どんでん返しが起こった「副業300万円問題」
以前、こちらのコラムで2回に分けて解説しました「副業300万円問題」。副業収入300万円以下の場合は事業所得ではなく雑所得とする、という通達の改正案が8月に発表されました。
国税庁から通達などの改正案が発表されると、内容に関して意見の募集はするものの、ほぼ原案通りで改正されるというのが通常のケースです。
ところが、今回は7,000通を超える大量の意見が集まり、「副業を後押しする政府の考え方に反するのではないか」という声も高まっていました。
そこで、国税庁は7日に改正通達を発表し、「副業収入が300万円以下かどうか」の判断基準に代え、「記帳および帳簿書類の保存があるかどうか」で事業所得か雑所得かを区分する、という形に取り扱いを変更しました。まさに多くの国民の意見が国税庁を動かし、どんでん返しが起こったと言えるでしょう。
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具体的にどう変わったのか?
当初の改正案では、「副業収入が300万円以下であれば雑所得、300万円超であれば事業所得」と、収入金額で足切りラインを設けていました。
しかし、副業を始めたばかりの方がすぐに年間収入300万円に達するのは難しいでしょうし、中には頑張ってもなかなか年間の副業収入300万円まで達しない人もいます。
これでは、過度な節税を一切たくらんでいない、健全な方々にとってもマイナスの影響を生じる改正になってしまいます。そのため、多くの反対意見が寄せられました。
そこで、10月7日に国税庁から発表された改正通達(所得税基本通達35-2)では、収入金額の足切りは行わず、事業所得者に義務付けられた記帳・帳簿書類の保存を行っているかどうかで事業所得か雑所得かを判定することとしました。
これにより、副業収入が300万円以下であっても、記帳・帳簿書類の保存を行っていれば、多くのケースでは事業所得と認められることになりました。
なお、当初案では主たる収入(給与収入)がある人の副業収入についての取り扱いでしたが、今回発表された改正通達では、収入の内容が本業の収入か副業収入かに問わず改正内容が適用されることになっています。
国税庁の発表詳細はこちらから
過度な節税封じには個別に対応
ただし、記帳・帳簿書類の保存をしていれば全て事業所得として認められるようになったかと言えば、そうではありません。
そもそも、「副業300万円問題」が生じた背景には、会社員がほとんど事業としての実態がないものを事業に仕立て上げ、収入をはるかに上回る経費を計上し、損失を給与所得と相殺して節税する、というスキームを封じ込みたいという国税当局の考えがありました。
しかし、その対処策として「300万円以下の収入は雑所得」という改正案が発表されたことで、単に副業収入が少ないだけの人にも影響が及ぶこととなり、混乱の原因となったわけです。
10月7日に発表された改正通達では、上で述べた通り、「記帳・帳簿書類の保存の有無」で事業所得と雑所得を線引きしたわけですが、これだけでは、本来国税当局が対処したかった過度な節税スキームを封じることはできません。
そこで、記帳・帳簿書類の保存をしている場合でも、以下のケースは事業所得ではなく雑所得に分類される可能性が高くなります。
(1)副業収入の額が僅少の場合
副業収入がここ3年ほどの間300万円以下で、かつ主たる収入(給与収入など)に対する割合が10%未満の場合が該当するとされています。
例えば、給与収入800万円、副業収入50万円といった場合です。
(2)その所得を得る活動に営利性が認められない場合
例えば、副業の所得が例年赤字で、かつ赤字を解消するために営業活動などで収入を増やすなどの努力をしていない場合が該当するとされています。
また、そもそも原則として、副業の収入を得るための活動の規模により、事業所得か雑所得かが判定されることは従来から変わりありません。
改正通達の説明資料においても、記帳および帳簿書類の保存がある場合は「概ね事業所得」とされていて、事業的規模で活動していないと判断されれば、雑所得に区分される余地があることは留意してください。
まとめ:収入金額を上げる努力をしつつ、しっかり記帳し、帳簿書類を保存しよう!
そもそも少額の収入しかないのに事業所得として過度な節税をすることは論外といえ、たとえ副業といえども収入を増やすべく頑張っているのであれば、税務上も事業所得として認められることで、さまざまな恩恵や特典を受けたいものです。
今回の話をまとめると、
〇原則として、副業の収入を得るための活動の規模により、事業所得か雑所得かが判定されることは従来から変わりない。したがって、例えば副業を始めたばかりでまだ収入が少ない場合は、しっかりと営業活動などを行って収入を増やし、事業的規模で行っていることを示す
〇事業所得者は記帳・帳簿書類の保存が義務付けられているため、会計ソフトを用いるなどしてきちんと記帳するとともに、請求書・領収書などの書類を保存しておく
この2点を意識して副業を行っていけば、おおむね事業所得として認められることになりますし、国税当局は記帳・帳簿書類の保存がなくても収入金額が300万円超の場合は事業所得と認める可能性があるとしています。
このことからも、いわゆる「副業300万円問題」は一応の解決をみたものの、まずは副業収入300万円超を目指すことを目標にするのがよいのではないでしょうか。