為替リスクにリスク・プレミアムはあるか

 筆者がかつてファンドマネージャーとして、また機関投資家の運用の研究部署で悩んで考えたのは、「為替リスクを負担することにリスク・プレミアムはあるか?」という問題だった。

 1990年代のことだが、ある年金基金(筆者が直接関わった基金ではない)の運用委員会のトップを務める大学教授の某氏は、「外貨建て資産は為替リスクがある。リスクがあるから、当然期待リターンが高いのです」と発言していて、「外国から日本に投資している投資家も為替リスク(同じ大きさだ)を負担しているのに、こちらでリターンが発生する時には、あちらがマイナスになるのだから、件の大学教授は間違っているのではないか」と筆者は考えた(理屈は当然こちらの方が正しかった)。

 為替リスクの負担に関しては、細かな話をすると、累積経常収支分だけの為替リスクポジションがヘッジ出来ずに残るのだが、資本取引の大きさに対して影響が軽微であることと、リスクポジションの保有に対するリスク・プレミアムがプラスなのかマイナスなのかは世界の投資家の他の資産のポートフォリオ選択に影響を受けて確定しないことから、「為替リスクの負担は、大まかには、ゼロサム・ゲーム的な構造になっている」と考えていいと当時は結論づけた。現在もこれでいいと考えられるし、FX(外国為替証拠金取引)の拡大の様子などを見ていると、為替市場のゼロサム・ゲーム的な参加者の厚みは増している。

「為替リスクの負担には、リスク・プレミアムはない」と結論づけていいだろうし、個人投資家もそう考えていていいだろう。

 また、個人投資家が年金基金と同じように「長期的には、為替レートの影響はプラスでもマイナスでもない」という原則を信じて、外貨建て資産を為替ヘッジなしで持つことは、現時点では「概ね現実的だ」と思っている。

 但し、「為替リスクの負担にはリスク・プレミアムがない」のだとすると、何年か後に来るであろう円安から円高への巻き戻し局面にあって、年金基金、ひいては個人投資家が為替リスクに対して何もしなくていいのかについては、些かの躊躇がある。

「現在の円安が投資家にとって幸運である分だけ、将来の為替リスクが怖い」と言うと少々脅かしすぎだろうか。

 今直ぐに脅かすつもりはないのだが、筆者は投資家よりも少し先に心配して対策を考えておきたいと思っている。