毎週金曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄:アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD、NASDAQ)、スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI、NASDAQ)
アドバンスト・マイクロ・デバイス
1.AMDの2022年12月期3Qは、29.0%増収、小幅赤字
アドバンスト・マイクロ・デバイス(以下AMD)の2022年12月期3Q(2022年7-9月期)は、売上高55.65億ドル(前年比29.0%増)、営業損失6,400万ドル(前年同期は9.48億ドルの黒字)となりました。10月6日付けで会社側から公表された今3Qの業績見通し下方修正とほぼ同じ内容でした。
ザイリンクス買収に関連する無形固定資産の償却は、原価段階で4.12億ドル、販管費で5.90億ドル、計10.02億ドルとなりました。これがなければ営業利益はほぼ前年並みでした。
表1 AMDの業績(ザイリンクス買収後)
2.セグメント別動向:引き続きデータセンターとエンベデッドが牽引
データセンター:今3Q業績をセグメント別に見ると、データセンター・セグメント(サーバー用CPU「EPYC」シリーズが中心)は、売上高16.09億ドル(前年比45.2%増)、営業利益5.05億ドル(同64.0%増)と好調を維持しました。中国向けは、今年3月末からの上海ロックダウンによる景気減速の影響を受けデータセンター向けCPUの需要も減少した模様ですが、アメリカ向けは景気減速の影響を受けながらも好調を維持し、データセンター・セグメントの業績を牽引しました。
今3Qは一部顧客に対して2022年11月に正式に発売する新型CPU「Genoa」(生産ラインはTSMC5ナノ)を先行出荷しました。Genoaはこれまでにない高性能サーバー用CPUであり、AMDのサーバー市場、特にデータセンター市場でのシェア拡大の決め手になると思われます。
今4QもEPYCシリーズによる増収増益が続くと思われます。競合するインテルの新型サーバー用CPU「Sapphire Rapids」(サーバー用CPUのXeonシリーズの最新型、インテルの10ナノ工場「インテル7」で生産する計画)は2023年1月に発売される予定ですが、歩留まりが悪く量産が遅れると言われています。2022年11月からEPYCシリーズに最新鋭のGenoaが加わることで、さらにシェアを上げることが期待されます。
クライアント:クライアント・セグメントは、売上高10.22億ドル(同39.6%減)、営業損失2,600万ドル(前年同期は4.90億ドルの黒字)となりました。パソコン市場の減少に伴って、流通在庫を整理するために需要を下回るパソコン用CPUの供給を行ったため大幅減収、小幅赤字となりました。
パソコン用CPUの流通在庫の整理は、会社の見通しに比べて遅れているようです。PC市場も弱い動きが続いており、今4Q売上高は今3Qよりも減少し、赤字も拡大すると予想されます。回復は来期2023年12月期に入ってからとなると思われます。
今3Qに、Ryzen7000シリーズでデスクトップPC向けの最新型CPU(デザインルールは5ナノ)を発売しました。2023年前半には5ナノのノートPC向けCPUも発売される予定です。今年から来年にかけてのAMDの最新型パソコン向け5ナノCPUの発売は、パソコン景気回復期のAMDの業績向上に寄与すると思われます。
ゲーミング:ゲーミング・セグメント(PS5、Xbox向けチップセットとパソコン用GPUなど)は、売上高16.31億ドル(同13.7%増)、営業利益1.42億ドル(同38.5%減)となりました。クリスマスシーズンを控え、季節的にPS5とXboxビジネスは増加しましたが、パソコン用GPUはパソコン市場の減少と暗号資産マイニング需要の減少に伴う流通在庫の整理のため減収となりました。
クリスマス需要に向けたゲーム機向けチップセットの出荷は例年3Qがピークとなるため、今4Qはゲーム機向けが今3Q比で減少する見込みですが、PS5と新型Xboxの需要が依然として強く、TSMCの7ナノラインにも空きが出てきた模様なので、ゲーム機向けの増産の可能性もあります。パソコン用GPUは引き続き減少すると予想されます。今4Qも減収減益となると予想されますが、ゲーム機向けチップセットの増産が可能になれば業績好転もありうると思われます。
エンベデッド(組み込み半導体):このセグメントのほとんどが2022年2月に買収が成立したFPGAの大手メーカー「ザイリンクス」の事業です(FPGAは製造後に購入者、設計者が構成を設定できる集積回路。ザイリンクスは世界で最初にFPGAを開発した会社でFPGAのトップ企業)。今3Qは売上高13.03億ドル、営業利益6.35億ドル(前3Q(ザイリンクス買収前)は売上高7,900万ドル、営業利益2,300万ドル)となりました。ほぼ今2Q並みの業績となりました。航空宇宙、防衛、自動車、産業、通信の各分野で需要が増加しており、特に航空宇宙、防衛、自動車向けの需要が増加しました。
エンベデッド・セグメントは、今4Q、来期ともに業績好調が予想されます。
その他:その他セグメントは営業損失13.20億ドルでした。このうちザイリンクス買収関連の無形固定資産の償却は、原価と販管費合わせて10.02億ドルです。今4Qと来期にこの償却額がいくらになるのか不明ですが、いずれは少なくなると思われます。今回の楽天証券予想では、その他セグメントの営業損失を2022年12月期49億ドル(前回予想は50億ドル)、2023年12月期40億ドルと予想しました。
この損失額が少なくなれば、全体の営業利益は増加するため、今後のザイリンクス関連の無形固定資産の償却額に注目したいと思います。
表2 AMD:セグメント別業績(四半期)
表3 AMD:セグメント別業績(通期)
3.2022年12月期、2023年12月期楽天証券業績予想は前回予想とほぼ同じ。来期は業績回復へ。
今4Qの会社側ガイダンスは、売上高55億ドル±3億ドル(中心値で前年比14%増)です。2022年12月期通期の会社側売上高ガイダンスは235億ドル±3億ドル(中心値で同43.0%増)で前回予想の263億ドル±3億ドルから下方修正されました。
前述のように、今期、来期をセグメント別に見ると、データセンター、エンベデッドは好調持続が予想されます。ゲーミングは今期は減速すると予想されますが、ゲーム機向けチップセットの増産次第では今4Q以降に回復する可能性があります。ただし、クライアントは当面は低迷が続くと予想されます。
この見方から楽天証券では、2022年12月期通期を売上高236億ドル(前年比43.6%増)、営業利益13億ドル(同64.4%減)、2023年12月期通期を売上高284億ドル(同20.3%増)、営業利益42億ドル(同3.2倍)と予想します。2022年12月期については営業利益予想を14億ドルから13億ドルに下方修正しました。2023年12月期予想は前回予想と同じです。
セグメント別では、2022年12月期は、ゲーミング営業利益を前回予想の10億ドルから8億ドルに下方修正し、その他の営業損失を50億ドルから49億ドルに若干上方修正(損失縮小)しました。また、2023年12月期はデータセンター営業利益を前回の26億ドルから27億ドルへ上方修正し、ゲーミング営業利益を前回の12億ドルから11億ドルへ下方修正しました。2022年12月期と2023年12月期のゲーミング営業利益予想を下方修正した理由は、パソコン用GPUの低迷が長引く可能性があるためですが、前述のようにPS5とXboxビジネスの増加次第では、これよりも大きな営業利益になる可能性はあると思われます。
今後の焦点は、まずデータセンター・セグメントで今4Qに投入されるGenoaの売れ行きです。おそらくはハイパースケール・データセンター(超大型データセンター)用に出荷されると思われますが、AMDだけでなく、インテル、エヌビディアが程度の差はあれ今のサーバー用データセンター用CPUの性能を大きく上回る新型CPUを今年から来年にかけて相次いで発売する見通しです。これがどの程度売れるのかが2023年12月期を予想する上での大きなポイントです。
次はエンベデッド(組み込み半導体)です。前述のように、航空宇宙、防衛、自動車に大きな需要があります。採算が良いため、データセンターと並ぶ業績の牽引役となりそうです。
また、TSMC、サムスン電子、インテルなどの半導体大手が高水準の設備投資を継続していることは、ファウンドリ(半導体受託生産事業者)に対して発注する立場にあるAMDのようなファブレス半導体メーカーにとっては、拡販余力ができるという意味で事業全般にとってプラスです。
4.今後6~12カ月間の目標株価は前回の80ドルを維持する
AMDの今後6~12カ月間の目標株価は、前回の80ドルを維持します。2023年12月期楽天証券予想EPS(1株当たり利益)2.22ドルに再成長に向けた動きを考慮した想定PER(株価収益率)35~40倍を当てはめました。中長期投資の対象として投資妙味を感じます。