はじめに

今回のアンケート期間は2012年6月25日(月)から27日(水)です。少し気が早いですが、6月の株式市場を振り返ると、4日の日経平均が8,300円台を下回って年初来安値を更新するなど、一段安の場面も見られましたが、その後はおおむね回復基調を辿っています。欧州情勢の不透明感や、世界的な景気減速懸念などの悪材料が揃う中で、政策当局の対応を期待する動きが相場を支えている格好です。さて、今回のアンケート結果ですが、こうした株式市場の動きを反映してか、日経平均の見通し、為替の見通しともにDIが前回より改善傾向を示しています。ただ、その一方で迷いも感じられる結果となりました。ちょうど、6月28日(木)から29日(金)にEU(欧州連合)首脳会議が控え、アンケート期間の株式市場も見極めムードが強い中での推移となっていることが影響していると思われます。今回のアンケート結果も今後の投資活動のご参考にして頂ければと思います。また、次回も是非、本アンケートにご協力頂ければ幸いです。

楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト
土信田 雅之

1.日経平均の見通し

個人投資家の見方「足元の相場地合いは良くなっているものの、強気になりきれない」

  • Q1:6月25日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △9.01
    (5月28日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △22.69)
  • Q2:6月25日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +1.94
    (5月28日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +8.15)

1カ月先の見通しDIは△9.01となり、前回(△22.69)から大きく改善する一方、3カ月先の見通しDIは+1.94で、前回(+8.15)からは悪化する結果となりました。「足元の相場地合いは良くなっているものの、強気になりきれない」、そんな投資家心理が感じられる印象です。

今回の基準日(2012年6月25日)の日経平均終値は8734.62円でした。前回基準日(5月28日)の終値が8593.15円でしたから、141.47円の上昇です。「はじめに」でも触れましたが、現在の相場を支えているのは政策当局の対応期待です。確かに株価は回復基調ではありますが、出てくる相場の材料はとても良いとは言えないものばかりです。米国や欧州、中国からは冴えない経済指標の発表が相次ぎ、景気減速懸念が高まっているほか、欧州情勢の不透明感も依然として強いままです。17日のギリシャ議会の再選挙も、「緊縮財政に反対する急進左派勢力が勝利し、ギリシャのユーロ離脱や財政破綻が現実味を帯びる」という最悪のシナリオが回避されたに過ぎず、スペインの銀行救済に関しても、具体的な詰めの作業が未確定なほか、そもそも救済に必要な金額が今後も増えるのではという懸念も燻っています。

ちょうど6月は米FOMCやユーロ圏財務相会合、EU首脳会議と、政策当局のイベントが数多く予定されていたため、こうした悪材料が逆に政策当局の対応を促す期待につながったことが相場を支えました。「ここまで悪い材料が揃っているのだから、さすがに政策当局が何とかしないと。」という構図です。ただし、これまでのところ政策当局の対応として目立ったものはありません。現在欧州が抱えている問題についても、議論の進展はEU首脳会議に持ち越しとなっており、期待が失望に変わってしまう展開も想定されています。

実際に、1カ月先の見通しについての回答で一番多かったのが「中立」だったことや、3カ月先の見通しについても、「強気」、「弱気」、「中立」の回答数が拮抗しており、見通し判断に迷いが生じやすい状況だったことが窺えます。

2.為替相場の見通し

  ドル/円 ユーロ/円 豪ドル/円
6月25日 DI=△2.30 DI=△21.02 DI=4.24
5月28日 DI=△5.95 DI=△34.80 DI=△1.10

為替の見通しについては、米ドルのDIが△2.30、ユーロのDIが△21.02、豪ドルのDIが+4.24となりました。前回の結果が米ドル(△5.95)、ユーロ(△34.80)、豪ドル(△1.10)だったため、円高見通しの強さが幾分和らいだほか、豪ドルについては3月調査以来の円安見通しに転じています。

とはいえ、アンケート結果をさらに細かく見ていくと、米ドルの見通しは「円高」、「変わらず」、「円安」の回答数がほぼ同数でせめぎ合っている一方、ユーロについては引き続き「円高」の回答数が高水準であるほか、豪ドルについては「円安」の回答数が増えつつも、「変わらず」の回答数が未だに半数近くを占めており、各通貨で温度差が感じられます。

米ドルについては、リスク回避の後退や景気回復期待が円安材料となったものの、FOMCを控えた金融緩和期待が円高圧力となりました。実際にFOMCでQE3が見送られると、ドル/円は80円台まで円安となる動きを見せました。円高と円安材料が綱引き状態だったため、見通しが割れたと思われます。

ユーロについては、長引く財政・債務問題によるリスク回避姿勢が円高見通しの最も大きな要因です。さらに、ECBによる利下げや資金供給オペなどの可能性もあり、金融緩和の面でも円高圧力はありますが、リスク回避の後退によるユーロ買い戻しの円安圧力の方が強くなると思われ、ユーロの鍵を握るのは、財政・債務問題の進展次第になります。

また、豪ドルについては、中国や新興国市場の経済政策の動向が左右するため、とりあえず「変わらず」の見通しに据え置くという判断が多かったと思われます。実際に、オーストラリア自身の利下げによる円高よりも、中国の利下げによる円安の方に市場は大きく反応しました。

3.今後注目する投資先

(複数回答)

  今回 前回
アメリカ 32.51% 33.92% △ 1.41%
EU諸国 9.01% 7.27% 1.74%
ブラジル 27.74% 26.43% 1.31%
ロシア 11.48% 7.05% 4.44%
インド 31.98% 38.99% △ 7.01%
中国 12.54% 17.84% △ 5.30%
中東・北アフリカ 9.19% 7.93% 1.26%
東南アジア 47.00% 39.21% 7.79%
中南米 9.72% 7.27% 2.45%
東欧 4.42% 2.42% 1.99%

今回のアンケートで特に注目度が下がった投資国はインドと中国です。インドは経済構造改革の遅れなど、政策不透明感の高まりや、大手企業の業績見通し、設備投資縮小といった事業環境の悪化、財政赤字の拡大などが燻っており、株安と通貨(ルピー安)が続いています。また、中国も景気減速を示す経済指標の発表が相次ぐ中、利下げやインフラ設備投資計画の前倒しなど徐々に対策は出ていますが、底打ちが見えるまでは積極的に買いづらい局面が続くと思われます。目先は7月中旬に発表される4-6月期のGDPが注目されそうです。その一方で注目度が上がったのは東南アジアです。+7.79%の上昇となっており、前回(△7.30%)を取り戻した格好です。同じ新興国でも抱えている課題や成長発展の段階で差が出たと思われます。また、アク抜けを期待してか、EU諸国の注目度がやや上昇しています。

4.今後注目する投資商品

(複数回答)

  今回 前回
国内株式 72.08% 75.55% △ 3.47%
外国株式 25.27% 24.67% 0.60%
投資信託 29.86% 21.59% 8.27%
ETF 16.25% 13.66% 2.60%
FX(外国為替証拠金取引) 17.14% 17.40% △ 0.26%
国内債券 7.77% 6.61% 1.17%
海外債券 10.95% 9.25% 1.70%
18.02% 14.54% 3.48%
原油 4.77% 5.95% △ 1.18%
商品 4.24% 6.39% △ 2.15%
REIT 12.54% 8.59% 3.95%
CFD 3.00% 3.08% 0.08%

今回のアンケートではやや比率を落としたものの、国内株式は引き続き70%台の回答比率を維持しました。外国株式も1月以来の25%となっています。全体的な景況感は冴えなくても、業績を伸ばしている企業の株は買えるという理屈で個別株を選好する動きが続いているのかもしれません。

また、前回比率を落とした投資信託やETF、海外債券、金、REITなどの投資分野の比率が回復する傾向が目立ちました。とりわけ金の回答比率が3月調査以来の18%を回復しました。6月に入って下落基調にあった金価格が持ち直してきたことが背景にあると思われます。このほか、原油は3回連続で注目度を下げています。世界的な景気減速懸念による需要後退に加え、地政学的リスクが台頭するなど、先行きが読みにくくなっていることが要因と思われます。

「DI(Diffusion Index)」とは

景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替   DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。

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