今回は、株式ポートフォリオのデータをたくさん見ていただこう。
TOPIX(東証株価指数)をベンチマークとするインデックス・ファンドを、銘柄数を変えて何通りか作ってみた。現在の推定リスク・データで、どの程度の銘柄数があれば、どのくらいの精度のポートフォリオを作ることができるか、という点を大まかに見ていただければいい。

ポートフォリオの作成条件は、あらまし以下の通りだ。まず、銘柄数の上限に関しては、10、20、30、50、100の5通りを作ってみた。全てに共通の条件として、組み入れ候補銘柄は東証一部上場銘柄全部、ファンドの金額は100億円(株価の関係で出来上がりポートフォリオには若干の凸凹がある)、一銘柄の投資ウェイトには制限なし、あとはTOPIXに対する推定トラッキング・エラー(年率標準偏差)をできるだけ小さくするように最適化計算を行う。計算に使用したソフトウェアは「日立Riskscope」(日立製作所の製品)で、推定リスクのデータは3月28日を終端とする週次データを元に推定したものを利用した。

直近の週次データによるTOPIXの推定トータル・リスクは17.92%だった。一年前は10%そこそこ程度だったので、サブプライム問題発生以降の株式市場のボラティリティー上昇が反映している。ちなみに、最近のデータにもっとも影響を受けやすい日次のリターンからリスクを推定したデータセットで計算すると、TOPIXの推定トータル・リスクは28.13%にもなる。日々、トレーディングに励んでおられる方には、こちらの数字の方がリアリティーがあるかも知れないが、安定的なポートフォリオ運用を考える上では、週次のデータの方が良さそうだと考えて、今回は、週次データを使った。

10銘柄インデックス・ファンド

はじめに10銘柄でインデックス・ファンドを作ってみた。推定トラッキングエラーは、6.13%と小さくない。投資信託などの、平均的なアクティブ・ファンドのアクティブ・リスクの水準よりもたぶん大きいだろうと思われる。

ただし、個人が自分の資金の運用でポートフォリオを持つ分には、アクティブ・リスクがプラスに働くかマイナスに働くかはおおむね半々なので、ファンドのトータル・リスクが18.39%とほぼTOPIX並みでもあり、このような雰囲気のポートフォリオを持っていても構わないだろう。推定トラッキングエラーをもたらしている要因の主なものは、「企業規模」といった一般的性質を表すファクター値や業種配分の差などのファクター・リスクよりも、個別の銘柄リスクであり、これが5.57%もある。

(表1)10銘柄インデックス・ファンドの推定リスク

計算されたファンドの具体的な銘柄と投資ウェイトも見て頂こう(表2)。時価総額の大きな銘柄のいくつかと、四国コカ・コーラボトリングのような地味な銘柄が組み合わせられている。表の右の三つの欄は、いずれも日立Riskscopeが推定した個々の銘柄のリスク・データで、「ベータ」とあるのはβ値(TOPIXへの感応度)、「トータルリスク」は個々の銘柄のリスク推定値、「個別銘柄リスク」とはファクター(一般ファクターと業種ファクターを含む)では説明できない個々の銘柄のリスクの大きさだ。四国コカ・コーラボトリングは、個別銘柄リスクが小さい点でポートフォリオ全体のリスク低減に貢献している。

(表2)10銘柄インデックス・ファンドの銘柄と構成比

20銘柄インデックス・ファンド

同じ要領で、20銘柄のインデックス・ファンドのデータを見て頂こう(表3、表4)。推定トラッキングエラーは縮小はしたものの4.26%とまだ大きい。20銘柄では、個別銘柄リスクを十分に低下させることができない。

(表3)20銘柄インデックス・ファンドの推定リスク

最適化計算でピックアップされた銘柄は、基本的に10銘柄インデックス・ファンドとよく似ている。

(表4)20銘柄インデックス・ファンドの銘柄と構成比

30銘柄インデックス・ファンド

30銘柄にすると、こんな感じだ(表5、表6)。やはり個別銘柄リスクが主な要因となって、推定トラッキングエラーは十分に低下していない。

投資顧問などのアクティブ・ファンドの運用者で、30銘柄程度の銘柄数で運用する人が時々いるが、30銘柄では、「こうありたい」と意図したリスク内容からのブレが大きすぎて、プロの運用プロダクト(運用の意図と結果を一貫して顧客に説明できなければならない)としては、銘柄数が不十分であることが分かる。

(表5)30銘柄インデックス・ファンドの推定リスク

銘柄は以下のような感じだ。退屈と言えば退屈なポートフォリオだが、かなり現実のポートフォリオらしい雰囲気になった。

(表6)30銘柄インデックス・ファンドの銘柄と構成比

50銘柄、100銘柄、200銘柄の場合

もっと銘柄数を増やすとどうなるかを見るために、50銘柄、100銘柄、200銘柄のインデックス・ファンドを作ってみた(表7、表8、表9。銘柄と構成比は割愛する)。推定トラッキングエラーはそれぞれ2.32%、1.33%、0.70%だ。運用商品としてのインデックス・ファンドであれば、1%未満には収めたいところであり、200銘柄程度は必要だということが分かる。

冒頭にも述べたように、個人投資家は、このレベルで推定トラッキングエラー(つまりアクティブ・リスク)にこだわる必要はないが、銘柄数とリスクの減り具合の参考データとして見て欲しい。

(表7)50銘柄インデックス・ファンドの推定リスク

(表8)100銘柄インデックス・ファンドの推定リスク

(表9)200銘柄インデックス・ファンドの推定リスク

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