一般投資家にとっての為替リスク
本稿の執筆時点(2022年10月)では、年初来進んできた円安が話題になっている。ドル円の為替レートで見て約30円の円安なので注目されるのはもっともだ。一方、内外の株式市場では、主に米国FRB(連邦準備制度理事会)による急激な金融引き締め(主に政策金利の引き上げ)を受けて、株価が大きく下落している。
最近投資を始めた投資家は、米国株式をはじめとする外国の株式に投資信託などを通じて投資している方が多いが、彼らは、株価の下落が円安で救われた格好になっている。場合によっては「為替リスクは、株価下落のヘッジになる」と思っているかも知れない。
この認識は危ない。多くの場合は異なるはずだ。為替リスクは原則として「追加的なリスク」だ。
或いは、外貨の円に対する相対的な高金利に魅力を感じて外貨建ての債券や外貨預金などに投資していた向きは、為替リスクを追加的な収益を提供してくれるボーナス的なリターンの源泉だと感じているかも知れない。
一般論ではあり得ない。円高を経験すると逆の感想を持つだろう。
また、全く外貨建て資産に投資していない人は、「円安でインフレになっている」というニュースを見て、インフレヘッジのために外貨建ての資産を持たなければならないのだと思い始めているかも知れない。
日本の対GDP輸入比率は案外大きくない。資産をインフレヘッジのために大きく外貨シフトするのは過剰反応だ。
何れの見方も、少なくとも「一般論」として理解するには無理があるのだが、自分のお金について現実に発生した損得は過剰な説得力を持つことがあるので、誤解したままの人が少なくないかも知れない。
今回は、投資と為替リスクの関係について一般的な性質を整理しよう。
運用商品販売ビジネスと為替リスク
一方、金融ビジネスの提供者側の観点で為替リスクを考えると、大きく二つの意味がある。
一つは、外貨建て資産は(外貨表示の)名目リターンの高さに顧客を惹きつける魅力があるが、為替リスクがあって損をする可能性が厄介だとするものだ。実際に、「損をするかも知れない」という可能性を知ったら全く投資したくないと思う個人は少なくない。商品の売り手にとって、為替リスクは、顧客の気づいて欲しくないか、軽視して欲しいリスク要因で厄介の種だった。
もう一方で、為替リスクを逆手に取るビジネスもある。日本円に対する悲観論を述べて「将来ハイパーインフレになると円が無価値になるので、外貨建て資産(例えば米ドル建て債券や海外不動産)を持っていないと大変なことになる」と不安を喚起してビジネスを作るやり方もある(あまり感心しないが、引っ掛かる顧客がいるのでなくならない)。
外貨建ての資産運用商品は、仕組みが複雑で投資家が勘違いしやすい落とし穴が複数あり得る。また、為替も含めて実質的な手数料を取ることが出来る場所が複数生じる場合が多く、概して手数料は高い。
「(対面営業や口コミで)人間が勧めてくれる外貨建て運用商品は全て断る」と決めておくことをお勧めする。運用商品は自分で選ぶ方が安心・安全だ。