意味は、アナウンスメント効果の外に、「ゼロ金利がより長く続くだろう」という予想を人々に形成させることにある。「1%なら直ぐでも、2%まではまだまだ距離がある」と思うので、短期で資金を借りて投資することがよりやりやすくなるし、「将来も金利は上がりにくい」という予想につながるので、為替レートに対する効果も円安方向だ。また、為替レートは将来の物価の予想を反映するので、この面でも円安材料を提供し、デフレ脱却につながる。

金融緩和、すなわち、日銀による資金供給の拡大は、従来、民間銀行の貸し出し増加にあまりつながらずに、もっぱら日銀当座預金に積み上がるだけ(預金準備に必要な額以上に積み上がった分を、俗に「ブタ積み」とよぶ)だった。「金融緩和しても効果がない」という人がいるのは、このためだ。

今回のアベノミクスでは、大量の資金供給を続けることを約束すると共に、ETF(上場型投資信託)の形で株式を買ったり、REIT(不動産投資信託)を買ったり、あるいは外債を買ったりする形で、銀行以外の資金供給チャネルに働きかけることと、資産価格に影響を及ぼすことで、効果を出そうとしている。これらの政策には、弊害の可能性もあるが、大規模に行うなら、ある程度の効果があるだろう。似た政策を、リーマンショック後にFRB(米連邦準備制度理事会)は大規模に行って、ある程度の効果をあげている。

また、リスク資産の購入以外にも、アベノミクスでは、財政出動によって資金需要を作る。「民間にお金が全く行き渡らない」ということはない。財政出動で政府が能動的に資金需要を作ることはポイントの一つだ。

「財政赤字を拡大して、金融緩和を続ける」という組み合わせを、大規模且つ長期に行うと、これがインフレにつながるということに関しては、学者の間にも、ほとんど異論はない。

また、財政赤字と金融緩和の組み合わせは、近年の日本がずっと行っていることでもあり、いきなり新しいことを始めるわけではない。

目標値を引き上げて、政策の規模を変えることと、情報発信を変えることが、アベノミクスの本質だ。

財政赤字を日銀がファイナンスしたら、いきなりハイパーインフレに向かって行くような議論を見聞きすることがあるが、この議論は、ぬるい風呂を追い炊きしたらいきなり沸騰するかのような、「程度」の問題を弁えない愚論だ。

副作用もある

とはいえ、アベノミクスにも副作用の可能性はある。

一つは「やりすぎ」になった場合の問題だ。財政赤字の累積が過大になって、同時に金融緩和が続いた場合、考えられる弊害は、(1)長期金利の上昇、(2)(高すぎる)インフレ率、(3)(過度の)円安、だ。これらは、経済に混乱と大きなコストをもたらす。

とはいえ、現在、長期金利は低水準で、インフレ率は低すぎて困っているし、円レートも日本企業および労働者の競争力と、成長率、雇用の問題を考えると円安の方が好ましい。

市場の状況から判断する限り、現状では、累積財政赤字は大きな問題になっていない。但し、アベノミクスを続けた場合の将来の弊害の可能性として、これらが問題になる可能性があることは、頭に入れておこう。

もっとも、インフレ目標政策では、「高すぎるインフレ率」を定めて、これを超えた場合に、インフレを抑制する政策を実施するはずだ。金融引き締めによるインフレの抑制については、内外に実績があるし、簡単にいうとアベノミクスの逆をやればいい。

為替レートに関しては、外債購入あるいは為替介入などで外貨を買い、円資金を市場に供給するやり方で金融緩和を行うことは出来るが、政府による為替市場への直接介入は、国際的な批判の対象になりかねない。金融緩和を拡大する手段として、外国為替市場への働きかけを使うと、日本が中国のような「為替操作国」だという非難を浴びる可能性はある。

筆者が考えるアベノミクスの最大の弊害は、有効需要拡大の手段として公共投資に重点があることだ。マクロ政策としては、公共投資でもデフレ対策に効くのだが、資源配分の効率性を考えたときに政府による投資には疑問があるし、富の再分配政策として考えた場合に、分配を受ける側が偏っていることが問題だ(いわば「偏ったバラマキ」である)。

減税ないし、給付金のような、広く薄くなるべく公平にメリットを行き渡らせて、使い道を個々の国民に決めさせるような、お金による「より公平で効率的なバラマキ(再分配)」の方が好ましいように思う。

一時的な給付金の場合に、これが貯蓄されてしまうので需要追加効果が乏しいといわれることもある。しかし、効果がゼロな訳ではないし、給付金が継続的に配られるなら需要を喚起するだろう。

また、お金による再分配の場合、無駄なインフラへの投資のように実物的で固定的な無駄が発生するわけではなく、渡しすぎた場合は、後から課税を増やして取り返すこともできるから、「無駄」を固定するリスクが小さい。

たとえば、経済活性化、あるいは株式投資家の立場から見ると、公共投資よりも、投資減税や法人税の減税といった選択肢の方がいいのではないかと考える。

注目のチェック項目

最後に、来年以降、アベノミクスが有効に機能するか否か、また、弊害が出ていないかをチェックする上で注目すべきポイントをあげておく。本稿で述べた考え方に照らして、ご参考とされたい。

  1. 日銀が政策アコードで「2%」を受けるか(2%か、2%以上か)
  2. 日銀総裁、二人の副総裁の人事は緩和派になるか
  3. 日銀法改正に至るか(将来の期待に影響するので重要だ)
  4. 日銀はリスク資産をどのくらい買い入れるか
  5. 金融緩和を名目とした外債ファンドは出来るか
  6. 補正予算は10兆円以上か
  7. 来年度予算は国債発行額をどの程度拡大するか
  8. 4-6月期の景気はどうか(秋の消費税率引き上げ判断に影響)
  9. 長期金利がどこまで上昇するか(夏まで1.5%程度なら「普通」)
  10. 安倍首相が消費税率引き上げ凍結を言うか、現実に凍結するか
  11. 2014年度予算で「財政再建」がどれくらい強調されるか
  12. 物価上昇率が1%をいつ超えるか

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