そろそろ年末調整のシーズン

 早いものでもう11月。勤務先から年末調整のお知らせが届いたり、保険会社から保険料控除証明書のハガキや封筒が届いたりする時期となりました。

 ところで、本コラムをご覧の個人投資家の皆さんは、会社にお勤めの方が多いと思います。年末調整の提出書類をしっかりと書けているという自信はありますか?

 筆者の本業は税理士ですので、年末調整の書類、例えば保険料控除申告書の記載内容をみる機会がありますが、正直申し上げて、かなりの割合で誤っています。

 筆者の顧問先であれば、誤りについては訂正したり、不足資料の追加提出を求めたりして、正しい内容で年末調整ができるようにしていますが、会社によっては、提出された書類の内容に誤りがあってもそのままスルーされてしまっているかもしれません。

 そこで今回と次回の2回にわたり、生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除といった各種保険料控除について、年末調整の際に誤りやすいポイントをお伝えしたいと思います。

 誤りがあると、本来はできたはずの控除がなされず余計な税金を支払う羽目になりますので、しっかりと最低限のことは押さえておきましょう。

 今回は生命保険料控除の注意点をいくつかお伝えします。

生命保険料控除の注意点(1)保険料控除には「旧」と「新」がある

 生命保険料控除は以前大きな改正がありました。その改正前に加入した生命保険料と、改正後に加入した生命保険料とで、それぞれ「旧生命保険料」、「新生命保険料」と区別しています。

 もともと旧生命保険料控除は「一般」と「個人年金」の2種類で、それぞれ控除額が最大5万円、合計で10万円(所得税の場合。以下同様)となっていました。

 新生命保険料では、「一般」「個人年金」に加え「介護医療」が対象となり、それぞれの控除額は最大4万円に下がりましたが、種類が3種類に増えたため、最大控除額の合計は4万円×3=12万円に増えました。

 なお、旧生命保険料と新生命保険料が混在している場合は、一定の算式によって控除額が計算されます。これは、保険料控除申告書の記載に従って計算すれば大丈夫です。

 保険料控除申告書に、生命保険料控除証明書の記載を転記する際、この「旧保険料」と「新保険料」の欄を誤って書いてしまう方が非常に多いです。

「旧」か「新」かは生命保険料控除証明書に記載がありますので、よく見て誤りのないようにしてください。

【参考】

令和4年分 給与所得者の保険料控除申告書

令和4年分 給与所得者の保険料控除申告書 記載例

生命保険料控除の注意点(2)証明額は通常(ご参考)を使う

 二つ目の注意点、これも非常に多い誤りです。

 生命保険料控除では、実際に支払った保険料の額(配当金がある場合はそれを引いた額)を保険料控除申告書に転記するわけですが、生命保険料控除証明書をみると、その多くに金額が2種類書いてあることが分かります。

 例えば、ある生命保険会社の生命保険料控除証明書には、金額が二つ書かれていて、上部の金額には「証明額」と記載され、下部に(ご参考)として「申告額」と記載されています。

 なぜこのように二つの金額が書かれているかというと、生命保険会社が証明書を発行する時期(多くは10月ごろ)では、証明書発行より前(例えば9月末)までに支払われた保険料しか証明することができないからです。

 ただ、大部分は証明書発行より後の10月、11月、12月もこれまでと同様保険料が支払われるわけですから、それを前提に1年間支払うであろう金額がいくらかを「ご参考」として記載してくれています。

 ここでよくある間違いが、上に書かれた金額が「証明額」で、下に書かれた金額が「ご参考」のため、上にある「証明額」の金額を使うのだ、と勘違いしてしまうケースです。

 実は生命保険料控除証明書で用いるのは下に書かれた「ご参考」の方なのです。ご参考と書かれているのでこちらは使わないと思ってしまいがちですが、使うのはこちらです。

 ただし、証明書が発行された後に、例えば保険を解約したため保険料の支払いをしていない、という場合は「ご参考」の金額ではなく、実際に支払った金額を書くことになります。

誤って記載してしまった場合はどうなるか?

 もし、下の「申告額」ではなく上の「証明額」を書いて提出した場合、おそらく会社によって対応が異なると思います。

 親切な会社であれば、本人に確認が入り、下の額ではなく上の額で本当に良いのか聞いてくれると思いますので、そこで修正が可能です。

 でも、先ほど申し上げたように、例えば10月や11月に保険を解約すれば、下の「申告額」ではなく上の「証明額」が正しいという可能性もあります。そのため、本当は申告額で申告すべきところを誤って証明額で申告してしまっても、会社の担当者側は何も言ってこないかもしれません。

 そうなると、年払いなどでない限りは「申告額」より「証明額」の方が小さい額になりますので、本来受けられたはずの生命保険料控除よりも少ない金額が控除されることになり、余計な税金を支払ってしまう…という可能性が生じます。十分に注意しましょう。

年末近くに新規に保険に入った場合は?

 11月や12月に新規で保険に加入した場合は、生命保険料控除証明書の発行が遅れます。保険加入のタイミングによっては、年明けになってしまうこともあります。

 そうなると、年末調整の資料提出時期に間に合わない可能性もありますから、例えば保険会社に生命保険料控除証明書に代わる書類を作成してもらって会社に提出したり、生命保険料控除証明書が発行されるまで年末調整の手続きを待ってもらったり、もしくは生命保険料控除証明書が発行されるのが遅ければ、年末調整の計算をやり直してもらうということになります。

 もし、会社側が再度の年末調整の計算をやってくれないのであれば、(翌年1月末までは会社側が必要であれば再計算をするということにはなっていますが)確定申告をし、そこで生命保険料控除について申告すればよいでしょう。

 誤っていても指摘を受けなければ修正ができず、無駄な税金を支払ってしまうかもしれません。生命保険料控除証明書や保険料控除申告書の記載例などをしっかりみて、誤りのないように注意して記載するようにしてくださいね。