保有高を増やすのは「非民主国家」の中央銀行
ここからは、中長期のテーマの一つ「中央銀行」の動きに注目します。以下の図とおり、2010年以降、さまざまな国(中央銀行)が金(ゴールド)の保有高を増やしています。
2010年第3四半期(7-9月)から2022年第3四半期にかけて、最も保有量を増やしたのは、ロシア(※軍事侵攻後、各種統計を非開示にしているため、同国については2022年1月にかけて)でした。このおよそ12年間で保有量が3倍になりました。2,298トンはフランスに次ぐ6位です。
2022年第3四半期における公的機関の保有量上位は、1位米国(8,133トン)、2位ドイツ(3,355トン)、3位IMF(国際通貨基金 2,814トン)、4位イタリア(2,451トン)5位フランス(2,436トン)、6位ロシア※(2,298トン)、7位中国(1,948トン)、8位スイス(1,040トン)、9位日本(846トン)、10位インド(786トン)です。
この12年間で、ロシア※、中国、インドが、ランクインしたわけです。また、同様に、トルコは13位、カザフスタンは16位にランクを上げています。こうした国々の共通点に、図の右に示した「自由民主主義指数が低い」点が挙げられます。
図:金(ゴールド)保有量の増加が目立った国 単位:トン(指数を除く)
以前の「逆さから見る民主主義 コモディティ価格はどう動く!?」で書いた通り、同指数は、自由民主主義指数=0から1の間で決まります。1に近ければ近いほど「民主的」、0に近ければ近い程「非民主的」であることを示します。
この12年間に金(ゴールド)の保有量を増やした国々のほとんどが、「非民主的」です。「民主主義」をうたい、行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性、自由経済、競争による経済などを重視する、いわゆる「西側諸国」と反対の位置にいる国々です。
こうした「非民主的」な「非西側」と言える国の数は、以下のとおり2010年ごろから増加傾向にあります。同時に「民主的」な国の数は減少傾向にあります。
金(ゴールド)の保有高を増加させる傾向がある「非民主的」な国々が増加傾向にあるため、今後、中長期的視点で、こうした国々の中央銀行による金保有がさらに加速する可能性があります。
図:自由民主主義指数0.4以下および0.6以上の国の数(1945~2021年)
こうした国々が金(ゴールド)の保有量を増加させる動機は、自国の通貨や、政治・経済への不安が挙げられますが、「脱ドル」、「脱西側」、「脱米国」など、西側と「対立」する姿勢を鮮明にする意図が含まれていると、筆者は考えています。