為替DI:12月のドル/円、個人投資家の予想は?

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスのときは「円安」見通し、マイナスのときは「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 DIは「強さ」ではなく「多さ」を測ります。DIは、円安や円高の「強さ」がどの程度なのかを示しているわけではありませんが、個人投資家の相場観が正確に反映されていると考えるならば、DIの「多さ」は同時に「強さ」を示すことになります。

「ドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券が11月末に実施した相場アンケート調査によると、個人投資家1,519人(※)のうち62%(938人)が、12月のドル/円は「ドル安/円高」に動くと予想しています。

 円高見通しは、前月に比べて39ポイント増えました。

 一方、「ドル高/円安」予想は38%(581人)に減りました。

 円安見通しから円高見通しを引いたDIは▲24で、円高見通しの多さを示しています。

(※)「円高」、「円安」のいずれかを回答した個人投資家の総数。「中立」は含めず。

米利上げは「どれだけ早く」から「どれだけ長く」へ

 米国のインフレ指標であるCPIの10月は前年比+7.7%で、予想よりも低い伸びとなりました。今年3月からずっと円安街道を北上していたドル/円は、この結果を受けて1日の値動きとしては今年最大となる7円も急落。

 いわゆる「CPIショック パート2」が起きたのです。さらにその後に発表されたPPI(卸売物価指数)も低下して、ドル/円は10月21日につけた151.95円のピークから約1カ月の間に14円も円高に動きました。

 インフレ率の低下は、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げがついに効き始めたということで、これ以上の積極的利上げは、リセッションというマイナス効果の方が大きくなるので、そろそろペースを落とす頃合いだという見方が広がっています。

 FOMCは、これまで4会合連続で0.75%の利上げを実施してきましたが、今年最後の12月会合では、利上げ幅を0.50%に緩め、さらに来年のいずれかの時点で利下げもありえると考え始めています。しかし、FRBはマーケットの「過剰な楽観論」を快く思っていないのも事実です。

 ウォラーFRB理事は10月CPIについて「ある時点のデータに過ぎず、あまり深読みしてはいけない」と警告します。現在の8%近いインフレ率は、FRBの目標値2%と比較して「とんでもなく高い」と指摘し、利上げ休止期待を完全否定しています。

 フィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁によると、そもそも12月FOMCの0.50%利上げを「ハト派的」と見なすのが間違いということです。なぜなら「FOMCは1983年から合計88回利上げをしてきたが、そのうち75回は0.5%より低かった。」

 FOMCの11月会合の議事録には「参加者の大部分は、引き上げペースの減速が近く適切となる可能性が高いと判断した」と記されています。FOMCは、12月0.50%、来年2月0.25%、3月0.25%と利上げした後、休止モードに入る。現在4.00%のFF金利は、5.00%前後が打ち止めになるというのがマーケットの予想です。

 もっとも、投票権を持つ最右派のセントルイス連邦準備銀行のブラード総裁は、「十分に引締め的な金利水準とは5%から7%である」として、マーケット予想を上回る水準になるまで利上げする考えを持っています。

 しかし重要なことは、パウエルFRB議長をはじめFRBの多くのメンバーが、「政策金利の終着レートはまだ高くなるべきだ」という考えを共有していることです。「利上げ休止」は累積効果を測定するためであって「利上げ終了」ではない。インフレの状況次第によっては再開する可能性が高いのです。

 インフレ制御のためには、過熱している雇用市場を冷まさなくてはいけないとパウエル議長は考えています。就業者数が伸びないまま平均賃金上昇率の高止まりが続くなら、インフレ警戒を強め大幅利上げということもありえます。利上げ終了のハードルは依然高い。FRBがハト派に転向したと考えるのはまだ早いのです。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券の相場アンケート調査によると、12月のユーロ/円は、個人投資家1,189人(※)のうち、59%(699人)が「ユーロ安/円高」を予想しています。ユーロ安見通しは、前月に比べて33ポイント増えました。

 一方「ユーロ高/円安」予想は41%(490人)でした。

 
 ユーロ高見通しからユーロ安見通しを引いたDIは▲18で、ユーロ安見通しの多さを示しています。
(※)「円高」、「円安」のいずれかを回答した個人投資家の総数。「中立」は含めず。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 楽天証券の相場アンケート調査によると、12月の豪ドル/円は、個人投資家1,100人(※)のうち、7%(625人)が「豪ドル安/円高」を予想しています。豪ドル安見通しは、前月に比べて34ポイント増えました。
 
一方「豪ドル高/円安」見通しは43%(475人)でした。
 豪ドル高見通しから豪ドル安見通しを引いたDIは▲14で、豪ドル安見通しの多さを示しています。
(※)「円高」、「円安」のいずれかを回答した個人投資家の総数。「中立」は含めず。

今後、投資してみたい金融商品・国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

 今回は、質問「今後投資してみたい国(地域)」で「アメリカ」「インド」「日本」を選択した人の割合に注目します。各質問の選択肢は、ページ下部の表のとおり13個です。(複数選択可)

図:「アメリカ」「インド」「日本」を選択した人の割合の推移

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 2022年11月の調査では、「アメリカ」を選択した人の割合は61.35%、「インド」は39.89%、「日本」は41.21%でした。アメリカは2021年12月をピークに反落、インドは同時期から反発色を強めています。

 2009年(グラフの最も左)から2016年ごろまでを振り返ると、多くの期間で「アメリカ」と「インド」の推移は逆の関係にあったことがわかります。

 アメリカは「先進国」、インドは「新興国」であるため、投資家が「先進国」に関心を寄せやすいときにはアメリカが選択され、「新興国」に関心を寄せやすいときにはインドが選択されやすかったと言えます。

 こうした傾向に転機が訪れたのが2016年6月の英国のEU(欧州連合)離脱を問う国民投票です。これを機に、「アメリカ」を選択する人の割合が急低下しました。それまでの傾向をなぞるのであれば、「インド」を選択する人の割合は急上昇することになりますが、そのようにはなりませんでした。

 英国国民が英国のEU離脱を支持したことにより、世界に「民族主義(ナショナリズム)」がまん延し、戦後、先進国が築き上げてきた自由貿易・自由競争などの考え方が後退する懸念が浮上しました。各種市場はそれを嫌気し、不安定化しました。

 市場の不安定化の波は「先進国」だけにとどまりませんでした。波は「新興国」にも押し寄せ、新興国の株式市場も不安定化しました。こうした流れが、「アメリカ」も「インド」も選択しにくい環境を作ったと、考えられます。その後3年程度、両者の割合に大きな変動はみられませんでした。

 2019年ごろから米国の株価指数が急反発したことを受け、「アメリカ」が急上昇する場面がありましたが、2021年12月をピークに、下落に転じました。一方「インド」は、「アメリカ」の下落を横目に、反発し始めました。

 英国国民が英国のEU離脱を支持したときのような大きな混乱が生じると、「先進国」はおろか、「新興国」まで選好されにくくなる場合があるわけですが、足元、「インド」は選好されています。

 このことは、投資家が足元の環境を、そこまでの大きな混乱は起きていない(多少の混乱は起きているが、解消の糸口が見えつつある)と、解釈している可能性があることを示唆しています。また、同じ新興国でも「中国」や「ロシア」を選考しにくい状態にあることも、(消去法的に)「インド」が選考される一因になっていると考えられます。

 足元の市場環境が、「インドですら選好されない悪環境」でないことを、アメリカ反落・インド反発が、示していると考えられます。引き続き、「今後投資してみたい国(地域)」における、「アメリカ」と「インド」を選んだ人の割合に、注目していきたいと思います。

表:今後、投資してみたい金融商品 2022年11月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成

表:今後、投資してみたい国(地域) 2022年11月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成